衣食住は大事
「しばらくこの街を拠点にするんだろう?」
「はい。その予定です」
「そうかそうかー坊主頑張れよ~」
にこにこ良い笑顔だ。面倒見の良いお兄さんタイプ。最高か?
「ここがメイン通りだな。宿屋はこっちだ」
「はい!」
門に入ってすぐメイン通りじゃないあたり防御に適した街といえる。
どの建物も基本レンガ作りだ。
「このあたりは強いモンスターとか出るんですか?」
「いや、森の奥に行かなきゃ坊主でも安全に倒せると思うぞ?南の森は子供でも倒せる食用ラビットが稀に出るのと、東の平原でキャタピラーを見るくらいかな。北は川で洗濯とかされてる。川を越えると危ないな。ここが宿屋だ」
「そうなんですね」
キャタピラーってどんなモンスターなんだろう。草原だからバッタ系とか?飛び跳ねるだったら嫌だな。
シェスタさんの後を追って宿屋に入る。
木造2階だての庶民旅館のようなところのようだ。
温かみがあるし、メイン通りからも近いから非常にありがたい。
「おばちゃんこんにちは、お客さん連れてきたよ」
宿屋の女将さんと仲が良いらしい。
優しそうなおかみさんだ。
「こんにちは。おや、かわいい坊やだね。その子かい?」
「はい。はじめまして。クライマーといいます。」
第一印象は大切に。
「坊主、名前クライマーっていうのか」
「なんだい。名前も知らず連れまわしたのかい?」
「あーーいや、うん」
「そういえば自己紹介まだでしたね。クライマーって言います」
「すまんな。シェスタだ。西門で門番してる。困ったら来い。あ、いや、こまらなくても来い。」
シェスタの顔は全力で心配していると語ってる。
「ふふ、ありがとうございます。シェスタさん」
「まあまあ仲が良いねえ」
思わず笑ってしまった。
シェスタさんは照れくさそうにしてる
ほのぼの良いな。この街で活動するにあたってここの宿に帰ってこれたら最高だろう。
「冒険者として連泊したいんですけど1泊おいくらですか?」
「そうだね。今は繁栄期じゃないから1泊40デルだが。連泊してくれるっていうから25デルでいいよ。朝夕つきだよ。」
デルってなんだ。大分まけてくれた気がするけどわからない。
ええい、今は幼い子供だ。常識知らなくても大人より白い目で見られないだろう!
「すみません。金額が分からないのですが、これで何拍できますか?」
お金のぎっしり入った麻袋をカウンターに乗せる。
「お金の数え方わからないのか。1銅貨1デルだ。これ25枚で1泊できる。100銅貨で1銀貨だ。100銀貨で1金貨。まあ、金貨はまず早々見ないと思う。わかったか?」
「はい!ありがとうございます。」
つまり
1銅貨1デル
1銀貨100デル
1金貨10000デル
という事か。数え方が分かったのは非常にありがたい。
「クライマー君のお金は全部で80デルだから今のままでも最大3日は泊まれるよ」
「じゃあとりあえず、3日お願いします。」
「5デルしか残らないけれど大丈夫かい?」
「はい。大丈夫です。売りたいアイテムもあるのでそれで工面します」
半日食用ウサギを狩ればだいたい3日分宿泊できる
+手に入れたアイテムを売るなり加工するなりして活用すれば万々歳だろう。
「アイテム売りたいのか、じゃあ次は素材屋だな」
「気を付けてね。24時間ここに誰かいるから何かあったら駆け込むんだよ。夕飯は夕方だよ」
「はい。おかみさん行ってきます」
おかみさんの温かい笑顔で宿屋を後にする。
宿屋を出るとシェスタさんに手を握られた。
剣を振るうゴツゴツした男の人の手だ。迷子防止という名目が少し残念だが……
「表通りにある素材屋は高いから俺の知人の所行こうか」
「いくつも素材屋さんがあるんですか?」
「この街では3つかな。大通りに素材屋と高級素材屋、あとは1本道を行った俺の知人の所。直接職人に売りに行く方法もあるけど、職人は気難しい人が多いから素材屋に売るのが一番だと思うよ」
「そうなんですね」
やはりどこの世界でも職人は気難しいと言われるようだ。
何度か角を曲がると目的のお店についたようだ。
陽だまりのような温かみのあるレンガ作りのお店だ。
「ちょっと道複雑だけど覚えられそう?」
「大丈夫です」
「クライマーは頭がいいなあ」
このくらいの記憶力で褒めてもらえるとか前世の荒んだOL心が癒される。
前世の地下の駅なんかよりよっぽど覚えやすいんだ。あの迷路のようなコンクリートの壁より様々なレンガ造りの家は特徴的で覚えやすい。
「ソルティいるかい?」
「いらっしゃいってシェスタじゃないか。何か入りようかい?」
「お客さんを連れてきた」
そう言ってシェスタさんが半身ずれ前に出される。
「はじめまして。クライマーです。今日は素材を売りに来ました。」
「いらっしゃい!俺は店主のソルティ。何を売りに来たのか見せてくれるかい?」
前かがみになって目線を合わせてくれる。
子供に対するスキル高いなソルティさん。
「えっと、食用ウサギの革2枚と薬草の葉っぱを13枚お願いします」
ポケットから素材を取り出し眼鏡をかけたソルティさんに渡す。
あのメガネは鑑定用なのだろうか?
