お茶会
なんだかんだ開店準備、畑拡張、仕事のローテーションを決め、新料理開発などをしていたら、あっという間にシェスタさんたちを招待する日となった。
15時のおやつ時なので、今日ははちみつを練りこんだ甘いパンと、一口大の様々な味のサンドイッチ。それと手作り紅茶だ。シェスタさんが生茶の苗木を手に入れてくれたので、それを成長させ摘み取ったのだ。
どうやって短期間で摘み取ったのかというと、私専用の温室で育て上げたのだ。エスカテ達に混ざって農業していたら、いつの間にか職業〚農民〛と、スキル〚自動成長〛を手に入れていた。
〚自動成長〛
瞬時に植物成長をさせるスキル。道具不必要。
最強なスキルだ。これにより、いつでも薬草取り放題。野菜収穫し放題。となったので万々歳だ。食料問題は無事解決したと言える。まあ、この能力がバレたら国にドナドナされて使いつぶされる未来しかないので、急遽私専用の温室を建て、セルたち初期の4人以外、近づかないように言明した。近づいたら重い罰則を与えると伝えているので誰も近寄らない。3色寝床、お風呂付は下手したらその辺の下級貴族より良い暮らしらしく、皆きちんと守ってくれている。
因みにお花も植えており、テイムしたモンスターのハニー2号に、はちみつを集めてもらっている。
他にも果物の木や挿し木可能な良質な木も植えているので森を伐採しつくさなくても建築材料が手に入るようになった。温度調整はどうやっているのか、というと生活魔法で一定温度に保てており、益々チートだ。
売り出すパンの試食用にブルーベリーパンが焼けたので味見をする。焼きたてなのも相まってふわっふわだ、その中のブルベリーの甘酸っぱい味が口に広がってとてもおいしい。
「美味しそうな香りだな。色は、紫って面白いな」
「マスターつまみ食いばかりですと、お腹いっぱいになってしまいますよ」
「セルとデリアスもつまみ食いするでしょ?はい、あーん」
料理を手伝ってれている、2人にパンを差し出す。パクリと食べた二人もこれでつまみ食い共犯者だ。ふふふ
「んー!甘酸っぱさが癖になります!とてもおいしいです」
「ブルーベリーをパンにって最初は驚いたけど、流石だ。上手い。マスターは何でもおいしい組み合わせを考案するなあ」
2人のお墨付きを頂いたのでふふんと、どや顔をしておくとアスがやってきた。
警護を任せている、アンリ、アス、アメリアの3人には、素材庫以外の間取りをすべて教えており、今回はシェスタさんたちが来たら教えてくれるようお願いしておいたのだ。
「ご主人様、シェスタ様御一行がいらっしゃいました」
「ありがとう、アス。これ、今日のおやつに皆で食べて?新作のブルーベリーパン」
「わあ!ありがとうございます!いつも通り感想を書きまとめておきますね!」
「御願いね~」
ブルーベリーパンが山盛り摘んである籠を渡すといつもすましたアスが顔を綻ばせる。美味しい物にはかなわないようだ。ルンルンと籠をもって寮へ行くアスを見送ってから玄関に向かうと、シェスタさんたちがソワソワと居心地悪そうに待っていた。私の姿を確認するとほっとしたように息を吐く3人。
「良かった。家間違えたのかと思った……」
「ここらには私たちの家しかないですから、さあどうぞ、上がってください。あ、靴を脱いでスリッパに履き替えてもらえますか?」
「え、ああ。お、お邪魔いたします」
「お邪魔いたします。」
「お邪魔、します」
ソロソロと入ってくる3人は緊張しているようで顔がこわばっている。スリッパに履き替えてもらい、客室へと案内した。下級貴族の別荘並の広さだけど、そんな恐縮しなくてもいいのになーと言ってもきっと3人は変わらないだろう。であれば、美味しいものでリラックスしてもらうしかない。
客間に案内すると三人の視線はテーブルの上に釘付けとなった。焼きたての新作パンが所狭しと並べてあるのだ。座ったタイミングでセルたちが手拭きを渡すと三人は丁寧に拭いてお行儀よく膝の上に手を置いて静止している。
ちょっと失礼かもしれないが待てを言われているワンちゃんのようだ。セルが紅茶を用意してくれたので、さっそくお茶会だ。
