750 ゾクゾクする
つーことで、エリナのところへ出発進行です。
唐突だな。なんて突っ込みはしてもイイけど、オレはスルーさせてもらいます。
「これ、なんさね?」
「ゼロツーって乗り物だよ」
本当は馬車で行こうとしたんだが、親父殿たちが秘密の牧場に通うのに使うとかで、ゼロツーにしたわけです。ゼロワンとゼロスリーは二人乗り用だし、ゼロフォーは領主城に置いてきてしまったんでな。
「後ろのはなんさね?」
「自動車って乗り物だな。車種までは知らん」
なんか軍用車両らしいが詳しいことは聞いてない。興味ないし。ちなみに運転手はミタさん。オレが出かけるのを知って新人教育を切り上げて来たんだとさ。別についてこなくてもイイのによ。
「……お前さんといると常識が崩壊してくるさね……」
やだ、ご隠居さんったら。常識外にいるクセに常識を語ちゃってくれてるよ。あなた、存在自体が非常識ですから。おっと。ブーメランがどこかから飛んで来たけどサラッと回避だよ。
「ご隠居さん。ベーに突っ込んだら負けよ。どんどん深みに落ちていくんだから」
「そう言うお前さんは、深みには落ちてないのかい?」
「わたしがしっかりしないとベーがどんどんアホな子になっちゃうだもん、落ちてなんかいられないわ」
あらやだ奥さん聞きまして? メルヘンがベーくんの保護者面してますわよ。面倒みてるのはベーくんなのにね。
と、心の中で語るだけにしておきます。浮遊型自動防衛肉壁メルヘン──プリッつあんには助けられてますしね。
「マスター。あとをつけて来る者がいます」
猫型になったドレミが助手席から囁くように言った。
「金髪ねーちゃんたちか?」
「はい。つかず離れずの距離を保ちながら尾行してます」
まあ、相手はA級冒険者。時速四十キロでもついてこられるか。
「エリナんとこの兵は引かせろ。無駄に殺されることもねーしな」
「わかりました。兵を引かせます」
ゴブリンの武装が近代兵器に変わったが、A級ともなればそんなこと関係ねー。余裕で蹂躙することだろう。もう準人外の域に入ってるからな。A級冒険者って。
「よくわからんが、よいのか? あの娘たちは帝国の者だろう?」
「わかんのかい、そう言うの?」
まあ、人外ならなんでもお見通しって感じだろうけどよ。
「昨日、お前さんが消えてから少し話したからの」
「ご隠居さんって意外とコミュニケーション能力高いよな」
オレもコミュニケーション能力は高い方だと自負するが、何十年、それどころか何百年の歳の差があんのに、若い娘と話せるとかマジ尊敬するわ。
「なんさね、そのコミュなんとかってのは?」
「まあ、人付き合いが凄いって意味さ。オレ、年下の女と会話するとかマジ無理だわ」
「いや、お前さん散々してるだろう。現に、この子とも」
「家族なら平気で話せるさ。女と見れねーからな」
まあ、家族じゃなくても女と見なければ話せるがな。プリッつあんとかミタさんとか、女とは認識できるが、女としては見れないんだよ。
「難儀な性格しておるのぉ」
「別に難儀とは思っちゃいないさ。苦手なだけで嫌いってわけじゃねーからな」
オレも男だ。女は好きだ。欲情も少しはある。だが、前世の記憶に縛られているから変な方向に薄かったりどうでもイイことが濃かったりするのだ。
「なあ、ベー。どうして尾行させるのだ?」
魔王ちゃんには男同士の恋バナ(?)には興味がないらしい。いや、オレも男同士の恋バナなんて興味ねーけどよ。
「魔王ちゃんにイイ言葉を教えよう」
心のメモ帳を開いて刻んでおけよ。
「厄介事は巻き込まれるより巻き込ませろ。自分が厄介事に巻き込まれてるなら他を巻き込んじまえ。そうしたら厄介事の質は低くなるからよ」
オレがエリナを助けることを承諾しちまったばかりに厄介事は雪だるま式に増えて行った。
自業自得とは言え、メンドクセーと放り出す訳にはいかねー。友達との約束は絶対だ。破るなんてあり得ねーことだからな。
だが、実際にオレ一人ではどうにもならねー。不可能でしかない。
なら、どうしたら友達との約束を守れる?
「世の中には奇特なヤツがいてな、わざわざ自分から厄介事に近づいて来るヤツがいるんだよ」
誰がとは明言しませんがね。ククッ。
「多種族国家。これはどう足掻いても隠し通せるもんじゃねー。必ずバレる。どうせバレるものならこちらからバレらしたらイイ。ただ、無闇にバラしてはダメだ。バラしてもイイ相手にバラすんだ」
「バラしてもいい相手?」
「真実は大きいほど周りには話せないってな、多種族国家ができましたなんて世間が知ったら大騒ぎだ。国だって対応をしなくちゃならねー。帝国の向こうにいる自分の種族が一番と考えるアホは排除しようと考えるだろう。一旦燃えだした火は消すのは大変だ。対処を間違えたら大火事だ」
混沌が混沌を生み、疑心暗鬼に満ちた時代になるだろう。
「普通の頭を持っている統治者にそれを教えたらどう考える? 民にしゃべるか? それとも──」
「──口を噤むか、だな?」
やはり魔王ちゃんは賢い。王の王たる資格を持っている。
「尾行してくるヤツらは帝国の者だ。まあ、目的は違うが、この大陸でもっとも強い国に所属している。これはオレの推測だが、あの金髪ねーちゃんたちはかなり上、皇族から依頼をされて動いている。ってことは、だ。帝国の上層部に話が伝わるってことだ。で、伝わったとしてだ。そんな重要な情報がどうして手に入れられたと、並み以上の頭を持つヤツは考える」
「情報を意図的に伝えた者がいると、答えを出す」
魔王ちゃんの答えに満足の笑みを浮かべる。
「さあ、魔王ちゃんならどうする? その意図的に情報を伝えた者を無視するか? 無視できないと接触するか?」
「無視できないと接触する」
「どうしてだ?」
「後手に回ったらなにをされるかわからないから。その者は確実に先手を打てるから」
「イイ答えだ。となると、接触する者は誰にしようかと言う話になってくる。口が固く実力があり、こちらの信用を得られる者が理想だ」
「……あの金髪の二人なら、ちょうどいいか、とベーは考えたのだな」
そう。あちらから見てそうだと思うように、こちらから見てもそうであるってことだ。
「……なるほど。厄介事は巻き込まれるより巻き込ませろ、か。勉強になった」
魔王ちゃんからの尊敬の眼差し。ちょっとゾクゾクとします。
「なにか勉強になるようなことあったかしら?」
「ベーからなにも学んではいけないと言うことを学べた、ってことではないか?」
頭の上と後部座席から感じる軽蔑の眼差し。それもちょっとゾクゾクするのはなぜかしら……?




