1151 外交
「この方は、わたしの先生でもあり、大図書館の魔女と呼ばれているよ」
紅茶を飲み、モンブランを美味しそうに食べる大図書館の魔女さん。
……人の外に出たヤツはほんと、よーわからんわ……。
「その魔女らしい魔女ルックって決まりなの? 居候さんは着てないが……」
ファンタジーな世界とは言ったって、トンガリ帽子に黒いマントってなんだよ? そんな格好してるヤツ初めて見たわ!
「これは、グレンが作ってくれたのだ。魔女ならこれでしょうとか言ってな」
元凶、お前かい! ほんと碌なことしねーよな!
「……そ、そうかい。それはなによりで……」
なにがなによりかは知らんが、今も着てんだから気に入ってんだろうよ。
「グレンはまだ生きてるの?」
「もう死ぬとは言ってたな。今はどこでなにをしているのやら」
畳の上で、って性格でもねーし、どこか気に入った場所で果てようとしてんだろうよ。
「……そうか……」
追及はしないか。そう言うところはわきまえてるよな、人外って。
「大図書館の魔女さんは、帝国の祖始とは面識はおありで?」
帝国の歴史は千年とか二千年とか言われている。あまりにも古いため、情報屋では真偽がつかめなかったのだ。
「生憎、大図書館の魔女としては三代目だ。初代様は書物の中でしか知らん。お主は帝国の歴史に興味があるのか?」
「帝国の歴史にも興味はありますが、できれば帝国ができる前、天地崩壊のことが知りたいです」
天地崩壊はお伽噺としては残っているが、象徴的すぎてよくわからんのだ。天から神が降りて来たとか悪魔が溢れたとかな。ただ事実なのは世界が壊れたってことだけだ。
「……随分と変なことに興味を持つのだな」
「世界の謎とか、気にならない男はいませんよ」
冒険心はないが、好奇心はある。ロマンがあってワクワクするぜ。
「……箱庭伝説か……」
「知ってるので?」
「ああ。帝都の地下に一つある」
なんかとんでもないことをぶち込んで来た。
いや、それ、秘密中の秘密でしょ。皇帝の弟さん、スゴくびっくりした顔してますよ!
「心配いらん。バレたところでもう死んだ箱庭だ」
「ですが……」
さすがのことに皇帝の弟も動揺を隠せないでいる。聞かされたほうも困るわ!
「お主、箱庭、いや、フュワール・レワロを知っているな」
さすが大図書館の魔女と呼ばれるだけはある。その頭には叡知が詰められていやがるぜ。
「ええ。知っていますよ」
なぜフュワール・レワロの話を出したかはわからんが、これはチャンスだとオレの直感が言っている。なら、大図書館の魔女の誘いに乗ってみようじゃないか。
「そうか」
と、だけ。関心あるんだか興味ないだかわからない表情をしている。だが、人外とは少なからず交流がある。その少ない交流から学ぶことはある。
好奇心も人の域から外れている、とな。
「はい。もし興味があるのなら別荘にご招待しますよ。箱庭の生物とかいろいろいますから」
さすがに自宅には招待できんが、別荘なら問題なかろう。収納鞄の中に入ってるしな。
「よいのか?」
「構いませんよ。魔女と呼ばれているなら自衛手段もあるでしょうし」
別荘に決めたフュワール・レワロは、生命の箱庭。天地崩壊の前に生息していたと思われる生物や植物が集められていた。
しかも、特定危険生命体とかつけたくなるようなフュワール・レワロだ。A級冒険者でも一時間としないで食物連鎖に取り込まれるだろうよ。
ふっ。S級村人には余裕なところだがな!
「弟子を連れていってもよいか?」
「自己責任なら何人でも構いませんよ。一人で見て回るには厳しいでしょうからね」
広いって意味でだよ。
「いついける?」
思慮があるタイプに見えるが、根は思い立ったが吉日のようだ。
「そちらの用意次第ですね」
フュワール・レワロは手元にある。いきたいのならすぐだ。
「十日。いや、六日で用意する」
そう言うと席を立ち、煙のように消えてしまった。
「……行動力のある魔女だこと……」
好きなことに全力なヤツは本当に見ていて気持ちがイイ。それが例え敵対していてもな。
「あの気まぐれな先生を操りますか」
穏やかな声で穏やかに言っているが、その中では感情が渦巻いているのがわかる。心に溜め込むヤツは目に出るからな。
「長く生きた者は、求めているか燻っているかのどちらか。エサを投げてやればすぐに食いつきますよ」
「なるほど」
とだけ。さすがの皇帝の弟でも人付き合いは不慣れか。まあ、身分社会の申し子みたいな立場なら仕方がないがよ。
「たまには外国に出てみてはいかがですか? 気晴らしになりますよ」
「ふふ。そうはしたいが立場的にな……」
「理由などどうとでもなる地位にいるのです。なら、どうにでもなります。外交もあなたのお仕事でしょう」
権力は使ってこそ。そして、ここに理由となるオレがいる。さあ、あなたならどう使う?
「フフ。恐ろしい少年だ」
オレの言いたいことを瞬時に理解するあんたのほうが怖いわ。
「しばらくここに滞在してるのかな?」
「はい。大図書館の魔女との友好のために」
ギブアンドテイク。フュワール・レワロに招待するんだ、その見返りはいただかんとな。
「わたしの手の者も同行させてもよいかな?」
「自己責任を承諾していただけるのなら何人でも」
にっこり笑って見せる。
「場所はどこで?」
「レヴィウブの外ではどうですかな?」
さすがにレヴィウブの中じゃお玉さんにワリーからな、ちょっと場所を用意してくれや。
「では、六日後に」
どう連絡をよこすかも教えていただきたいが、まあ、それはそちらに任せます。好きなように。
席を立つ皇帝の弟にコーヒーカップを掲げて見せた。




