585 生命に溢れた世界
生憎とエンドロールを最後まで見ない派なので、プリッつあんらが冒険者ギルドへと消える同時に意識を切り替えた。
「折角の機会だ、人魚の町でも見て回りますかねか」
と言うことで人魚の町を探索です。
人魚の町は、人の町と違ってデカい貝殻を重ねて多重構造となっているため、ちょっとしたアトラクションな造りになっていた。
多分、繁華街か大通りなのか、オレが今いるところは人魚が多く、店が立ち並んでいた。
「お、注目の的だな」
まあ、人魚の町に地上の生き物がいるんだ、気にならねー方がどうかしてるわ。
まあ、オレはオレの精神でいれば周りの視線や声など馬耳東風。勝手にしろ、だ。
「お、雑貨屋だ」
人魚の文字はわからんが、黒い貝殻が看板に埋め込まれているのは雑貨屋だと、ナルバールのおっちゃんに聞いたのを記憶している。
気になったのでお邪魔させてもらったが、商品棚はカスカス。大したものがなかった。売り切れかい?
「移住やら疎開やらで人が増えたからな。それに、ここに来る商人は地上のものを買い付けにくるやつらばかり。商品を持ってこないんだよ」
空荷で来んのかい? もったいねーだろう、それ。
普通なら商品を積んで町で捌き、地上のものを持って帰る。空荷で来るなんて損じゃねーのか?
「荷を積んで来ると遅くなる。なら、軽くして一刻も早くここに来て地上のものを買い込む。その方が遥かに儲かる上に、商売敵を出し抜ける。って、そんな考えをする商人が多くて品不足なのさ」
ヤレヤレ。見る目のねーのが多いな、人魚の商人は。独占市場になるとか考えねーねかな?
「な、なあ、あんた。地上のものがあるなら売ってくれないか。地上との買い付けは独占に近いんで、こっちに回ってこないんだよ」
まあ、あんちゃんのところだけでは、これだけデカくなった町の市場を満たすなんて無理だわな。海中に持って行くものはオレの結界を纏わせなくちゃならんのだから数も限られてくるさ。
「そうだな。事と次第によっちゃ商品を卸してやってもイイぜ」
人魚のおっちゃんが警戒の目を見せた。
ほ~ん。なかなかやり手な店主みてーだな。まあ、ナルバールのおっちゃんほどではねーようだが。
「おっちゃんのところで自動翻訳の魔道具は置いてあるかい?」
「一つならある。だが、あんたがしているもんより劣るぞ。そんな広範囲にもたらすものなんて、国に仕える大魔法師級のもんだ」
へー。そうなんだ。なかなか高性能なものもらったんだな、オレ。
「おっちゃんのとこにあるのは、どーゆーもんなんだい?」
ちょっと待ってろと店の奥に下がり、しばらくして指輪を持ってきた。これが、自動翻訳の魔道具かい?
「ああ。これを身に付けている者同士にしか効果がない」
「これなら手に入んのかい?」
「簡単に、ではないが、町の技師に頼めば作ってくれるな。ただ、結構な値段になるぜ」
手に入るなら値段なんて関係ねー。買える。それが全てだ。
「なら、自動翻訳の、指輪か? それを大量に発注してくれ。売ってくれんならおっちゃんの店に地上の品を卸してやるぜ?」
「ほ、本当か!?」
「ああ。本当だとも。なら、まずは手付けだ」
収納──じゃなくて、無限鞄から大箱を取り出した。
博士が創ってくれたこの鞄はサイズ関係なしで、念じるだけで出し入れが可能ときてる。マジファンタジーな鞄だぜ。
大箱を開けると、中には陶器が詰まっていた。
これはサプルが作ったものだが、あんちゃんの目から外れた三流品。まあ、練習用なのでオレの目から見てもイイもんじゃねーが、庶民にいき渡るものとしては丁度イイだろう。
……決して不良在庫ではありませぬ……。
「こ、こんなにかい!?」
「ああ。さらにこれもだ」
また違う大箱を取り出す。これにはナイフ各種。これも練習用に創ったもんだが、結界を纏わせているから錆びぬ、折れぬ、切れ味バツグンと、海竜の牙や骨で作った人魚製のナイフには負けねーぜ。
「あと、オシャレ品もやろう」
「…………」
ふふ。嬉しさのあまり声も出ぬか、人魚おっちゃんよ。
なんて、ここで突っ込みが欲しいところだが、いるのは人魚なドレミちゃんだけ。突っ込み天使、プリッつあんカムバーック!
なんてアホなことをしている場合じゃねーな。おっちゃんとの契約を済ませ、雑貨屋を出た。
他にもある雑貨屋にも入ったが、商品は少なく、自動翻訳の指輪も一つだけしか買えなかった。ったく。地上の商品を仕入れようと思うなら自動翻訳は必須じゃねーか。なんで持ってこねーんだよ。
プンプン起こりながら町を探索していると、人魚なドレミがオレの首に腕を回してきた。なんだい?
「マスター。後をつけられています」
そっと囁いてきた。
「……魚人か?」
「はい。かなり距離をとっていますが、魚人と確認しました」
ドレミの優秀さは今更だが、魚人の方もかなり優秀っぽいな。オレの考えるな、感じろセンサーに引っかからねーとは。しかも、オレの結界有効範囲に入ってこねーとは。
まあ、半径三十メートルとは知らねーようだが、オレの能力を警戒しているのは確か。下手したら威力を確認しに来たかもしれんな。
なら、放っておくのが吉。勝手にしろだ。こちらも勝手に魚人姫に結界を施しちゃったんだしね。お互い様です。
気にせず町を探索してたらいつの間にか町外れまで来てしまった。
襲って来るかな? と思ったけど、どうやらそこまでバカじゃないようだ。やるね、魚人さんたち。
「ん?」
さて、どうするかなって感じで辺りを見回すと、なにやら青空市場的なものが視界に入った。
なんざんしょ? と近づくと、なにかミュータント亀(的な)な生き物たちが青空市場的なことをしていた。
……なんの種族になんだ、あのミュータント亀(的な)な生き物は……?
「ほんと、この世界、どんだけ進化論にケンカ売ってんだろうな」
まったく、生命に溢れた世界だぜ。




