606 オシャレリスト
コーヒーで腹がタプタプになってきた頃、サリバリたちによるオレ捜索が終了した。
まあ、コーリンとザニーノによる強制終了だが、終わってくれんならなんでもイイよ。さすがにコーヒーだけで六時間は辛いわ。
部屋から追い出されるサリバリやトアラ、あとプリッつあんを見ながら安堵する。
……よくもまあ六時間もオレ捜索ができるもんだよ……。
それだけ追い込まれてたんだろうが、オレにはどうにもできません。自分自身の力で乗り越えてくださいませ。
サリバリたちを追い出したコーリンとザニーノは、ため息一つ吐き、テーブルへと着いた。
ご苦労さまと、二人に白茶とショートケーキを出してやった。
「ベー様ですか?」
結界を解き、二人の前に姿を現した。
「世話をかけるな」
その言葉の意味を理解したザニーノは苦笑する。さすがだよ。
「お気になさらず。妹ができたようで毎日が楽しいですから」
「そうかい。なら、イイけどよ」
あの二人は、才能に恵まれている。だが、まだ子どもだ。そして、世間知らずだ。感情を制御するのも不安定だ。
まあ、感情の生き物にそれを求めるのは酷と言うものだが、それをできないようではこの時代で生きていくのは厳しいだろう。
女には女の社会があり、衣服系を扱うなら女が相手だ。なんも問題ねーように思うが、それは男社会の中にあるだけ。その中だけでは完結できねー。必ず男と接触しなくちゃならねー。
その男がまともならイイ。だが、アホな男だった場合、無理難題、悪辣なことを言ってくる。
感情のままに言えたらそりゃイイだろう。だが、この時代は弱肉強食。強い者がルールだ。貴族や権力者に一介の小娘が勝てるなど夢物語。理不尽がまかり通るのだ。
力があることに越したことはねー。だが、弱いなら弱いなりに対抗する方法はあり、それをできる知恵は必ずある。
力は絶対じゃねー。必ず覆す力はあると、心に刻んでおけば弱肉強食な時代でも負けずに生きられる。
「ふふ。意外と過保護なのね、ベーは」
ザニーノのイヤミに肩を竦めて応えた。まったくその通りで反論できねーよ。
「あの、わたくしにもわかるように説明してください」
蚊帳の外にいるコーリンが拗ねたように口を尖らせた。
まあ、衣服バカに理解しろと言う方が悪い。なんで、説明はザニーノにお任せです。
「コーリンが言ったように、ベーがいてのわたしたちってことよ」
それで納得できない顔だが、サリバリたちよりは大人なようで、それ以上は追求してこなかった。フフ。ちょっとは成長したよーだ。
「服、できたかい?」
「はい。最高のものができました」
不満顔が一瞬で吹き飛び、輝かんばかりの笑顔を咲かせた。
ちょっとお待ちくださいませと部屋を出ていき、しばらくして収納鞄を持って来た。
「帝国人も驚くような服を作りました!」
その気迫に圧され、ちょっと身を引いてしまう。
どうどうと、すっかりコーリンのブレーキになったザニーノのが抑えた。
「す、すみません。つい、嬉しくて……」
「構わんさ。それだけイイもんができたってことだ。ありがとな、コーリン」
幾ら好きとは言え、無茶な要求に応えてくれたんだ、感謝しかねーよ。
「試着しますか?」
「いや、時間がねーからあとでするよ。帝国にいくにはまだちょっと時間がかかりそうだからな。試着して直して欲しいところがあったら来るよ」
まあ、トアラがいるんだから寸法に狂いはねーだろうし、コーリンのデザインなら問題ねーだろうがな。
「わかりました。そのときは遠慮なくお申しつけください」
「ああ。そんときは頼むよ。それより、店は順調かい?」
オレの注文をこなしながら店もやる。考えなくても大変ですよね。
「それなんだけど、やはり大通りに店を構えた方がいいわね。隣の店に来るこ婦人が流れて来るとは言え、コーリンのデザインは先を行ってるからそんなには売れないし、ここは裏通りで人目も少ない。店としては向いてないわ」
確かに、ここで商売ってのも難しいか。もともと地元民しか来ない場所だもんな……。
「なら、大通りに店を出すか。で、空いてる場所とかあるのか?」
ザニーノのがそれを言ったのなら下調べはできてんだろうよ。
「ええ。店としてはちょっと小さいけど、名を覚えてもらうには充分だと思うわ」
「その辺は婦人とザニーノに任せるよ。好きにやりな」
責任者としては無責任なこと言っているかもしれんが、オシャレは管轄外。適任者に任せた方が上手くいくってもんだ。
「ふふ。ご期待にそえるよう成果は出してみせるわ」
あの会長さんの娘と衣服バカがコンビを組み、サリバリやトアラたちがフォローする。これほどのオシャレリスト(スペシャリスト的な感じ?)は存在しねー。失敗する想像もできねーわ。
……それに、資金力もコネもある。これで失敗したらオレに見る目がねーってことだ……。
「まあ、無理なくやってくれ。まだ始まったばかりなんだからよ」
一朝一夕とはいかねー商売だ。じっくり確実にやってけばイイさ。
「はい。わかりました」
「ええ、わかっているわ」
二人の自信に満ちた笑顔に、こちらも笑顔で応える。
ほんじゃ帰りますかと席を立つと、白髪のメイド型ドレミが入って来た。
「マスター。プリッシュさまをお連れしました」
なにやら白ドレミの腕の中でグシュグシュ泣いていた。なんなのいったい?
「ベーが、ベーが」
と口にするだけでさっぱりわからん。なに泣いてんだよ?
「よーわからんが、帰るぞ」
プリッつあんをつかみ、頭の上に乗せた。
「またな、二人とも。サリバリとトアラには上手く言っといてくれや」
言って転移バッチで村へと戻った。




