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黄金の雲

 


 目が覚め、いつも通り動き出す朝。ご飯を食べ終わり、キャストルクはウォリアスに動物のお世話の仕方を教えに。エスカテはノードと畑をいじりに。デリアスはトトが生け簀の管理方法を教えに。それぞれ動き出す。

 セルは私の隣で調理を手伝ってくれている。各いう私は昼食用のパン生地を練りこんでいるところだ。

 人数も増えたので、毎日私がふわふわのパンを練るのは時間がかかる、料理人も居るのだし、もっと効率的な方法を探すべきだろう。ふわふわパンと、黒パンの作る工程はそう変わらない。大きな違いはドライイーストを使ってるかいないか。あとはバターをどういう風に練りこむかなどだ。ここら辺は教えれば問題ない。

 ふと思ったのは、鑑定スキルで小麦粉はそのまま〚小麦粉〛と表示される。100%小麦粉でなければいけないわけでもないだろう。不純物がほんの少量混ざっていても小麦粉と表示されるのではないか。って事は、小麦粉にドライイーストを少量混ぜたところで〚小麦粉〛のままであれば―――

 早速試してみることにした。

 粉状のドライイーストを小麦粉と混ぜる。見た目100%小麦粉だ。一応セルにこれ何に見える?って聞いてみた。


「小麦粉…ですよね?」


 よし、セルがそういうなら他の人も間違いなくこれは小麦粉と思ってくれるだろう。一応鑑定もしてみる。


 〚小麦粉〛


 予想通りだ!!!ドライイーストを混ぜても小麦粉となった。これで万が一、盗み出されて鑑定されても問題ないな。

 とすると、この〚小麦粉〛を樽で作り置きしておけば料理人にパンを練って焼いてと丸っとお願いできるのだ。私が調理工程に関わらなくてもいけるぞ……。なんで膨らむんだと言われても、おまじないがかけてあるんだ、とか何とか言っておけば、納得してもらえるだろう。ほら、私見た目子供だし?馬鹿な、と言われても証拠もないので完璧だ。

 不思議そうに作業を見ていたセルに何をしていたのかさらっと伝えると目を輝かせた。


「素晴らしいです!これならマスターが自由にできる時間が増えますね!安全性も問題ありませんし、おまじない…ふふ良いですね」

「パンの作り方は真似られても、〚小麦粉〛じゃなきゃ膨らまないからね。ばれても大丈夫だ。在庫管理だけお願いできる?」

「勿論です。混ぜるだけなら私にもできますから、足りなくなったら補充しておきますね。材料専用の部屋も早速作ってきます」


 颯爽とかけていくセルにお願いね~と見送る。

 パン問題は解決したので、次は売るときのラッピングか…どうせなら私のお店というのが分かるようマークが欲しいんだけど……考えているとコンコンと勝手口がノックされた。


 こっちから入ってくるって誰だろう?


「はーい――あれ?」


 ガチャッと開けるも誰もいない。え、まさかのピンポンダッシュ的な――カンカンッと足元で音がした。

 視線を下に向けると全身水晶の、あの水晶蟹が綺麗な巻貝をこちらに掲げている。


「ノックしたの…君?って、え、これくれるの?」


 私に応える様に鋏をカンカンッと鳴らすと蟹は去っていった。

 どうやらこの巻貝を私にプレゼントするために来てくれたようだ。可愛い水晶蟹に笑みがこぼれる。

 巻貝はオウム貝の形に近く、すっごい輝いてる。宝石みたいだなあ―――あ


「水晶蟹ちゃんとこの貝セットでマークに……」

「素敵ですね」

「うわっ」


 いつの間にか真後ろにセルがいた。ひっくり返りそうになった所をスルリと腰に手を添えて支えられる。


「せ、セル…驚くから音もなく真後ろに立たないで…」

「申し訳ありません。余りにも可愛らしい笑顔でしので、つい。建築、お店の方も終わりました。ついでに敷地と分かるように柵も建てておきましたよ。」


 ついってなんだ。って、えもうそんなお仕事したの!?セルさんやっぱり忍者!?