「今日は来ていただいてありがとうございます。お世話になっているお礼としてはささやかですけど、焼きたての新作パンです。冷めないうちにどうぞ、召し上がれ」
「新作パン!!!招待ありがとう!」
「シェスタ兄さん、失礼ですよ。招待ありがとうございます。この飲み物は、何ですか?とても良い香りがします」
「ほんとシェスタは食い意地が張ってるな。クライマー君素敵なお茶会に招待をありがとう。頂くね」
「この飲み物は紅茶です。自家製なのでブランド名はないですけど、つけるとしたら、クラン〚黄金の雲〛の紅茶ですかね」
「あっそうだよ!ソルティに聞いたけどクラン立ち上げたんだってね!おめでとう!えっこの、紅茶美味しい。香りが凄い、うまいな!」
「兄さん感想が色々ガバガバですよ。美味しいですけど。この茶葉も黄金の雲ベーカリーで販売したりするんですか?このチーズが入っているパンとコンビネーションが絶妙ですし、絶対売れますよ!セット販売とか」
「エレティも落ち着け。本当に兄弟揃って美味しいものに目がないな。まあ俺もだけど。クライマー君、この柑橘系の果肉が練りこんであるやつは何て言うんだ?」
「ええっと紅茶は今のところ売り出す予定はないですね。意外性を持たせるために小出しにしていく予定です。そのパンは果物のオレンジが練りこんでありますよ」
「ああ、幸せすぎて昇天しそうだ。こんなにおいしい食べ物生まれて初めて食べた。サンドイッチも味付けが違って美味しいし…」
私もサンドイッチを一つ、パクリと食べる。前世馴染みの卵サンドはとても美味しい。赤鶏の卵からマヨネーズも作れたので、ソースの幅も一気に広がったのだ。そのうちマヨコーンパンとかも売り出したいな。今度シェスタさんにトウモロコシについて頼んでみよう。
十二分に用意したパンたちは3人の胃袋に瞬く間に吸収された。衛兵であるシェスタさんとトルクさんも居るのでかなり多めに作ったんだけどなあ。3人とも満足そうなので良かった。
一息ついたところで改めて室内を見渡される。
「少し前まで森と川しかなかったところに、門に庭と屋敷、クライマー君本当に凄いなあ。」
「僕より年下って思えないですよ。美味しい料理も作れちゃうって尊敬します」
「皆さんが手伝ってくれたおかげです。最初、硬貨について何も知らなかった私を助けてくれたシェスタさんたちが居なかったらこうはならなかったですよ」
「そう言って貰えると、嬉しいな」
へへっとはにかむシェスタさんは相変わらずハンサムだ。隣に座っていたセルも嬉しそうに紅茶を楽しんでいる。横顔が良すぎる……。はっいかんいかん、思考が飛んでいた。
「そうそう、来週からお店を始めるにあたってエレティさんに制服を用意したんです」
「制服頂けるんですか!?」
「店員さんって一目見て分かるようにと思って。お店に来るまでは私服で、業務員室で着替えて…とちょうどお店の方案内しちゃいましょうか。口で言うより見た方が分かりやすいですし。ふふ、お二人も見て行かれますか?」
「「是非!」」
お店の話をし始め見たいと顔に書いた二人も連れてお店に向かう。店正面に行くとエレティさんが目を輝かせて、ここで働けるだなんて…なんて素敵なんでしょう。と呟いた。掴みは上々だ。
店内に入り販売方法を説明する。
店員にほしいパンを言って包装してもらう形式だ。お客に商品は触らせない事としており。既にワンセットとしてある紙袋は、レジカウンターに持っていき清算する形だ。
治安の良いヘスカティアに近いため盗む人や乱暴する人はいないと思うが開店してみて試行錯誤していく形となる。
開店して暫くは紙袋のセットのみ販売予定だ。その後、売れ行きや忙しさを見て種類を増やしたりする事になるだろう。ジャムなども瓶詰で用意してあるがどうなる事やら。
前世では、新作パンなどは味見用に置いてあり、購入するかしないか大変ありがたかったのを覚えている。今回も入口で籠をもってアンリやアメリアに警護を兼ねて一人一口大に配ってもらう予定だ。
「しばらくの間、僕は紙袋で判断してカウンターで清算をすればよいという事ですね?」
