621 曳船
大佐に案内されたところは、港に併設した実験室的なところだった。
広さは二十畳ほどで、いろんな実験器具や竜機の模型、なにかの培養槽があった。
「コロナ兵長。アルティ技術大尉はどうした?」
実験室的なところにいた、二十代前半のいかにも助手やってますなねーちゃんに大佐が尋ねた。
「あ、あの、アルティ技術大尉でしたら第二実験室にいます。あ、ちゃんと止めたんですよ! で、でも、全然聞いてくれなくて……」
どうやらその技術大尉ってのはフリーダムなヤツらしいな。
「……わかっています。ベー様。申し訳ありませんが、また移動をお願いします」
「あいよ」
押し掛けたのはこっちだし、頼んだのもこっち。出向くことに否はねーよ。
て、案内されたところは、巨大なプール……ではなく、なんだ、この広い生け簀は?
「稚魚?」
生け簀を覗くと、なにか小さいものが沢山泳いでいた。なんだいこれ?
「海竜の幼体だよ」
と、横から声がして振り向くと、白髪まじりのおばちゃんがいた。誰?
「アルティ技術大尉です。ベー様より受けた水竜機計画の総責任者です」
なんつーか、酸いも甘いも経験しましたって顔だな。フリーダムってより我が道をレッツゴーなタイプと見た。
「オレはベー。受けてくれてありがとな」
畑違いなことをお願いしたのはわかってるし、大変なことをお願いしたのもわかっている。断れるのを覚悟で頼んだのだ。
それがこうして受けてくれ、こんな実験施設まで拵えてくれた。例え我が道をレッツゴーな性格でも嬉しいよ。
「なに、礼を言いたいのはこっちさ。水竜機を大々的に研究ができるんだからね」
どーゆーこと? と大佐を見た。
「実は、水竜機計画は昔にも行われていたのですが、海竜の捕獲や資金の関係で頓挫したのです」
なるほど。ゼロからのスタートとしてはやけに施設や器具が充実してんな~と思ってたんだが、そういう理由からか。
「水竜機は、海竜の幼体から育てて魔核をある一定の大きさまでしないとならないし、体の改造も若いうちからやらないとならない。そうわかってはいたが、幼体の捕獲に何人もの死者を出した。お陰でわたしは鬼畜扱い。酷いもんだったさ」
急に昔を語るおばちゃん。まあ、感謝の印に聞くけど、できることなら短く、端的にお願いしますです。
「……まったく聞いてない顔ね……」
ハイ。まったく聞いてない顔です。なのでバラさないでください。
「だからあんたには感謝してるよ」
どうやら終了したようです。うん。イイ話だった。
「お互いイイことづくめでなにより。それでイイじゃねーか。それより、試作機を見せてくれるかい? 結構楽しみにしてたんでよ」
「ふふ。そうだね。こっちだよ」
今度はおばちゃんの案内で連れられた先は真新しい格納庫だった。ってか、ヴィアンサプレシア号から降りて目の前じゃねーかよ。
格納庫に入ると、全長十四メートルくらいの水竜機が八機、専用の水槽に入っていた。
「水の中じゃないとまずいのかい?」
兵器とは言え生き物。環境に適してないと死んじゃったりする。竜機だって海に落ちて沈んだら死ぬしな。
「いや、問題ないよ。新しい竜機と合体できるようにして水空両用を可能にしたからね」
随分と高性能(ご都合)になったもんだ。ってか、合体する意味ってなによ? 最初から水空両々の竜機にしたらイイじゃんか。
「ふふ。無意味だろうって顔だね」
いや、表情は変えてませんよ。ただたんに言いたいだけでしょう、あなたは。
また長い話になったが、その辺のことはフミさんたちにお任せ。詳しく聞いといてちょうだいな。
やって来たフミさんたちに場所を譲り、オレは大佐さんと格納庫を出た。
「申し訳ありません。アルティ技術大尉はしゃべると長くなるもので」
「まあ、オレが聞くんじゃないから大丈夫さ」
「フミさんたちに恨まれるわよ」
「それも技術部のお仕事。がんばってだ」
ゼルフィング商会に入ったと言うことはそう言うこと。諦めなさい。
「それより大佐。ちょっと頼みがあんだわ」
テーブルを出して席に座らせ、紅茶とお菓子を出した。もちろん、メイド型ドレミが、ね。
「なあ、大佐。あれを幾つか譲ってもらえねーかな」
タグボート的なもんを指した。
「曳船ですか? 二人しか乗れないものですし、それほど速度が出るものではありませんよ」
「それがイイのさ。個人の移動用として欲しいんだわ。あれ、造るの大変なのかい?」
見た目はシンプルだが。
「いえ、そう難しいものではありません。見習いでも造れるものです」
お、益々結構だ。
「なら、あれを、曳船を百台発注したい。もちろん、金は出す。なんなら、専門の工場を造って生産してくれ。全てオレが買うぜ」
その提案に考え込む大佐。そこに損はねーぜ。
「……父と相談してもよろしいでしょうか?」
「ああ、相談してくれ。小人族の主要産業になるかも知れんからな」
小さく造ってオレがデカくする。ボロ儲け間違いなしだ。
「ありがとうございます。では、わたしの権限で三十台までは譲渡可能です。いかほどお望みで?」
んなもん決まってる。三十台全てさ。




