遊びじゃすまない事もある。~書類を燃やしてはいけません~
書き足しました!!(`・ω・´)
主の元に書類を届けようと束を両手で持ちながら、彼は王宮の中心近くを目指した。
濃い茶色の厚い扉の前、彼は立ち止まる。そして書類を片手で持ち──────
こんこんっ
「シルバ様、入りますよ」
レシーは重厚な作りをした扉をノックしたかと思うと、中からの返事を待たずにずかずかと入り込んだ。
案の定、部屋の持ち主は顔をひきつらせる訳で。
「おい、レシーお前……」
「何でしょうかシルバ様。さ、これが今日の分の書類です」
バッシィーン
主であるシルバの前に書類を勢いよく叩きつける。勢いが良すぎて机の上にあった他の書類が宙を舞う。
シルバは暫く目の前に置かれた書類を見つめ、つっ、とその向こう側でにこやかに微笑む男に目を向ける。
「………これは?」
「書類ですが?」
「いや、これは何だ」
「あぁ…紙ですが?」
「お前……ふざけてるだろう」
「いえまさかそんな」
「…………………」
何度聞いてもにこやかにソレを否定するレシーに、シルバは浅く、かつ長ーくため息をつく。じろりとレシーを見つめ、嫌そうに顔をしかめながら書類を一枚摘む。
「あんなの、ただの遊びだろう」
「大事な書類を燃やすことが遊びとは、ぜひ聞きたいですねどこが遊びなのか。えぇぜひとも」
シルバがレシーにチェスの相手として逃げられた後、シルバは嫌がらせでレシーの机の引き出しの中にあった書類を適当に掴み、魔術で燃やしたのだ。
「………これ、全部か」
「もちろんです」
「お前が」
「あぁ、そうそうシルバ様!」
シルバが何か言う前に、レシーがポンと手を打ちながら話し掛ける。
「あなたが燃やした書類、なんだと思います?」
「………あ?」
「いやあ偶然ですよねぇ~まさか新しい魔調師の滞在許可証と国尽証明証だったんですから。いやぁ、ほんとに偶然ですよねぇ~」
レシーはにこやかに、ソレはソレはにこやかにシルバに笑いかけ、トントン、と書類の一番上を指で叩いた。それを聞くシルバは、いつもの余裕そうな顔をみるみる歪ませ、青ざめ始めた。
滞在許可証とは、そのままであるが、その国に滞在を許す許可証のことだ。国尽証明証とは、『国に尽くすことを誓った』ことの証明証である。その国の王宮に仕えるとき、誰もがそれを貰うのだ。これらは対になっており、その国のもの、と言う証明証にもなる。つまり、これらがあることによってその国の人間となれるのだ。
大事な書類、と言うことなのだ、つまりは。
「ねぇ、シルバ様?これ、やりますよね?」
「……そんなものをあんな引き出しにしまっとくなこのモヤシが」
「おや、どこになにを仕舞おうが、あそこは私の仕事部屋なのでシルバ様には関係ないはずですが。とにかく、それを燃やしたんです、必ずコレはやっていただきますからね」
がっくり。そうとしか形容のしようがない落胆ブリをシルバは体で表現し、嫌そうに書類を二枚手に取った。
シルバはその書類をチラリと見て、怪訝そうに眉を寄せる。
「おいレシー」
「はい?」
「これはどう言うことだ」
シルバがレシーに突きつけたのは、新しい魔調師になる少女の報告書と、職業証明証の書類だった。
「お前、この前新しく勧誘した魔調師は記憶があやふやだ、と言っていなかったか?」
不機嫌そうに言うシルバの指摘を受けて、あぁ!と頷くレシー。彼は苦笑いを浮かべて遅い報告をする。
「先日、魔調隊隊長、ロイから報告が上がりまして、そのチナ…と言う少女。実は記憶喪失ではないことが発覚したそうです」
それを聞いて思いっきり顔をしかめる。嫌そうにその書類を睨み付け、次にレシーを睨み付けた。
不機嫌さを隠そうともせず、シルバは低い声でもう一枚の書類を突き出す。
「……なぜ嘘を付くような奴に証明証を出さねばいけない。いかにも怪しいだろうが」
するとレシーは肩をすくめ、事も無げに言い放つ。
「彼女は様々な魔獣に好かれています。あのグリフォンにさえ好かれている。これは良い戦力となります」
「それだけで、許可するのか?……俺は嫌だ、こんな怪しい奴に証明証を渡すなど」
「いいのですか?」
「………なに?」
レシーは目を細めてシルバを見つめる。シルバは居心地悪そうに椅子に座り直した後、レシーを睨み付ける。
「彼女はロイに匹敵するほどの才があります。様々な魔獣を従えることが出来れば、他の国から侵攻されることも、この国にとって最良の条約や貿易を結びつけられます。彼女は利用する価値があります」
「………」
「たとえ必要な書類がなくとも、彼女に知られなければ拘束力はあります。彼女は国にとって有益です」
シルバは眉を寄せながら、レシーに質問をした。
「もし、知られたらどうするんだ」
レシーはにっこりと微笑む。シルバには、その笑みがなにを当たり前なことを、と言っているように感じられ、背に冷たいものが走るのを感じた。
「その時は、消すだけでしょう?」
シルバは苦笑して、そうだよな、と呟き、その書類にサインをする。
こうして、チナは晴れて魔調師となったのだった。しかしチナは隠し事には気づかない。今はまだ────




