海に落ちて追いかけられた!
───あぁ、まただ。また、落ちていく感覚。私の体が風を切って、すごい早さで落ちていく。風の音が耳元ですごいする…。風が──……ん?風?…風。…風?え、風?ま、待て待て待て待て待て!!風だと?!今まで落ちてるときって、風なんかあったっけか?!……ヤバイヤバイやばくねぇかこれ!!もしかしてマジで落っこってるんじゃないの?
ふ、不安だ…。け、けど向こうは神様だし!もしかしたらドッキリで風吹かせてるんじゃないの?!そ、そうだよな、へへへ…。
ごおおおぉ……
いや絶対違うだって耳元でこんなにすごい音ほんとに落ちてないとしなくね?!猛烈にやばいでしょ!!
ちなは落ちていく恐怖から思わず目を開けてしまった。目を開けるとそこは青い世界。白いものがうっすらとかかっていて、落ちていくたびにそれを突き抜ける。真っ直ぐに目線をやると、そこはエメラルドグリーンの綺麗な海。呆然とそれを見つめるちなは、ぼんやりと仰向けで落ちていることに気づいた。しかしそれは間違いで、実は頭を下にして落ちていた。しかし気づかないちなはまだぼんやりとして上──下を見た。綺麗なエメラルドグリーン色の海。岸から少し離れている。おそらくこのまま行くと海に落ちるであろう。
徐々に理解し始めるちな。次第に近づく水面。
あれ?さっきまではあんなに遠かったのに何でだろう?いやそんなことよりも。
「たぁあすけてぇええええええ!!!!!」
しかし空でそんなことを叫んでも意味がない。見たこともない少女を、ましてや空から降ってくるような奴を、誰が助けるというのだろうか?いや、助けないだろう。怪しすぎる。
と、いうわけで。ちなは只今絶賛滑落中。あと数秒で海に落ちる。
「ひぇえええええぼぶぉぉおおぶっお!!!」
だっぼーーーーーーん
ブクブクブク
後半は海に落ちて海水を飲みパニックに陥ったものである。エメラルドグリーン色の海があぶく立ち、白い泡が生まれる。その中心にちなはいた。顔面からものすごい速度で水面にぶち当たると、それはそれはすごい威力となる。痛い、と言うのでは生ぬるい。生きているかも分からないくらいだ。
「ぶふぉあっはっばぁっ!!うっぼほぉっ!!けぇっほ」
ちなはどうやら顔面が強いらしい。生きている。ちなはあまりの痛さに顔をしかめながらどうにか泳ごうと身をもがいた。
「おごへっ………ったく。うー、肺に入ったかな、いったー…。のども痛いし」
とりあえず岸にたどり着かなければ、とちなは岸に向かって泳ぎ始めた。するとどうだろうか。あと少しで岸、そんなときに、ちなからそれほど離れていないところで、ばしゃっと何かが跳ね上がる音がした。
ん?と首をそちらに向けると、ちょうどそれが海に戻るところだった。姿は見えなかったが、その水柱から相当な巨体であるということがわかった。ちながそれを見て呆然とすらと、もう一度その水柱が立った。
青とクリーム色のしましま模様な超巨大のマグロ。どうやらハンティング中だったらしく、跳ね上がったときには口に獲物が挟まっていた。マグロはその獲物を逃がさぬよう、しっかりとその鋭すぎる歯を食い込ませていた。
また海に戻る、そう思われたとき、そのマグロがこちらをちらりと向いたように思われた。当然ちなは恐怖するわけで。
「しましマグロがこっち見たーーーー!!!」
もしかしたら喰われる、いや、喰われる。そんな思いがちなに力を与えたらしく、ちなはオリンピック選手顔負けの泳ぎを見せた。
岸に着くと当たり前のごとく大地に突っ伏した。
「はひぃ……」
あんな魚いるのか…。もう一度だけ見たいな。そう思ってちなはほとんどない力を振り絞り、顔を海に向けた。するとどうだろうか。数メートル先、浅瀬にあの青とクリーム色のしましま模様のマグロがこちらを向いているではないか。
半開きの口からだらりと垂れたモノは綺麗な海を赤く染めた。血だ。
「……………」
「……………」
「……………」
ばしゃっ
「お前肺呼吸できたのかぁぁあああっ!!」
ちなは叫ぶと、命への執着心から来る活力で猛然と走り始めた。これを火事場の馬鹿力という。かもしれない。
海から少し離れた、大きな木に登るちな。割と登りやすく、あっという間に幹の分かれ目についた。これで一応恐ろしいモノはみなくてすむ。そうため息をついて下をちらりと見るちな。
じーーーーー。
ガチガチガチ
「お前脚まであるのかよぉぉおおお?!」
木の下にはしましま模様のマグロが蛙のような脚をだし、突っ立って木の上のちなを見つめていた。それを見てちなは絶叫する。
「地球にこんな未確認生物まだいたの?!コレなんだよ!!」
未だに異世界に来たことに気づかないちなであった。




