1173 敵は別にいる
では、留学者の交換会でもやりますか。
「なんのために?」
そう素で返されると答えに窮するな。ノリで言ったまでだし。
「形式は大事ですよ」
どう大事かは聞かないで。ノリで言ってんだから。
「まあ、親睦会ってことで、留学者同士の交流をいたしましょう。それぞれ未知の世界へ旅立つのですから、ここで慣れておきましょう」
どちらも初めての種族間交流だ。いきなりでは戸惑うことも
あるだろう。ここで触れ合いをしとけばイイさ。
「確かにそうだな。我ですら戸惑ったのだからな」
それをなんでオレを見ながら言うんでしょうか? 見慣れた種族じゃないですか。
「ミタさん。食事を頼む。あ、魔女って食べちゃダメなものとかありますか?」
なんか教義みたいなのあったりします?
「それぞれ好き嫌いはあるだろうが、食べていけないものはない。まあ、年齢的に酒は控えてもらえると助かる」
十五歳から成人ってわけじゃないのか? 見た感じ、十五歳以上には見えるが。
「見習いは一人前になるまでは酒は禁止なのだ。昔、暴れたバカがおって初代様が決めたのだ」
どこの世界も若者の暴走は悩みの種か。教え導くのは大変だわ。
「大図書館の魔女さんは、時間、大丈夫なんですか?」
なんか忙しそうですけど。
「こちらを優先しなくてはならんからな」
なにを、と問うのは野暮かな? オレとの繋がりは帝国にとって利となるんだからな。まあ、それはこちらも同じだけどよ。
「そうですか。大変ですね」
「気楽じゃな、お主は」
「なるようにしかなりませんからね」
まっ、ならぬならなしてみせようホトトギス、でなるよう持っていくけど。
「そうだ。交換留学者の名簿とかあります?」
ミタさん、うちはあるよね?
信じて手を出せば名簿を出してくれる万能メイド。いや、ニューメイド長さんの働きかな?
「ああ。ある」
秘書的な感じでついていた魔女さんに視線を飛ばすと、名簿を出してくれた。
お互いの名簿を交換して中を見る。
「……帝国に写真ってあったんだ……」
いや、感じから写真ではないと思うが、留学者の上半身を写したものが貼られていた。
「写し身の術ではないな。絵か?」
大図書館の魔女さんも写真に驚いている。
「帝国は想像以上に技術発展してたんですね」
いや、これは魔女の技術か? 公爵どのの奥さんは絵で描かれていたし。
「それはこちらのセリフだ。写し身の術以外の術があるんだからな」
大図書館の魔女さんのセリフからして写し身の術とやらは結構高度な技術らしい。ってことは一般的にはなってないってことか。
「まあ、わたしどもの技術じゃありませんけどね」
写真はカイナんところの技術(?)。ピンホールカメラくらいは説明できても、感光材料とかはまったく無理。興味なかったし。
「……そうか……」
なにか考えに入る大図書館の魔女さん。カイナの、オレとは違う勢力がいると気がついた感じだな。
……思えば、オレたちの勢力って反則だよな。皆反則級の力を持ったヤツらばっかりなんだからよ……。
もっとも、その勢力を集結しても帝国と張り合うのは大変なんだよな。帝国はまだなんか隠してるっぽいしよ。
あまり思考してると、他の魔女さんに見抜かれてしまうので、名簿に集中する。
留学者の魔女は大体が十六歳で、魔女歴は十年以上だった。
出身地はバラバラ。貴族出身者も入れば平民出身者もいる。どう言う基準で選んだんだ?
名簿を見ただけでは共通点はわからない。が、大図書館の魔女さんのことだから性格や価値観の違う者を揃えたはずだ。こちらからたくさん学ぼうと思ってな。
「ベー様。我々の名簿です」
見終わったところでミタさんが魔族側の名簿をすっと出して来た。
「あんがとさん」
礼を言って受け取り、中を見る。
ニューメイド長さんの思考が透けて見える選び方である。
……エグいな……。
学ぶと言うよりは探ると言ったほうがイイだろう。夢魔族を二人も入れてるところからもわかる。確実に誰かを魅了する気だよ、これ。
まあ、大図書館の魔女さん相手どこまでできるかはわからんが、それならそれで別の手をとばかりに夢魔族の男(男の娘ってやつか?)を混ぜているところが悪辣すぎる。
どう転んでもイイような人選。ニューメイド長さんの思考は透けて見えても本心まではわからない。こうなると世話役も連絡員も一筋縄ではいかない選び方してるな……。
「カンバってください」
あなたの敵はオレじゃなくニューメイド長さんだよ。
「そちらもな」
苦し紛れか強がりか、どっちにしても大図書館の魔女さんが選んだ見習い魔女。心してかかろうではないか。