「どれどれ。……え!?ちょ、ちょっと奥で鑑定してきてもいいかい?」
!?
ソルティさんが驚いてカウンターの奥へ走っていった。
売り物にならないとか?変なものもちこんじゃたとか?
貴族でよくある手袋を投げつけると決闘みたいなルールが素材屋にあったらどうしよう。
それはそれで文化として面白いけど
「レア素材かもな」
「レア素材ですか?」
そわそわしていたらシェスタさんが答えてくれた。
「ドロップアイテムにしろ、採取したアイテムにしろ低確率でレア素材だったりする。上薬草とか食用ウサギの上革とか」
「はわーそうなんですね」
鑑定のレベルが低かったせいかどれも同じ名前だったのでわからなかった。
レア素材だったら売るのもったいなかったりして。
「まあ、あいつは無理に買い取ったりしないで売り手にとって最も良い使い道提示してくれるから大丈夫だ」
「これ売らないで職人さんにアイテム作ってもらった方がいいよ!」
「ほらな?で、何がレアアイテムだったんだ?」
「食用ウサギの上革2枚と、上薬草8枚!」
ほとんどじゃないか。レアとはなんなんだ。
「食用ウサギの上革は2枚でアイテムバックにするべきだ。
見た目に反して結構入るよ!
あと上薬草はハイポーションを作る材料になるから
作ってから薬師に売れば3倍の値段になる!普通の薬草は逆にそのまま売った方が解毒薬とかになるから高い。こんなにたくさんのレア素材始めてた!で。どうする!?職人に紹介状かこうか!?」
THEマシンガントークだ。前世の友人の以上にはきはきしてないか?
にしても有益すぎる情報がありがたい。
食用ウサギの上革2枚でアイテムバック。ハイポーションで3倍。ぼろもうけできそう
「おうおういっぺんにしゃべんな。」
「えっと、情報ありがとうございます。紹介状書いてもらってもいいですか?」
「もちろんだよ!」
「情報量はいくらになりますか?」
「いいよいいよ。こんな僻地でよい素材みしてもらったから!あ、もしよかったらこれからこの店をひいきにしてくれるとうれしいな!情報いっぱい持ってるから!ね!?」
「それはもう是非お願いします。面白い素材が手に入ったらいの一番来ますね!」
これぞウィンウィンな関係だ。情報はお金になる。とてもありがたい。
「よし、次行くぞ」
「まってるから~」
職人さんへの紹介状と買い取ってもらった薬草5枚と上薬草2枚でしめて30デルだ。
上薬草は1枚10デルだったのでハイポーションにした場合30デルにもなる。上薬草を見つけるだけで1泊できるとても素晴らしい!
ギルドでほかの街へのワープができるらしく、いくら売っても物価は変わらないというのがもう最高だ。
ここは夢の国なのではないか?
