指輪ものがたり 16
シェラさんとシグウェルさんの交わす会話の中身からして、今回のシグウェルさんの大魔法にはどうやらシェラさんも関係しているみたいだ。
そう思ったのは私だけじゃなかったようで、それまで二人の会話を黙って聞いていたユリウスさんもついに耐えきれなくなったように声を上げた。
「団長のあの国家崩壊規模の大魔法を作るのにアンタまで関わってたんすか⁉︎任務でもないのに部下まで使って小隊の情報収集能力を利用するとか何考えてるんすか!」
そんなユリウスさんに、
「誤解しないでください。今回の情報収集には部下も小隊も使っておりませんよ?任務の合間にオレが個人的に集めた情報です。」
とシェラさんは機嫌の良い猫のように目を細めた。
「それにしてもその話しぶりではかなり大きな魔法になったようですね。どれほど壮大で美しい大魔法になったのか、この目で確かめられなかったのが残念です。」
「一歩間違えればマジで国が一つ破綻するとこでしたからね⁉︎魔法が命の魔導士だらけの土地なのに肝心の魔力を封じられたんすから‼︎」
「ユーリ様にご迷惑をかける者など国ごと滅びてしまえばよいのです。」
「横暴!どこの過激派っすか、マジでタチが悪い‼︎狂信者怖いっす‼︎」
ひぃ、と悲鳴をあげたユリウスさんの横でシグウェルさんが
「あれはなかなか面白い魔法になった。まだ多少改良の余地があるから機会があればより完璧な状態でいつか君にも見せてやろう」
なんて言ってまたユリウスさんの顔色を悪くさせた。
「またあんな魔法を使う状況があるなんて、そんなのもう二度とごめんっすよ‼︎」
だけどそんなユリウスさんの言葉を綺麗に無視したシグウェルさんはシェラさんを
「それよりこんなところで立ち話をしていてはユーリの体を冷やす。俺達はこれからユールヴァルト家のタウンハウスに移動するが君も来るか?」
と誘った。その言葉にシェラさんが嬉しげに目を細めて色気のある笑顔を顔に浮かべた。
「おや、よろしいので?」
「ここでこうして一晩中でも待つつもりだった君のことだ、どうせ今さら離れるつもりもないのだろう?それにユーリは体力をつけたいそうだ」
・・・ん?意味深な口調のその言葉に引っ掛かる。
クレイトスから移動してきてからもまだ何となく抱きしめられていたシグウェルさんを見上げれば、
「さっきユリウスと話していただろう?体力作りがどうとか」
と返された。
「それは言いましたけど・・・」
「だから俺とシェラザードも手伝ってやる。とりあえず今日もまだ夜明けまで数時間はあるし、また明日もだ。体力作りは継続的な運動が基本だから理想は二日続けた運動の後に一日の休息がいいだろう。」
「言ってることの意味が分からないです・・・!」
いや、薄々分かってはいるけど分かりたくはない。
そう思ってシグウェルさんから離れようとしたら逆にぐいと引き寄せられた。
「分からない?本当か?なら分からせてやらないといけないな。騎士団までわざわざ出かけなくても伴侶として俺が君に体力をつけてやる方法があると言っているんだが。」
「当然オレも喜んで協力いたしますよ。最初はあまり激しくなく、緩めに時間をかけてあげる方が体力のないユーリ様には良いでしょうね。短時間で高負荷の運動よりも長時間で低い負荷の運動を繰り返す方が持久力がついて後々体力の向上にもなるでしょう。」
確かに、短距離走よりもマラソンをする方が体力はつきそうだ。だけど問題は二人の言っているそれがマラソンじゃなくて別の「運動」を示していることなわけで。
「む、無理・・・。無理です、連日2人がかりとか」
そう首を振れば、
「なんだやっぱり分かっているじゃないか。」
「頑張りましょうねユーリ様。大丈夫、ユーリ様はやれば出来る子ですし努力家ですから、慣れて体力が付けばそのうちオレ達二人だけでなく四人全員一緒にお相手出来るようになりますよ。」
両側を二人に挟まれた。いや、四人全員相手にするって。
「やっぱりそういうことじゃないですかぁ‼︎」
ユリウスさんばりに悲鳴のような声を上げたけど私達の足元の魔法陣が光る。
どうやらこのまま魔法陣を使って直接ユールヴァルト家のタウンハウスに移動するらしい。
