1290 マーロー
「呼んだか?」
と、茶色い猫が現れた。
皆さんは覚えているだろうか、猫に転生したアホのことを?
「ごめん。お前の存在、すっかり忘れてたわ」
去年のことなのに遥か昔のことに思えてしまうこのワンダフルライフ。スローライフ詐欺で吊し上げされそうだ。
「うん、他のヤツらから聞いて知ってる」
「オレ、どんなふうに言われてんの!?」
「聞きたいか?」
「あ、いや、結構です……」
聞いたら心が折れそうな気がしますので。
「ってか、なんでお前が出てくんだよ? あ、お前、なんて言ったっけ?」
ごめん。心の呼び名も忘れっちまったわ。ナハハ。
「……お前、酷いな……」
「それは認める。お前、存在薄いんだもん」
「お前が天元突破級に濃いんだよ! しゃべる猫が霞むって意味わからんわ! 普通なら主人公ばりに目立ってるハズなのによ!」
「いや、しゃべるだけで主人公になれるならこの世は主人公ばかりだよ」
まあ、お前の人──いや、猫生はお前が主人公だろうが、しゃべるだけの動物(と言ってわからんものが大半だけど!)なんて五万といる。なんなら人化するのもいる。猫がしゃべったくらいじゃ驚きもしないよ。
「そんなことより、お前なんだっけ?」
「マーローだよ! マーロー!」
「あ、茶猫か。思い出した思い出した」
心の呼び名、茶猫だったな。長靴を履かせたいことも思い出したよ。
「お前の頭腐ってんのかよ!」
「灰色の脳細胞は活発に働いてますが?」
「……ダメだ。こいつダメだ……」
器用に後ろ脚で立ち上がり、前脚で頭を抱える茶猫。あぁ、器用なのも思い出したよ。
「希に見る常識的な方ですね」
「存在は非常識なのにな」
「お前にだけは言われたくねーんだよっ!!」
荒ぶる獣って感じだな。キ○ッツアイな赤鬼美女は可愛いものを見る目をしてるけど。
「はいはい。で、なんでマロンがいるんだ?」
「マーローだよ! お前本当にふざけんな!」
荒ぶる獣が猫パンチ。フッ。プリッつあんの蹴りに比べたら軽い軽い。つーな、爪じゃないんだ。
「いいな~」
なんかキャッ○アイに羨まれてる。なんでや?
「ミタさん、どう言うことよ」
茶猫が答える気がなさそうなので、事情を知るだろうミタさんに尋ねた。
「マーロー様は、情報部特務室長です」
あん? 情報部特務室長? なんだ、その物騒な肩書きは?
「簡単に言えば情報を収集する室の代表がマーロー様です」
ごめん。ちょっとオレに考える時間をくだされ。
………………。
…………。
……。
よし。スルーしておこう。
「考えた結果がそれですか」
長い人生ではスルーすることも大事なんだぜ。
「よくわからんが、とりあえず孤児院に案内してくれや」
「……はい、わかりました……」
肩車する格好でオレに猫パンチを連打するとキ○ッツアイが妬ましそうな顔で孤児院へと案内してくれた。
……このキャ○ツアイ、猫好きなのか……?
案内されたところはインドの寺院に似たようなところで、獅子のような獣の像や刻印があちらこちらに見える。
「なんだここ?」
「ナーブラと呼ばれている獣を信じる修道院みたいなところだよ。孤児の面倒も見ているそうだ」
とは、茶猫さんからのご説明。いつの間に調べたんだよ?
「一月前から潜入して調べてたんだよ」
そう言えばこいつ、スラムで生きてたんだっけな。なら探るのは得意か。猫の体も探るには最適だろうよ。
「大人は三人。子どもは十三人。四人がザイライヤー族に買われたよ」
……こいつ、かなり優秀だな……。
「お前の読み通り、勇者がここに来て食料を渡したみたいだ。そのお陰で生き延びれた感じだな。まあ、その食料も尽きかけてる。ほんと、お前のタイミングのよさは神がかってるよ」
「オレもそう思うよ」
出会い運が成せる業だろうが、これだけタイミングがイイと神が手引きしてるんじゃないかと思えて来るよ。
「接触はしたのか?」
「ああ。ほっとけなかったからな」
あの三兄弟と重なったんだろう。まったく優しいヤツだよ。
「なら、仲介してくれや」
「わかった」
オレの肩から降りて建物の中に入っていき、六歳くらいの女の子の肩に乗って戻って来た。
猫に転生したの、もしかするとこちらの神がわざとやったのかもしれんな……。
忘れた人は読み直してね。