「良かった!今日中に職人の所に行くかい?」
「いえ職人さんの都合のよい時にあってもらえるようにアポイントを取りたいんですけどどうすればいいですかね?」
集中しているときに邪魔が入ったら誰だって嫌だろう。職人さんならなおさらだ。
社会人・アポイント大事。
「そしたら店に行ってカウンターで言ってみようか。職人さんは基本表には出てこないから」
「そうなんですね。と言いたいところなんですけど。先に服屋に寄りたいです。この服じゃあんましですし」
「その歳でそこまで気にしなくてもいいと思うけど、了解。こっちだ」
個人的にも商談には良いものを着て、子供だからと足元を見られないようにしたい。
服はYシャツに半ズボン1枚。おしゃれ帽子と靴を購入した。ちょうど合計30ディルだったが、シェスタが代わりに払ってくれた。水筒のお礼だそうだ。
あの水筒は冷却機能がついており、結構なお値段がするのだそうだ。
昼間に生ぬるい水は鎧をまとった門兵には辛そうだ。
「おー結構見違えるな」
「そうですか?自分じゃよくわからないです」
着替えて出ると褒められた。
鏡がないのでよくわからないけれど、そんなに薄汚れていたのだろうか?
好印象に変わったのであればよかった。今まで身に着けていた服は宿の部屋に無料で送ってくれるそうなのでてぶらだ。
「さあアポイントとったら飯にしよう。お腹が空いた」
「そういえば、お昼すぎてましたね」
高かった太陽は傾いていた。15時ぐらいだろうか?
思い出したらお腹が空いてきた。これはとっとと終わらせよう。
あちこちで金属を叩く音がするエリアに到着した。
そのうち武器錬成もお願いしたいものだ。
大きなカウンターで武器職人、防具職人、鍛冶職人とそれぞれ面会を設置してくれるようだ。
多くのカウンターでもめていたりと結構人でごった返している。やはり職人にアポイントを取らず強引に行こうとする冒険者が多いようだ。
人が多いのでシェスタさんには店の外で待ってもらっている。
人の合間を抜け、
背伸びでカウンターごしの女性に声をかけた。
「すみません」
「いらっしゃいませ。何をお求めでしょうか」
酷く冷めた対応を淡々とされる。
毎日このごった返しだとそうなるだろう。ナンパとかひどそう。
さくっと終わらせよう。
「アイテムバックの製造をお願いしたくてきました。これが紹介状です。」
「確認しました。アイテムバックですか。相場は素材なしで100デル素材を持ち込んでいただいた場合30デルとなります。」
「素材ありでお願いします。」
「職人にいつお会いしますか?」
「いえ、お忙しいと思うので職人さんの都合のよい時に面会をお願いしたく思います」
「……」
初めてカウンターの女性がこちらをきちんと見た。
雑多な客から顧客への一歩を踏み出せたようだ。
「……私の父がアイテムバックを作れます。明日の朝もう一度いらしてください。鐘が3度なってからでかまいません」
「ありがとうございます。」
会釈して去る。
壁際でシェスタさんが腕を組んで待っている。長身ゆえになおかっこいい。
私の大きくなったらシェスタさんのようになれるだろうか。
はっいかんいかん。
「シェスタさんお待たせしました。」
「うまくいったか?」
「明日の朝面会をしてくださるそうです」
「よかったな!っし飯行こうか」
「はい!お腹ペコペコです」
「よし、お兄さんのおごりだ!肉でいいか?」
「えっそんな」
服も買ってもらったのに悪いと思って断ろうとしたら、途端にしょぼんとしていまった。
ギャップがすごい。
あまたの女性を恋に落としてそうなシェスタさん……なんて罪作りな
「ご、ごちそうになります」
「ああ!」
さわやか笑顔が戻った。わんちゃんのようだ。
適当なお店に入っておすすめプレートを頼んだのだが、簡潔に言うと大胆な料理だった。
味つけはどれも塩のみで、鶏肉らしきものは所々焦げており、黒パンは野菜入り塩スープにつけても固かった。
シェスタさんはボリュームがあればよいって顔をしていた。
前世では自炊をし、時にはRPGゲーム以外に特に使いどころのなかったお金でおいしいものを食べていた私にはしんどかった。
食の革命が必要だ。
「シェスタさん。お願いがあります」
「お、おう。どうした」
私の真剣さが伝わったのかナイフとフォークを置いたシェスタさん
なんとしてでも胡椒、バター、砂糖は手に入れなければ。
味噌、みりん、酢、醤油がなければ作る!!最優先で作る!
「調味料店の場所を教えてください」
「え?ああ、素材屋で売ってるぞ……?」
「!!ありがとうございます」
「お、おう」
素材屋さんで売っているとは!もしやモンスターが落とすのでは?
ふふふ、明日はおいしい料理です。
お読みいただきありがとうございます。