1289 猫の目
「べー様。人が集まって来ました」
夕暮れ間近、パンを焼く匂い誘われてか、町のもんが集まって来たそうだ。
「パンの匂いにつられて集まったってことは受け入れられるってことだな」
「もしかして、受け入れられるか試したの?」
「買ってくださいと宣伝するより匂いを嗅がせたほうが早いと思っただけさ」
試したのも事実だが、ただ単にオレがパンを食いたかっただけと無限鞄に入れて置きたかったけだ。
「どのくらい焼けた感じ?」
「窯は二つなので大した量はできてませんね」
まあ、うちの基準で言ったら、ってことだろう。普通のパン屋なら充分にやってける量なはずだ。
「うちで食べる分以外は売っていいよ。値段は安めでイイからよ」
この町の規模だと大して貨幣も出回っているとも思えねーが、一般庶民が使う貨幣ならそれなりにあるはずだ。代表さんが快くオレらを受け入れてくれるために集めておくとしましょうか。
「……悪い気配がだだ漏れよ……」
おっと。そりゃ不味い。善良な気配を出さないと。
「相当な数が集まって来てるわよ」
「だな。こりゃちょっと不味いかもな」
下手に規制したりすると暴動になりかねない。それはちょっと今後に支障を来す。今は穏便にすませたいぜ。
さて、どーすっぺ?
………………。
…………。
……。
「──よし。物々交換すっか」
代表が決めないうちは貨幣を集めるのは避けたい。それまでの時間稼ぎをするか。
「物々交換って、どんな意味があるのよ?」
「物質不足を引き起こせる」
「はぁ?」
意味わからんって顔をする委員長さん。近くにいた魔女さんもわからない顔だな。
「わからないなら経済を勉強な。帝国なら教えられるヤツがいんだろう」
経済もこの世界で一番発展している。オレのやることなど児戯に見えんだろうさ。
「それを村人が言っている非常識を理解しなさいよ」
「村人だろうが勉強すればそのくらい理解できんだよ」
「いや、できないですから」
幽霊の突っ込みなどノーサンキュー。学ぼうとすれば学べんだよ。
「……またムチャクチャな……」
無茶を通せば道理が引っ込む。ん? あれ? 無理だったっけ? まあ、なんでもイイや。通したもんが勝ちってことだ。
「衣服、鍋はそれなりに。貴金属や武器は良し悪しにかかわらず高額で買取れ。あ、隠密できそうなメイドはいるかい?」
「はい、おります」
いるんだ! 言っておいてなんだけど、隠密するメイドってなにすんだよ? 意味わからんわ!
「町に孤児院がないか調べてくれ。もしあったら食料や薬の援助をしてくれ。ちゃんとゼルフィング商会の名を出してな」
すっかり忘れてたわ。孤児院を確保するのをよ。
「畏まりました。すぐにやらせます」
「ドレミ。分離体を出してくれ」
「イエス、マイロード」
黒猫からキジトラの猫が分離。闇の中へと消えていった。色のバージョンがなくなったか?
「べー様、ありますかね?」
町の規模を考えたらあるだろう。が、レイコさんは残ってるかを訊いてるんだろう。
死ぬのはまず弱者から。弱肉強食な世界での絶対ルール。大暴走から一月以上経ってたら餓死してるかもな。
「オレの勘はあると言ってるな」
「根拠があるからですよね? その言い方からして」
「根拠と言うほどでもねーが、勇者ちゃんと女騎士さんがここによったのなら弱い者を見過ごしているとは思えねーだけさ」
勇者ちゃんは王都でも人助けをやっていた。なら、ここでもやってるはず。勇者ちゃんは良くも悪くも勇者だからな。
勇者ちゃんがなにを望んで勇者になったか知らんが、前世の記憶をなくしても勇者でいる。なら、信じてみるのもイイだろうよ。
「……転生者って皆頭がおかしいんですよね……」
違う! と言えねーヤツばかり。でも、自分はまともだと思いたい。
「思うのは自由ですけど、皆さん、絶対べー様が筆頭だと言うと思いますよ」
そんなことはない! と言えない自分もいる。
グッと堪えて右から左にさようなら~。オレは誰がなんと言おうがまともです!
物々交換を眺めていると、ミタさんが耳打ち。孤児院を発見したとのことだった。
「ここ、任せてもイイか?」
「はい。問題ありません」
と、あっさり引き受けてくれた。なぜに?
「監視する人がたくさんいるからじゃないですか?」
振り返れば団体さんが。君たちも来るのね。
「わたしたちがここにいても役に立たないでしょう」
いや、いろいろあると思うのだが、魔女さんたちの自由意思を尊重することにした。
「案内よろしく」
「──はい」
と、なんかカラフルなレオタードを着た……なに? え、なに!? キャッ○アイ?!
「ゼルフィング家隠密、猫の目です」
名付けたヤツ、ちょっとオレの前に出て来いやっ!!




