1129 サンフラワー号
なんてことは日常茶飯事。気にすることもねーか。レヴィウブは種族差別はご法度だし、プリッつあんのコミュニケーション能力なら大抵のことは乗り切れるだろうからな。ましてや転移バッチを持って帰って来れねーなんてことはなし。心配する必要もねーさ。
ってことを脳内で素早く処理して今そこにある危機からドロンさせてもらった。
ミタさんたちメイドによる酒場経営教育は続いており、オレが現れても気がつかないくらい修羅な状況となっていた。
……どんなかは勝手に想像してください。オレは言語化するのも恐ろしいので……。
「買取り店にでも避難するか」
そそくさ~と買取り店へと村人走り。なにそれ? とか聞いてはいけねーぜ☆
「ん? もう売りに来てんのか?」
なにやら店の前にずだ袋を持った老若男女が並んでいた。
「……これを見ると確かに貧乏人のお茶ってわかるな……」
並んだ老若男女が着ている服がどれもボロくて、スラムに住んでるヤツらが中級層に見えてくるほど酷いものだった。
ってか、よくよく考えたら貧乏人でも飲めるお茶ってスゴいことだよな。どんだけ大量に採れんだよって話だ。庶民の酒たるエールですらスラムでは高級だって話なのによ。
しばらく見てると、背負い籠を二つ三つ重ねて背負って来た猛者が現れた。
「……そんなに採れんのかよ……?」
いや、それはいくらなんでも大量すぎんだろう。もう生産してるのと同じじゃねーの?
オレとしては嬉しい悲鳴を上げたいところだが、ハルメランとしては嘆きむせび泣くんじゃねーのか? 主要産業になるくらいの量だろうによ。
「これは市長代理殿に言っておかんとならんか?」
自分の儲けとするなら黙っていたほうが得だろうが、別にバルグル茶で儲けようとは思ってねー。つーか、面倒なのでやりたくねー。
「うん。当分間に合う量を仕入れたら市長代理殿に放り投げよう」
買取り店も都市の出先機関にして、なくなったら買いに来ればイイ。その頃になれば質も向上してもっと旨くなってるかもしれんしな。
もう少しで陽が暮れようと言うのに、売ろうとする客が途切れない。黒丹病で結構死んだはずなんだが、なんでこんなにいんのよ?
「……もしかして、バルグル茶も黒丹病に効くのか……?」
あり得ねーと言えないところがもどかしい。ここに並ぶヤツらはどう見てもスラム以下のヤツらだ。まず確実に死ぬ位置にいるヤツらがこうして生きているんだからな。
うん。否定するよりあり得るとして考えよう。そして、先生に丸投げ──ではなく、検証してもらおう。それが確実だろうからです!
「あんちゃーん!」
と、マイブラザーの声が耳に届いた。
反射的に声がしたほうへと目が動いたが、なぜかマイブラザーの姿はない。どこや?
「こっち! 上だよ!」
予想外で想定外なところからでした! ってか、お前はいつも変なところから兄を呼ぶよな。できれば常識内のところから呼んでくれよ……。
はぁ~とため息をついて上を見て固まってしまった。
え? なに? 車? ピンク? 飛んでる?
頭の中で飛び交う情報が大暴走。この目に映っているものがなんなのか定まらなかった。
「あんちゃん! おれたち別の都市にいくね! バーリエントって都市にワイバーンの群れが出たって言うからさ!」
「え、あ、おう。気をつけてな」
と言うのが精一杯。我が弟……って言うか、チャコたちのパーティーはオレ以上に飛び抜けてるぜ……。
「うん! 五日くらいで戻って来るよ! ワイバーンの肉、楽しみにしてて!」
と言い残して空の彼方に消えていきましたとさ。めでたしめでたしっと。
「──いや、なんでキャデラック!? どーゆーことよっ!?」
あまり詳しくねーが、キャデラックエルドラドって言ったか? 五十年代か六十年代の。オールドカーと言うよりもクラシックカーの域に入った車がなんで空飛んでんのよ?
いや、今のタイヤがなかったな。ってことはゲームに出て来たヤツか? いや、それってどんなゲームよ? まったく想像もつかねーわ!
「……でも、なんかちょっとカッコよかったな。アメ○カングラフティとか思い出すぜ……」
年代ではなかったが、金曜な夜にやってたロードなショーで観て憧れたっけ。フォードサンダーバード、あれもよかったわ~。
「チャコに頼めばもらえっかな? あ、いや、カイナーズホームで売ってるかもしれんな」
あったら絶対に買う。そして、海に向かって……は無理か。道が道だし。いや、魔大陸ならイケるか? 結界で補強すれば……。
「べー様! ここにいましたか。酒場準備が整いました。シュードゥ族の代表も集まってます」
なんて楽しい妄想に耽っていたら、ミタさんに現実へと連れ戻されてしまった。
「ああ、わかった。今いくよ」
楽しい未来を迎える前に今日の苦労を片付けますかね。
ため息一つ吐き、ミタさんのあとに続いて酒場へと向かった。