「私はマスターの精霊ですから」


 心を読まれたようににっこり宣言されてしまった。


「それにしても綺麗ですね。幸運のオウム貝ですか」

「幸運のオウム貝?」

「持ってると商売が良い方向へ進むという代物ですよ。商人は必ず持っていますね。しかしここまで大きくて発色の良いものは早々お目にかかれませんね」

「そうなの?」


 じっと、水晶蟹に貰ったオウム貝を眺める。前世の水族館では結構見たけど、自然でこの大きさは、たしかにないのかも?ありがたく貰っておこう。カバンに入れる。


「今日は素材を売られに街へ行きますか?」

「そうだね。あ!!その前に!部屋見たい!セルが作ってくれた部屋!」

「ふふ、ご案内しますね」


 笑顔のセルに手を引かれ、案内される。

 キッチン横に一部屋追加されておりここは保存庫のようだ。棚など多く並んでいる。その奥の扉を開けると階段があった。2階に上りもう一枚扉を開けるとそこは材料部屋だった。中央に大きな机、棚がある。小さな窓もあるが、格子がはまっており、侵入は出来ない。また。厚手のカーテンが設置されておりのぞき見も不可能だろう。

 秘密基地みたいだ。


「鍵は3つ。一つはマスターに。残りは自衛のできるデリアスと私にと思っております」

「そうだね。キャストルクとエスカテが鍵のせいで襲われでもしたら大変だしね」


 自衛のできない私が鍵を持っていいのかって話だけど、いちいち開けるのにセルかデリアスについてきてもらうのは時間の無駄だし。うん。

 ドライイーストの入った瓶を引き出しにしまい、お塩なども置いておく。

 小麦粉は全てドライイーストを混ぜて樽に入れ1階に収納済みだ。


 次にお店の方だ。

 外へ出ると、花壇に胴体がペットボトル台の蜂が居た。なにあの大きさとぎょっとしているとセルが近づいていく。え、ちょ、あんなに刺されたら間違いなく重症だよ!?止める間もなく、セルが蜂に魔物の餌を与えた。はっとして鑑定をする。


 〚ハニー:クライマー〛


「ハニー!?あ、え、モンスターだったの!?」

「?はい。蜜を集めてくれる蜂です。テイム前でも滅多に危害は加えてきませんよ」


 どうやらあの巨大蜂は見た目にそぐわず優しい気性らしくほっとする。セルは花壇近くに木箱と空瓶を設置し始めた。どうやら、置いておくだけでハニーがはちみつにしてくれるらしい、お花さえあれば、ずっとはちみつとなるそうなので、温室作ってお花畑にするのありかも。はちみつが手に入ると分かると、パンケーキが食べたくなってきた。


「楽しみですね。今後増えると思いますので、より定期的にはちみつが手に入りますね」

「凄いなあ」


 無料ではちみつとか、モンスター様様だ。はちみつは風味豊かなので、砂糖の代わりにパンに練りこんでも良いな。幅が広がる…。

 ハニーと別れ花壇を進むと。門と塀が続いていた。

 私の顎下あたりまでは石で頑丈に作られており、その上に木がオシャレに交差している。西洋の塀って感じだ。門自体は木製の格子扉で、オシャレの極しかない。本当にセルセンス良いな。

 門の傍にはアメリアが立っていた。

 可愛いピンクの髪を揺らしてこちらに振り返る。


「おはようございます!ご主人様」

「おはようアメリア」

「アメリアには敷地周辺の警備を任せております。アスとアンリは今はデリアスの下で修業中です」

「ラベンダーがあるからモンスターの危険はないとは思うけど、変なのが来たらすぐ叫ぶんで敷地内に逃げるんだよ?」

「はい!ありがとうございます!」


 アメリアは体調もばっちりで「マスターの平穏を守るのが私のお仕事です!」と元気に意気込んでいる。

 セル曰く、危ないものが来たら自分が気が付くので、基本職業暗殺者の彼女らには使者のつなぎをしてもらう予定なんだとか。確かに、用があっても勝手に門内に入って玄関まで来させるのはあまりよろしくないな。

