1279 もちのロン
「激動の日々だった」
「確かに激動でしたが、それはベー様以外が激動なだけですよね。その中心でコーヒー飲んでるだけでしたよね」
ねえさん、大変です。幽霊がオレを追い詰めて来ます。
「そのいまじなりーお姉さんも追い詰めてますよ」
ヤダ。幽霊さんは到頭オレのイマジナリースペースまで侵略して来ました! そこはオレのサンクチュアリーなのに!?
「ベー様がナニヲイッテルカワカラナイ?」
なにか言葉がカタカナになってるレイコさん。あなた、誰よりもオレの心読んでるじゃん。
まあ、幽霊に理解されるのもそれはそれでお仕舞いのような気がする。なのでサラッとサラサラ信濃川~。
「今日もコーヒーがうめ~」
湖畔で飲むコーヒーの旨さよ。オレは今、幸せである。
「ベー様~!」
「気持ちいいです~よ!」
たぶん、美女たちが湖で戯れている。
これが人、または人型をしていれば目の保養ともなるのだが、獣型では犬が湖ではしゃいでいるとしか見えねーよ。
「いいもんですな」
種が違うオレに同意を求められても困るわ。
いったいなにが起こっているの? とお悩み中のあなたにズバッと解決。ズバッと回答。ハヤテに跨がって散歩に出たらシープリット族のメイド隊がついて来て、ルダールたちがついて来て、熱いから湖で泳いだらこうなったんだよ!
「誰になにを説明してるんですか? いや、いつものように説明になってませんけど」
そこは考えるな、感じろダゼ!
「独身な野郎どもはいってこいよ」
あの中に入ったらオレは潰されるか溺死させられる。つーか、死を予感してさっさと上がって来たよ。
「はい!」
喜び勇んで湖に入っていく野郎ども。欲情に素直で羨ましいよ。
オレも年齢を重ねたら欲情が出て来るのかね? このまま賢者のような精神とか酷すぎんだろう。
「ベー様なら選び放題じゃないですか。立候補してる子もいるんですし」
それは止めてください。シャイボーイには気恥ずかしいお話なので。
「複雑怪奇なベー様です」
人の心は複雑怪奇だよ。誰にも解き明かすなんてできないさ。
若人(?)たちが湖で戯れる光景を眺めながら頭を空っぽにして流れる風を感じる。
「嵐の前の静けさですね」
ちょっと、不穏なこと言わないでよ。それでなくてもオレのスローライフがどこかにいっちゃってんだからよ!
「いいじゃないですか。激動も日常になればいつものことですよ」
そんないつもの日常などいらんわ! スローライフ詐欺で訴えられるわ!
スローライフは心穏やかに過ごしてこそ。ハラハラドキドキなんていらねーんだよ!
「ベー様、どんな激動になろうとハラハラドキドキにならないじゃないですか。それどころか楽しんでるでしょうに」
ほんと、人の心をそんなに見ないでください。プライバシーの侵害よ!
「ベー様。出発の準備が整ったと報告が来ました」
出発の準備? なんだっけ?
「勇者様の手がかりを求めてバルザイドの町へいくための準備です」
あ、ああ。そうだったな。一月以上前のことで忘れてたわ。
「いつものことですね」
違うと反論できないのが悲しいです。
「じゃあ、準備をしてくれた村の方々に感謝として祭りでもするか。復興祭ってことにして」
祭りに名前がないと苦労させる人がいるからな。
ほんと、なにも考えてなくてごめんなさい!
「誰に謝ってるんですか?」
「偉大なるクリエイターにだよ」
「……もう、なんでもいいですよ……」
はい、なんでもいいんです。これはオレからの謝罪と感謝なので。
「ミタさん。よろしく」
オレは水輝館でやる気も使命感も使い果たしたし、もう誰かに任せたほうが受け継ぐ手間もない。ミタさんに丸投げです。
「畏まりました。シープリット族を中心に用意します」
そうだな。あの地はいずれシープリット族が治める。なら、重要な祭事には出ておいたほうがいいかもな。
「侵略してる自覚あります?」
もちのロンよ。
ここは、ラーシュの国かも知れんが、ちゃんと治めるとは思えねー。なら、どさくさに紛れていただくまで。その対価はいくらでも用意できるんだからな。
「もうベー様が世界を征服したほうがよいのでは?」
「オレのポケットにはデカすぎるよ」
世界征服したいのならいくらでも協力してやるが、自分が先頭に立ってやるのはゴメンである。責任の重さで早死にしたくねーわ。
「祭りの用意ができたら教えてくれや」
「畏まりました」
よろしこ~。
「まるで世界の裏で暗躍する魔王ですね」
そんな魔王がいるなら是非とも紹介して欲しいよ。オレが誠心誠意、支えてやるからよ。