「ご愁傷様っす、ユーリ様。いやあ伴侶がいっぱいいるって大変っすね・・・」
ユリウスさんには気の毒そうな目で見られたけど、同情するなら二人を止めて欲しい。
それなのに、タウンハウスに着くやいなやユリウスさんは薄情にも
「俺はこの後殿下に怒られる準備をしなきゃいけないんで、その前にゆっくり休ませてもらうっす!」
とさっさと消えてしまった。エル君もいつの間にかいない。残されたのは私達三人だけだ。
「さてそれでは部屋に行くか」
「任務でお会いできなくて寂しかったですよユーリ様。」
シグウェルさんに片手をぐいと引かれて歩かされ、もう片方の手はシェラさんにとられて手首に口付けを落とされる。
「わ、私も休みたいです・・・!」
悪あがきのようにそう言えば、
「たくさん運動した後の方がぐっすりとよく眠れて休めますよ」
「手が冷たい、外で長く話し過ぎたな。体が冷え切っているようだから暖めてやろう。その方がよく休めるだろう」
二人から口々にそんなことを言われる。
「私の言った体力作りって、そーいう事じゃないんですよ!もっとこう、健全で建設的な・・・!」
すると寝室の扉に手をかけたシグウェルさんがほう、と私に振り向いた。
「では逆に、一体何が不健全で建設的でないのか知りたいものだな。君に体力がつき夫婦の中も深まる、さてこれのどこが悪いというのだろう?」
こ、こんな時まで論理的な説明を求めるとは。ていうかこれ、開き直ってないかな⁉︎
どう返したものかと言葉に詰まれば、後ろからはシェラさんに
「ユーリ様は照れておられるだけですものね。大丈夫ですよ、すぐにそんな恥ずかしさなど忘れてしまうくらいオレがご奉仕しますから、頑張って体力をつけましょうね」
と不穏な言葉と共にまた一つ、今度はちゅ、と吸い付くような口付けを手首に落とされた。
ひぃ、もうこれは体力をつけるどころか消耗させられる未来しか見えないし絶対にゆっくり眠ることなんて出来ない。
ぶんぶんと首を振ったけど前からは手を引かれ、後ろからはぐいぐいと押されあっという間に部屋の中へ引き込まれる。
その後はお察しの通りだ。夜が明けて、ぐったりした私を前に二人は
「加減が難しいな」
だの
「ユーリ様が可愛らしいのでついやり過ぎてしまいますね」
だの全く反省の色のない事を口々に言い王宮に報告に行く支度をしたり、私の朝の世話の準備のためにとそれぞれ動き始めた。
・・・この人達、なんで寝てないのにこんなに元気なの?
しかもシグウェルさんは大魔法を使ってさらに魔法陣での移動を二回も繰り返した後だったし、シェラさんは任務明けから魔導士院へ直行して夜通し私達がクレイトスから戻るのを待っていたはずだ。
「た、体力お化け・・・」
枕につっ伏してうう。と唸るようにそう言えば、二人ともぴたりと動きを止めて私のうつ伏せているベッドに寄ってくると、すとんと両脇に腰掛けた。
「今夜はもっと加減して君の体力を考えよう」
とシグウェルさんは私の頭をひと撫でして、シェラさんは
「途中で回復魔法を使われると体力作りにはなりませんからね、オレも今夜はその辺りを見極めてユーリ様が疲れ過ぎないギリギリを攻めてみようと思います」
とひと掬いした髪の毛に口付けを落とされた。
違う、そういうことじゃない。私の望んだ体力作りってコレジャナイ。
そう言いたかったけどその気力もなくそのまま気を失うように眠りに引き込まれてしまう。
そして当然こんなことで体力なんかつくわけもなく、挙げ句の果てにリオン様には
「本当にユーリって揚げ足を取られやすいよね。」
と笑われて、
「じゃあ次は僕とレジナスで頑張ろうか?」
と不穏な事を隣のレジナスさんに提案して、レジナスさんまでそんなリオン様をたしなめるでもなく
「ユーリさえ良ければ俺もいつでも」
と頷く始末だ。
こうしてシグウェルさんの婚約騒動は結局なぜか私だけが損な役回りをして終わることになり、後からいくら考えても「どうしてこうなった?」と首を捻るしかない結果になったのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。感想・レビュー・ブックマーク・評価等は作者励みとなりますのでよろしくお願いします!




