1376 他にお任せ
「……お前は、いつも突然だよな……」
堀り炬燵でのんびりまったり本を読んでいたら親父殿がやって来た。あ、おはよーさん。
「起きるの随分と早いな?」
まだ五時半。どんな田舎でもまだ寝ている時間だぞ。
「館が騒がしくなっていたから起きてきたんだ」
メイドさんたちの名誉のために言っておくが、別にメイドさんたちは騒いでねー。ただ、親父殿の気配察知が異常なだけだ。
「冒険者を引退してもう半年は過ぎてるのに鈍ってないんだな」
「家族を守るために訓練は欠かしてない。と言ってもメイドやらなんやらで意味があるんだかわからんがな……」
まあ、あの警備を掻い潜って侵入できるヤツがいたら逆に見てみたいよ。
「厄介事は解決したのか? オーガを狩っているようなことが回覧板に書かれていたが」
思ったのだが、それ、回覧板じゃなくオレの行動報告書じゃね?
「オレの行動なんて知ってどうしようってんだ?」
「お前が動くと歴史的事態になるからだろうが。それを任せられるこっちの身を考えやがれ」
「オレはやりたくないヤツには任せてねーぞ」
嫌なことを押しつけるなんてオレの主義じゃねー! と、何度でも言わせてもらいます。
「……そういうところが悪辣だよな、お前は……」
「やりたくないならやらなければイイ。それだけさ」
こちらはまたやりたいヤツを見つければイイだけだし。
「厄介事はまだ解決してねーよ。任せれるヤツに任せてきた。オカンの出産が終われば戻るよ」
「任せられたヤツに同情するよ」
「艱難辛苦を乗り越え立派な人に成れ、だよ」
「まずお前が立派な人となれよ」
「オレは立派に成る必要がないからな、艱難辛苦も人に押しつけ──与えてやるのさ」
「隠すならもっと巧妙に隠しやがれ」
「根が正直なんでな」
「邪悪なほうに、だがな」
ひ、人は打算的な生き物なんだよ! 清廉潔白は他に任せるわ!
「オレのことよりオカンはどんな感じだ?」
「元気すぎてハラハラしてるよ」
「そういや、まだ畑仕事しようとしてるとか言ってたな」
畑で産まれた、なんて話もよく聞くことだ。
……オババの話ではオレもその一人になりそうだったと言ってたっけな……。
「しっかり見張ってろよ。田舎の女は強いからよ」
もう別の生き物なんじゃないかと思うよ。男には理解できねーぜ。
「毎日そう思っているよ。オレのほうが先に参りそうだ」
「元A級冒険者も形無しだな」
まあ、最強の村人でも妊婦相手には勝てないがな!
「まったくだよ。しばらくいるなら村にも顔を出せよ。お前、話にも出てこなくなっているぞ」
「数ヶ月で忘れるとか薄情すぎね?」
自分で言うのもなんだけど、存在濃いよ!
「村人とほざきながら何ヶ月もいないお前が言うな」
うぐっ! そう言われるとなにも言えなくなるが、それは平和に暮らすための下準備をしているだけだもん……。
「おれはもうちょっと寝てくるよ」
あくびをして食堂を出ていってしまった。
「……報われないもんだ……」
まあ、オレはオレのためにやっていることだから認められなくても一向に構わないと思ってても、こうして忘れられると心にくるものがあるぜ。
「わたしは、ベー様と出会えてよかったと思ってますよ」
「幽霊からの慰めはいらんよ」
堀り炬燵から出てた。
「ベー様。ご用があれば承りますが?」
「朝食までそこら辺を散歩してくるよ」
まだ外は暗いが、そんな中を歩くのもまたイイもの。オレはなんでも楽しめる男なのだよ。
食堂から出ると、花*花が混雑していた。な、なんや!?
「あ、ベー様。お帰りなさいませ」
花*花にいたメイドが出て来て包囲され、一斉にお帰りなさいませの大合唱を受けてしまった。迷惑だよ!
「な、なんかの安売りセールか?」
「いえ。夜勤が終わりましたのでオヤツを買ってました。明日は休みなので」
「お、おう。そうか。ご苦労さまな。ゆっくり休んでくれや」
どういうシフトになってるかは知らんが、いっきに何十人も休むとか、オレが想像するよりメイドが増えているようだな……。
「はい。ありがとうございます」
だから一斉にしゃべるなや。迷惑だよ!
ここはオレのほうが撤退したほうが早いと判断し、その場から立ち去った。
外に出ると、ブルー島に帰るメイドが門の前に集まっていた。
「あんなにたくさんどこで働いているんだ?」
「ベー様がやったことの後始末ではありませんか?」
そんなことはない! と言えない今日この頃。働く場があってなによりだと回れ右して早朝の散歩へと出かけた。




