1840 寄り道草道回り道
朝食をいただいたら聖国に戻るとする。
寄り道草道回り道。前世じゃできなかった人生の贅沢。素晴らしきかなスローライフだ。
「お前はいつも楽しそうだな」
さあ、出かけよう! としたら、もう一人のあんちゃんが現れた。
「あんちゃん、名前なんだっけ?」
「アバールだよ! 何回このやりとりすれば気が済むんだよ!」
「覚えるまで?」
「一生って言っているようなもんだわ!」
アハハ。あんちゃんは朝からテンションタケーな。
「どうした? こんな朝早くから? 暇か?」
「ボブラ村に来てから一日たりとも暇になったことはねーよ! 家族の時間を捻出するのも一苦労だわ!」
なに怒ってんだよ? 充実すぎて不安になったか? オレも幸せすぎて不安になることは……ないな。幸せすぎてハッピーだぜ!
「じゃあ、なんだよ? 忙しいならさっさと要件言えや」
その怒りのエネルギーは、妻を幸せにするために変換してやれよ。
「……ハァー。お前は相変わらずだな……」
「オレは昔も今も、遥か未来までオレはオレだよ」
オレはオレを満足させるために生きている。その生き方を変えるつもりはないし、貫いて死にたい。それがオレの幸せだ。
「で、どうしたんだ? なんか言いに来たんだろう?」
たぶん、オレの出会い運が働いたんだろうよ。何ヶ月と会ってなかったんだからな。
「サラニラが妊娠した」
「ベー様。アバール様の奥様ですよ」
レイコさんがこそっと教えてくれた。あーそんな名前だったっけ?
「おー! やることやってんじゃん。おめでとう。あんちゃんも父親になるんだな」
あのあんちゃんがね~。変わらぬようで変わっていく。人の営みを感じるよ。
「産まれんのは冬くらいか?」
今は七月か八月くらい。十月十日なら冬になる頃だ。
「オババもそう言っていたよ」
なら間違いはない。村唯一の助産師でもあり、何百人と取り上げてきた人だからな。
「じゃあ、もっと働かないとな」
「お前はおれを殺す気か?」
「大丈夫。オレはオババの弟子で薬師だぞ。死にたいと言ったって生かしてやるよ」
「もうその言葉でご主人様よりの思想を受け継いでいますよね」
否定はしない。先生も死なせない技術はスゲーからな。
「たぶん、いえ、オババさんと絶対方向性が違いますから」
薬師も医者もマッドサイエンティストも同じだ。過程より結果を求めて生きている。大差なんてものはない。人を治すなら過程など些細なことである。
「……ご主人様がベー様を気に入るのがよくわかりますね。思考も思想も似てますから……」
オレは先生の足元にも及ばないよ。




