閑話*四人とちな
ホルンが開いて、中からチナが出てき……落ちて……放り出されてきた。痛そうだな。ごづってしたぞ、ごづって!ま、大丈夫か。コイツ何気丈夫だし!
……そう言えば、今回は『遅かった』…いや、『早い』な…。
「──あ、きたきた。早かったね」
「……おい、そんなに乱暴に担ぐな」
「あ?大丈夫だろ。コイツ頭打っても大丈夫だったし」
「そーゆうことじゃないよっ!チナちゃんは女の子なんだよ?」
……おいおいおい、お前コイツのことそんなにデリケートに見えんの?………………………ない。絶対ない。確実にない!コイツはそんなにデリケートな分けがない!まあまあ適応能力高ぇし。適応能力が高いって……デリケートとは正反対だろ。
……うん、ねぇわやっぱ。
「おい、お前」
てかほんとのほんとに、コイツなのか?アイツら間違えたんじゃね?やっぱり俺にはコイツが愛し子の素質があるとは思えない。
ってか、アイツらの選ぶ基準ってなんだ?
「おい!!」
「おっほ!!」
だ、誰だよおい!いきなり肩たたくなよ!びびんだろ!!
って、おまえかよ?女のくせに力強ぇな。俺の肩外れんじゃね?!
「かせ。私がちな……チナを運ぶ。お前は手荒い」
「あ?良いじゃねえか。コイツそんなに弱くねぇだろ」
そもそも俺は手荒くなんかねぇ。お前の方が手荒いだろ!知ってるぞ、お前、この前の愛し子のそばにいた人間の骨折っただろ。知ってんぞ!!
「……そう言えば」
「あ゛?」
「なんだ」
「なーに?」
「なんでちなさんを、『チナ』って呼ぶんだい?」
しん……となったぞおい。てか、そんなの当たり前だろ。なに言ってんだよコイツ?
「…だってさ。もう違う世界に行くんだよ?」
ちっちぇえ奴ってよ、庇護力を誘うってゆーけどよ、コイツには抱かねえな、うん。
「もう彼女は『華森ちな』ではない。この世界に『ちな』は存在しない」
……何気コイツらひでぇよな。まじないわ。『気に入った』って、本当はきっと、『新しい玩具』ってかんじなんだろーな。
こえぇよなぁ、神様ってよ。
ってかさ、それよりもよ、もっとあんだろ!
何よりも──
「可哀想だろ」
ぼそりと呟いたつもりだったんだけどなぁ…。聞こえたのかよ!!恥ずかしすぎるだろ、おい。
………あ?なにが、だと?これだから神様ってのは……。
「…この世界はチナの知り合いがいない。いつあいつらに会えるかもわからねぇ。なにを支えにする?」
まぁ…これは俺の経験談だけどよ。誰も知り合いの居ないところで、まぁ当然話し相手も居ないわけで、信じられるのと支えにできるのは自分の記憶だけでよ。
なぁんにもねんだ、この世界にくると。自分が培ってきたものもなくて、最初っからでよ。
俺がやっと一人じゃなくなったのは、『奴ら』に会ったとき、それでもすっげぇ時間かかったしな。
一人ってのは、寂しいもんなんだよ。
「……可哀想?」
「なんだ、それは」
「どこが可哀想なのさ?」
ほらな。まぁコイツらが忘れちまってるのもあるかもしれねえけどよ。神サマってのはこんなもんなんだよ。……俺もこうなるのか?あー嫌だ嫌だ。気をつけよ。…コイツらほんとに分かってねぇみたいだし、肩すくめときゃいいか。
「それより、コイツの力はどうすんの?」
「む、そうだね。そんなことよりチナさんの力だ」
「チナにアレ持たせてみるか?」
「え?あ、あれ?うーん、まだ試作品だけど」
「…いいんじゃないかな。ちょうどどんなものか知りたかったし。持たせてみてもいいんじゃないかな?どう思う?」
「…私はどうでもいい。チナは面白い」
…ん?どういう意味だおい?今の話と関係あんのか、面白いって!
「お、おい。どういう意味だよ」
「チナは面白い、その理由か。…聞くが、私たちに突っかかる奴が過去にいたか?冷静な奴がいたか?それをふまえて考えると、チナは特殊だ。私たちに突っかかるなど、面白いじゃないか」
「あー、確かにいないね。けど、それで面白いっていうのは分からないなー」
「ふん、私にとってはそれで十分な理由だ」
これってもう、チナを玩具って言ってるようなものじゃねぇの?ま、いいけどよ。言うだけだしな。俺たちはチナを玩具に『できない』し。
俺たちはチナの首に俺たちの力で作った石をかけて、ホルンを開いた。今度こそ、ここへと繋がるものではなく、チナの世界に繋がるものでもない、正真正銘異世界へと繋がるホルン。
徐々に大きくなるホルン。俺はそれを見つめ、うっすらと笑いながらチナを見た。
チナ、俺たちのお気に入りのチナ。俺たちはここから先はお前に干渉する事は『できない』。向こうでは、『お前に関しては俺たちはアイツらより干渉する事ができない』。助けてやれないってことだな。
ホルンが大きくなって、チナ一人潜れるくらいになった。俺はその異世界へと繋がるホルンの中に、チナを放り投げた。
チナ、俺たちはお前がなんでアイツらに選ばれたかが分からねぇ。アイツらの選ぶ基準もわからねぇ。だからよ、教えてくれよ。なぜお前が選ばれたかを。俺たちに証明して見せてくれよ。
なあ、チナ。俺たちを、楽しませてくれよ。
消えていくチナを見て、俺はすっげぇ思ったんだよ、このとき。顔を触っても、頬がほんのちょっとだけ上がっててよ。思ったんだよ、俺。
──俺も結局は神サマってことだ。
ホルン
ブラックホールみたいなもの。次元を移動できる。