786 意味わかんねー
現実味のない現実が起こっている。
これがアニメや映画なら楽しく観させてもらうのだが、自分が生きる世界でやられると、まったく楽しくはなかった。
「……いくらなんでもメチャクチャじゃね? なんであんな動きができんのよ……?」
アニメの中のものとは言え、人のように動くとかあり得んでしょう。記憶は定かじゃねーが、バルなんとかって操縦桿がついてたぞ。
腕の動き、足の動き、回避、攻撃、包丁捌き。まるでサプルの動きを再現しているかのようだった。
……包丁捌きだがよけいに現実味をなくしてるよな……。
「バルキリアアクティーは、擬似電脳操作システムで動いてますから人のように動かされるんです」
あなたは、その知識をどこで仕入れて来たのよ? つーか、オレにはあなたがなにを言っているのかわかんねーよ。
「つまり、スゲーってことだな」
オレにはそれで充分だ。バルなんとかには一生乗らねーんだからよ。あ、後ろの席には乗らしてもらうよ。
空中で竜と格闘するマイシスター。兄としてこれをどう言う思いで見たらイイんだろうな?
あるがままを受け入れたらイイんじゃね?
と言う神の啓示にしたがい、現実味のない現実をあるがままに受け入れることにした。
「にしてもあの竜は強いな」
火竜や飛竜なら秒殺なのに、もう十五分くらいは戦っていた。
「バルなんとかの燃料、大丈夫なのか?」
あれだけ激しい動きをし、なんかビームっぽいものを絶え間なく撃っている。普通の戦闘機ならとっくに燃料切れを起こしてるだろう。いや、戦闘機がどれだけ飛ぶか知らんけどさ。
「あたしにもよくわかりませんが、重量核融合炉搭載とかで、壊れなければ十年は動くそうですよ」
うん、スゲーってことね。了解しました。
バルなんとかはもうスゲーと理解して、深くは考えないが、オレの結界ーー百花繚乱を受けてもかすり傷しか負わされないなんて、どんだけ強いんだ、あの竜は?
「……メチャクチャな竜だよな……」
「あれと戦っているお前さんの妹の方がメチャクチャだと思うがな」
まあ、確かにメチャクチャだとは思うが、それはバルなんとかがあるから。さすがに生身でアレと戦ってたらカイナに引き取ってもらうよ。オレではもうサプルを止められねーもん。
「ベー様。サプル様が苦戦してます。手助けした方がよろしいのでは?」
ミタさんの目には苦戦してるように見えるのか。オレは強敵に歓喜してるように見えるんだがな。
「助けてって言われるまでほっとけ」
サプルにはオレの最高傑作の結界鎧を纏わせてある。例え核爆発が起ころうと無傷で生き残れるよ。
と、バルなんとかが持つビームライフルが竜の噛みつきで破壊され、爆発を起こした。
「さすがに竜も学習するか」
強者の驕りがあったが、さすがに命の危機を感じたようで、必死になってきたようだ。
「そこで逃げれば未来に繋げるんだがな」
退くべきときに退く。それがでなきないヤツに輝ける未来はねーんだよ。
ビームライフルを犠牲に、サプルが百花繚乱で一枚の鱗を砕いた。
たった一枚。されど一枚。サプルにとってはそれで充分。そこから竜を捌いて行った。
一枚。また一枚と鱗を剥がされ、もはや隠せないほどの弱点となっていた。
それで勝負は期した。
生きたまま徐々に捌かれて行く竜。生命力が強いだけに死ぬこともできねーか。哀れだな……。
いや、それは竜に失礼だし、傲慢か。これまで一生懸命生きてきて、自然の摂理に従っているのだから。
「……本当に勝ってしまったか……」
とうとう竜が大地に落ちた。
結界で防いでいたが、大地からの衝撃までは遮断してなかったから、テーブルの上のものが飛び跳ね、竜と同じく大地に落ちてしまった。
土は土に還れと、カップやポット、皿を魔大陸の一部にした。
「竜、まだ生きてるね」
一番騒いでいたプリッつあんが、落ちた竜を哀れんでいた。
「これが弱肉強食。強いものが勝ち、弱いものが負けたのさ」
ただ、それを覆すものが真の勝者であり、魔王ちゃんが目指すところだ。
「まっ、竜はサプルに任せて、暴虐さんと魔王ちゃんのこれからを決めるとしようや」
あっちはあっち。こっちなこっちだ。オレの都合を優先しましょう、だ。
ミタさんに新しいお茶と、料理を出してもらう。
「暴虐さんに魔王ちゃんを鍛えてもらう訳だが、せっかく魔大陸に来たんだし、ここで鍛えてもらうとしようか。元の場所だと邪魔されそうだからな」
まあ、平和な場所で騒がれんのはオレも嫌だし、群雄割拠な魔大陸で騒いでもらおう。戦いが嫌な者はヤオヨロズ国に移住したんだからよ。
「まあ、魔王の三、四人でも倒したら一旦帰ってこいや」
自称でも正当でもなんでも構わねーからよ。
「……魔王を倒してこいとか、どんな無茶振りだよ……」
「魔王の中の魔王になるんだから、魔王の三、四人軽く倒せないようでは話にならんだろうが」
別に時間制限してる訳じゃねーんだ、地道にレベルアップしてこいや。
「水や食料を一年分渡しておく。あとは現地調達しろ。それも修業だ」
ハングリー精神を養うためにも現地に揉まれろ。
「……お前さんの話に乗った少し前の自分を殴ってやりたいよ……」
まあ、殴りたきゃいくらでも殴ればイイさ。痛いのは自分なんだからな。
「魔王ちゃん。魔王を倒すばかりじゃなく味方も作れよ。孤独な王ではなく、万人の王となれ」
それも個人の強さ。魔王ちゃんの武器になるんだからよ。
「わかった。師匠に誇れる魔王となろう」
ガンバレと魔王ちゃんの頭を撫でてやった。
「暴虐さん。頼むよ」
「わかったよ。わしに任せろ」
結界を解き、暴虐さんと魔王ちゃんの装備を整えさせて、修業への旅路を見送った。
なんともあっさりしたものだが、再会もどうせあっさりしたものだろう。つーか、なんかあればオレの出会い運が発動すんだろうさ。
暴虐さんと魔王ちゃんの姿が見えなくなるまで見送り、現実味のない現実へと目を向けた。
「……サプル、なんだ、その幼女は……?」
黒髪の幼女……って言うか幼児か? なんか二、三歳の子を抱くサプルちゃん。オレが目を背けている間にどんな急展開があったのよ?
「竜を捌いてたら卵が出てきてね、割ったらこの子が出てきたの」
うん。まったく意味わかんねー。神よ、説明プリーズ!




