112 大志を抱け
「おう、早かったな」
我が家に帰ってくると、行商人のあんちゃんが出迎えてくれた。
「ああ。話のわかる村長で助かったよ」
「随分とややっこしいことになってるみたいだな」
「まーな」
肩を竦め、リファエルを牧草地へと放した。
「結構ヤバいのか?」
あんちゃんは、オレの力を知ってるし、魔物を余裕で狩っているのも知ってる。なんで、オレが苦労してるのを見て相当深刻と感じたよーだ。
「うんまあ、その話は後でな。それより昼食にしよーや」
あんちゃんを連れて家へと入る。
「ただいま~」
「あ、おかえり、あんちゃん」
「おかえり、ベー」
「おかえりない」
と、厨房からサプル、オカン、あんちゃんの嫁さんが帰りを迎えてくれた。
「三人してなにしてんだ?」
テーブルを見ればもう昼食は並べてあるが。
「ねーちゃんに調理器具の扱いを教えてるの」
まあ、うちの調理器具は特別だからな、知らねーヤツには意味不明だろうよ。
「おもしろいわね、ベーくんの家は。調節可能な火熾し器なんて初めて見たわ!」
嬉々とするあんちゃんの嫁さん。貴族の出とは思えんくらいのはっちゃけ具合だ。
「試行錯誤の結果だな」
「アバールには聞いてはいたけど、本当に難しい言葉を知ってるのね」
「本を読んでりゃあ、イヤでも覚えるさ」
ちゃんと試行錯誤って言葉はあったからな。
家へと上がり、いつもの席に着く。
「まあ、昼にしようや。ん? あんちゃんの弟はどうした?」
ついでに我が弟もいねーが?
「お前からもらったもんをバックスに渡したからな、今、慣らしてんだよ。トータには護衛を頼んだんだよ」
「ふ~ん。そりゃまたなんで?」
あんちゃんにやったもんは基本、誰にでも使えるようにしてあるし、あんちゃんのものだ。どうしようがあんちゃんの勝手だが、アレがなけりゃあ、行商が大変だろう。
「行商人は引退。バックスに引き継いだ」
はあ?
「まあ、その話も後でな。取り合えずサプルの料理を食おうや。サラニラも楽しみにしてたからよ」
「だな。サプルの料理を食うのが生きる楽しみの一つ。他は後だ」
皆がそれぞれの席に着き、オレの音頭で食い始める。
「って、今更だが、ねーちゃん。食えねーもんがあるなら遠慮なく言えよ。環境や体質で食えねーもんがあるからな」
まだアレルギーなんてもんがカケラも出でこねー時代だが、体質で食えねーもんがあるのは薬師の間では常識だ。
「本当にベーくんは知識が豊富ね。でも、大丈夫よ。食い狂いはないから」
「ねーちゃん、薬師なのか?」
食い狂いって言葉は、薬学語だぞ。
「いいえ。わたしは医者よ」
はあ?
「マジで女医さんだったのかよっ!?」
見た目まんまだったから叫んだが、本当に女医さんだったとは、マジスゲーな、オレ。いや、こーゆー見た目の人は女医になるよいに決ってんのか?
「あんちゃん、ジョイって、なに?」
「女の医者を女医って言うんだよ。つーか、今の時代で女が医者になるって、スゲー覚悟してんな。マジ尊敬するわ」
男社会で女が台頭するには苦難でしかねー。並みの精神ではやってけねーよ。
「……ベーくんは、女がとは言わないのね……」
「男とか女とか言ってる時点で成長の停滞だな。前を見ねーヤツは置いて行かれる。時代の落伍者。人よ、常に大志を抱けだ」
まあ、ド田舎でスローライフを目指してるオレが言っても説得力はねーがな。
「ふふ。やっぱりきて良かったわ。ここなら真っ直ぐ医者を目指せそうだわ」
スゲーイイ笑顔を見せるあんちゃんの嫁さん。
「それも後でか?」
「あ、ああ。それも後でだな……」
まあ、今は昼食を美味しくいただきますか。




