462 出発進行
バリアルの街へ旅立つ日がやって来た。
ちょっと曇り空だが、雨が降るような天気でもねー。旅立つにはまずまずの日和だろうよ。
この時代の旅と言えば朝日が昇ると同時に出発が常識。なんだが、なぜか只今の時刻九時半前。ド田舎じゃ朝とは呼べねー時間である。
なんでこんな時間になったかと言うと、どこからかオレの旅を聞いたカムラの隊商が便乗させてくれと押しかけて来たのだ。
そんなの関係ねーと、突っぱねるのは簡単だが、広場を管理してる者としては、付き合いやら打算やらがあり、食糧を買わしてもらってる身としては無事に目的地へと行き、無事に帰って来て欲しい訳だ。
マ〇ダムタイムしながら曇り空を眺めていると、この隊商のリーダー……おっちゃんがやって来た。
「ベー。すまん。もう少しかかりそうだ」
もう何度目かの謝罪に肩を竦める。
「構わんよ。どうせ今から出発しようが昼から出発しようがアラエ村までしか行けんだろうしな」
街道沿いには、だいたい十キロごとに村があり、隊商相手の広場がある。
隊商が進める最大の距離は約三十キロ。だいたいが二十キロを目標としている。まあ、これは規模にもよるが、今回便乗する隊商は中規模であり、主な商品が布なので多少は速度は出せるので、昼から出ても二十キロ先のアラエ村までは進めることだろう。
「なんであんなに時間がかかってるんです?」
ライゼンに騎乗しながら揚げパンを食するタケルが不思議そうに尋ねてきた。
「ハイ、フェリエくん。お答えをどうぞ」
ちょっとイラつき気味のフェリエに振った。
「なぜわたしに振るのよ?」
「気持ちを落ち着かせるためと、世間の事情をどれだけ知っているかのテストです。答えてみ」
ちなみにオレは知っているから超余裕でいられるんだよ。
「……まったく、そうやって子供扱いするんだから」
「されたくなかったら大人になれ。汚い大人はそう言うところを突っついてくんだからよ」
出会い運がイイオレでもクズな野郎と会うこともある。
こちらがガキだからとナメ腐り、ぼったくろうとしたり暴力できたりと、クズなことをしてくるのだ。
まあ、それは前世の知識があり、経験してきたからこそ懇切丁寧に返せるが、頭がイイだけの小娘にやれって方が悪い。ここは年長者(精神的にね)が導いてあげましょう。
「……遅れてるのは、突然の出発のためであり、出発の順番を揉めてるから、でしょう。クラウニーさんは、中堅的商人で、単独での隊は組めない。どうしても寄り合いになってしまう。本来なら一番規模が大きいクラウニーさんのところが真ん中になり、小さいところは前が後ろになる。けど、今回はベーがついていて、先頭を行く。ベーを知る商人なら後ろにつきたいと思うわ。なんたってそこが一番安全な場所ですからね」
どうかしらと言うフェリエの目に正解と頷く。
「隊商は命懸けだ。荷を届ければ富を生み、荷を失えば破滅だ。少しでも安全に進みたいと思うのはしょうがねーさ」
なので気長に待つのが吉。おっちゃん、頑張ってくださいだ。
「そう言うことなんですか。でも、あんだけ冒険者を雇っているんだから大丈夫じゃないんですか? なんか強そうな人らがいっぱいいますけど……」
「中規模ながら隊商の列は百メートルは越える。それを二十人くらいで守れるとかあり得ねーよ。本当に守りたきゃ最低でも五十人は必要だ。だが、そんなに雇ったら儲けどころか借金だ。あのおっちゃんは、堅実だから二十人も冒険者を雇っているが、普通のヤツは十人も雇えばイイ方だな。荷と人の二割は失うものと計算してっからよ」
酷いと言うことなかれ。これがこの時代での常識であり、これがファンタジーの流通なんだよ。
「ベー。まだ出発しないの?」
これまでの会話を台無しにするオレの頭の住人さん。
「まだだからキャッスルでメルヘンパーティーでもやってろ」
荷台に積まれたニュードールキャッスル(サリネ作、カイナによる魔改造です)と二機のメルヘン機(人型モード)。なんかファンタジー要素とSF要素が混じり合ったカオスな状態になっているが、もう見た瞬間に諦めた。なんでもイイよとな。
「そう。ならそうするわ」
と、あっさりニューキャスルに戻る共存体。いつかきちんと共存について語り合わねーとならんな、うん。
「ベー。話がついたみたいよ」
フェリエの声に隊商の方を見れば、おっちゃんと小規模の隊商のリーダーと思わしき三人のおっちゃんらがこちらへとやって来た。
「悪い。やっと準備が整ったよ」
「そうかい。なら、出発すっか」
軽く伸びをしてマンダ〇セットを片付ける。
なんだい、マ〇ダムセットって? なんて疑問はスルーしてください。たんに旅用にと折り畳みのテーブルと折り畳みの椅子を用意したまでですんで。
「あ、隊商の頭を紹介しておくよ。ナダルにガオンにリュッケだ」
ハゲにデブにチビのおっちゃんね。トリプルズと認識しました。
オレの清々しい笑顔にフェリエがジト目をしてるが、そんなもの何度も見てるので気にしませーん、だ。
「あいよ。知ってるとは思うが、オレはベー。こっちはオレの護衛でフェリエ。そっちはタケル。で、それが……あーんーと、なんてたっけ、ねーちゃん?」
御者担当の猫耳ねーちゃんの名前が出てこなかった。
「タムニャだよ! 昨日も名乗ったじゃないか!」
「そうだっけ? まあ、こいつはタムニャだ。よろしくな」
なにやら複雑な顔を見せるトリプルズ。わかりにくかったか?
「……あたしの扱い、酷くない……?」
「気にしないの。ベーは見た目や特徴でしか人を認識できない非常識って教えたでしょう。わたしだって名前で呼ばれるまで二年はかかったんだから」
あれ? そうだっけ?
「なんて呼ばれてたの?」
「金髪ガールよ。ほんと、意味わかんないわよ」
なにやら雲行きが怪しいようなので、とっとと出発しますかね。
「さーて。出発進行だぁ~!」
猫――じゃなくて、タムニャから手綱を奪い取り、荷台を引くアイゼンとアカツキを歩かせた。
波乱の旅がこうして始まったのであった。