 警備体制とかその他もろもろばっちりすぎてお姉さんびっくりよ。感心しつつ、門を出て塀伝いに進むとお店が見えてきた。


 大きなガラス窓で店内の様子がよく見える。こんな町の外でお店なんてそうそうないから、店内が見えるのは安心してお客さんに利用してもらえるだろう。中は、木製の温かみのある色あいで、カウンターの奥の扉は石窯など焼けるキッチンに従業用の小部屋、裏口へと続いている。

 裏口を出ると、家の塀に小さな門があり、表に回らなくても材料など運び込めそうだ。


 パンを置くための商品棚を設置すればもうここは完璧にパン屋だ。今すぐにでも開店できる。

 嬉しさのあまり、ほうっと息がもれる。


「素敵だ……」

「気に入っていただけて良かったです。シンボルマークをお入れください」


 セルに促され、看板とカウンター、商品棚に、先ほどビビッと来た水晶蟹とオウム貝をデフォルメしたデザインを木材加工スキルで彫刻する。


「可愛らしいです。マスター、店名はいかがいたしますか?」

「店名か――うーん。」


 パン屋としか考えていなかった。それに、今後ケーキ屋、レストラン、銭湯、と色々やりたいけど一々別のに…?よくある○○のパン屋、○○のレストランとか単語でまとめる…?


「そしたら、冒険者ギルドでクランを立ち上げるのはいかがでしょう?」

「え!?クランってあるの!?」

「はい。ここヘスカティアはモンスターも強くないのでクランは中々見かけませんね。一致団結しないと倒せないモンスターが居ないせいでしょう。その分、王都や、高レベルのダンジョンの街なんかは非常に多くのクランを見掛けますよ。逆にクランメンバーでない冒険者の方が少ないくらいです。今回は、マスターをクランリーダーとした設立ですね。クラン名を決めてしまえば、お店の名前もすべてマスターのクランのパン屋なのだと、認知されますからね」

「なる、ほど」


 クランがあるとは予想外だった。そしてヘスカティアが初心者向けで、結構疎開してることにも驚いた。だからこの土地は銅貨10枚とか単位が大変お安いのか。そりゃ事業初めても、弱いモンスターに初心者冒険者は強くなったら別の街へ行くだおろうし、良い稼ぎにはならないのだろう。レアな素材も初心者冒険者がわざわざ買わないだろうし、入ってこないのか。ダンジョンの3層まで行っても何一つとして危機を覚えなかったのはそういう事か。

 なんてこったい。予想外の事に頭を抱える。ウッド家に、たまにしか兄や父が居なかったのはそのせいか。貴族にとっては安全でバカンスにちょうど良い街だったのだ。

 同時に、放り出されたのが初心者向けの街でよかった。下手したら街にたどり着く前の道でぷちっとやられていたかもと思わず震える。


「クランについて詳しくお聞きになる様でしたら冒険者ギルドに向かった方がよろしいかと」


 悩んでいても仕方ないので、ポーションを売るついでに冒険者ギルドに向かった。


「クランについてご説明しますね。クランは銀貨一枚で誰でも一人から設立する事が出来ます。リーダーを筆頭にメンバーと活動していくのですが、リーダーはクランのルールを設けてメンバーを制約書で縛る事が出来ます。よくたてられる誓いは、クラン内の活動の秘匿ですね。もし話そうとしても、口は動きませんし、書こうにも手が動きません。拷問されようが何も答えになる行動は取れません」


 痛みの走る奴隷紋より格段に良くないか…?

 え、ていうかそんなん犯罪とかやらせたい放題じゃ…?


「ちなみに、ギルドメンバーが一定以上の犯罪を犯すとクランの契約書が黒く変色し冒険者ギルドですぐにわかります。また、リーダーを含むクランメンバーの全員の頬に髑髏のマークが浮かびますので普通に生活する事はままなりませんので。その分信頼は得やすいですね」


 にっこりと追加で答えてくれる受付のお姉さん。私ってそんなわかりやすい表情してるのだろうか?