「そうだね。盗みを働いた人が居たら他の者に対応させるから、お会計の時に何かあったら対応してくれる?」
「分かりました!不届き物は静かに沈めてやります!」
「ふふ、頼もしいね!開店は11時から13時。お昼休憩を取ってもらって午後14時から16時までを予定してる。いつも売るパンはこの四角い食パンとクロワッサンと塩パン。食パンはサンドイッチに耳なしで使ったパンだね。あとは、日替わりで2種出す予定。と言っても名前は追々覚えてもらえればいいんだ。暫く紙袋のセットで売るからね」
「食パン、クロワッサン、塩パンですね!記憶力は良いので任せてください!!」
食べ物に対する意気込み凄いわ。セット内容は、全部で3種類。食パンとクロワッサンと塩パンの〚定番セット〛が銅貨12枚。日替わりのパンをそれぞれ入れた〚日替わりセット〛が銅貨8枚。定番セットと日替わりセットを合わせた〚ボリューミーセット〛が銅貨20枚。となっている。パン1種類、銅貨4枚計算とお高めだが、黒パンにとって代わる一般家庭の常用食を目指しているわけでは無いので十分だ。デザートになりえる甘いパンはもう少し高くする予定だ。
「開店当日は私も居るから、そう気張らずにやってくれると嬉しいよ。奥のスタッフルーム、あ、これ従業員室の事ね。行こうか」
「すたっふるーむ…すべてがかっこいいな」
「だな。衛兵辞めてここの警護人になりたい…」
「俺もなりたい」
「軌道に乗るか分からないんですから落ち着いて下さい。時期尚早ですよ。エレティさん開店閉店は表の戸締り後、裏口から出入りしてください。裏口の鍵は私とセル、デリアスしか持っていないので、貴重品以外でしたら勤務中この棚に置いておいても大丈夫です。これが制服です着替えてもらえますか?」
「!!はい!」
勢いよく服を脱いで着るエレティさん。いや、まあここには男性しかいませんけど大胆だな。腰エプロンのつけ方がわからなかったようなので手伝うと、私の想像通りのキリッとした店員さんが完成した。ハンチング帽もとてもよく似合っている。
「「おおー店員さんだ」」
「どうですか?違和感ないですか?」
「見た目完璧。動きづらいとかあったりする?」
「いえ、ぴっちりしていないので自由に動けます。この服でも喧しい輩をばっちり地に沈められそうです!」
屈伸したり腕を伸ばしたりしつつ、笑顔だけど、宣言する内容が物騒すぎる。いったい今までどんな客に出会ってきたんだろうか。確認も終わったので私服に着替え直してもらい店を後にする。なんだかんだもう日が落ち始めている。もうそんな時間かあ早いなあと思案していると二人が私に向き直った。
「……この短い期間で開店するとは、感慨深いな。クライマー君。お願いがある。」
「軌道に乗ったらでいいんだ。俺らを雇ってほしい。重い荷物も運べるし体力にも自信がある。衛兵の経験で守ることもできる。考えてもらえないだろうか?」
真剣な表情の二人に苦笑して答える。
「そう言って貰えてうれしいです。警備面は不安がありますからね。軌道に乗っても働きたいと思って下さったらその時は、ぜひお願いしますね」
「ああ!!!ありがとう!」
「その日が早く来るのを楽しみにしている!」
「良かったですね。といっても務めるのは私が先なので先輩です」
「いうようになったな~このこの~」
「ふっ先輩頼りにしてるぞ」
ジャレあう3人はまるで兄弟のように仲良しだ。夜も近づいているのでお開きには良いころ合いだな。
お土産としてパンをプレゼントし解散する。
「それじゃあ、シェスタさん、トルクさん、また今度お会いしましょうね!エレティさんは明後日お願いしますね!」
「美味しいパンありがとうなー」
「ご馳走様!開店日は即行くから」
「明後日頑張ります!」
夕日をバックに帰っていく3人をちょっと羨ましいなと見つめているとセルに手を握られた。
「私たちも帰りましょう」
「…うん。帰ろう」
普段つながない手と手。たまには良いかもしれない。自然と頬が上がる。
「今日はシチューにしよう!」
「しちゅー楽しみです!」
お読みいただきありがとうございます