「クライマー様は商業重視のクランを設立とのことですが、メンバーの公募も出来ますがいかがなさいますか?」

「今の所は私一人でやっていく予定なので大丈夫です。」

「畏まりました。クラン名は何にいたしましょう?」

「あーーちょっと考えていいですか?」

「ごゆっくりお考え下さい。変更は出来ませんので。若気の至りで恥ずかしそうにする方もいらっしゃいますから」


 一度カウンターを後にし、セルと話し合う。

 若気の至り…か思わず顔を覆ってしまいたくなるようなのにはしたくないけど、これと言ってよいのが主浮かばない。水晶蟹、水晶、クリスタル?うーん。


「セル、何か良い案ある?」

「そうですね……黄金の雲、なんていかがでしょう?マスターのパンは黄金色でふわふわですからイメージもつきやすいかと。シンボルマークには水晶蟹とオウム貝の後ろに雲を刻印すれば完璧かと」


 待ってましたと言わんばかりにニコニコと提案された。

 黄金の雲、か……確かに黒パンと違って色は明るいし、中身もふわっと柔らかだ。雲だけではシンボルマークに個性がないし、水晶蟹とオウム貝にも合うと思う。


「そうしようか。お姉さん決まりました。」

「あら、もう決まったのですね」

「クラン名は〚黄金の雲〛でお願いします。」

「〚黄金の雲〛かっこいいですね。因みに由来などあるのですか?」

「マスターのパンはふわっふわで美味しいんですよ。試しにどうぞお食べください」


 セルが一口大にカットした甘いパンが詰まった籠をお姉さんに差し出す。

 貴方いつの間に!?驚いて見上げているとパチンっとウインクされた。なるほど、ここで知名度を上げるという事ですね、セルさん。


「まあ!!!!これがパンですの!?ふわふわで、こんなに柔らかいパンは食べたことないわ!!それに、ほんのり甘くて、美味しい!」


 お姉さんの驚きに他のギルド職員が集まってくる。すかさず他の人にもパンを進めるセル。これを見越して一口大にカットして用意しておいたのか!?


「これ、売り出すんですよね!?」

「いつなの!?いつ、開店なの!?」

「3食、いえ、おやつにも食べたいわ!」

「予約は出来るのかい!?」

「配達は!?」


 やいのやいのと質問攻めにされる。この騒ぎに他冒険者もなんだなんだと、興味津々だ。

 ひえっお姉さま方の押しが強いっ。セルも何でニコニコ黙ってるの!?

 勢いにたじたじになっていると、奥から一人の男が出てきた。


「おら!お前ら!!!仕事しろ!」

「「ギルド長!!」」

「なんだこの騒ぎ、となんだこれ?」


 ひょいっと残っていたパンを口に入れるギルド長。

 やっば、やっとこの場を治めてくれそうな人も食べてしまった。質問攻めにされたらどうしよう。とびくびくしていたが、目を見開き固まるだけで冷静に食べている。


「……坊主、これはお前が作ったのか?」

「はい。今度パン屋を開く予定で、クラン登録に来たんですけど…」

「おおっそうだったのか、おら。お前ら散った散った!で、どこに開くんだ?」

「街の北門を出て川沿いに進んだところです。まだ、開店日は未定です。」

「おおー開店したらこいつらに教えてやってくれ。是非とも常連になりたいって圧が凄いからな」


 そうギルド長がニカッと笑い、後ろを指さす先にはギルド職員たちがチラチラと此方を伺っていた。

 目はギラギラしていて、パン情報を逃さんとしている。そっと顔を引っ込め書類記入に移る。

 クラン名は黄金の雲。ルールは活動秘匿と命令厳守とかでいいか。誰も入れる予定ないし。

 クランマスターは私、クライマーと。意外と項目少ないな。

 銀貨一枚をカウンターに取り出し提出する。


「来週には開店しますね」

「〚黄金の雲〛かいいクラン名だな。何かあったら融通聞かせてやるから、ああ、そう。俺はこの冒険者ギルド長をやってるゲルマーだ。よろしくな。クライマー君」

「ええ、よろしくお願いしますね。では失礼します」


 ぺこっと挨拶して冒険者ギルドを後にする。

 セルはほっこり笑顔で、私はちょっとぐったりだ。


「良い伝手が出来ましたね」

「……セルは策士だねえ」

「それほどでも」




お読みいただきありがとうございます。


ちなみに、セルはギルド長を引っ張り出すために騒ぎを黙ってみていたという事ですね。

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