閑話 受け継がれるもの
これは私の中でこの物語の名シーンに残るものだと思っています。何卒よろしくお願いします。
1003年90日
バルトウェイから少し離れた森の中でリーフはゴードンと稽古をしている。万が一魔物に遭遇してもすぐに街へ逃げ込める距離なのでリーフ以外の団員達の訓練場とも言える場所である。
「ふう、少し休憩するとしよう。」
「待ってくださいよ。俺はまだやれますよ!」
「儂が疲れたんじゃよ。お主は儂より老いておらんじゃろう。」
リーフは我に返ってゴードンを見た。彼は足が震え、息がとても荒くなっている。いくら経験豊富でも年齢に勝てないのが人間である。
「すみません師匠、俺まだまだですね。もっと他人への気配りに気を付けないと。」
「なあにお主は十分じゃよ。入団した頃のあの失態は今でも笑えるわ。」
「そっそれは止めて下さいよ師匠!」
リーフは顔を赤くし、ゴードンは大笑いをしている。
「すまんのう。お詫びと言ってはなんじゃが、一つ話をしてやろう。嘗てお主のように失態をやらかした者の話をのう。」
「いいんですか?そんな人の不幸を話の種にしちゃって。」
「構わんよ。今ここには儂とお主しかおらんからのう。」
そういうとゴードンとリーフは切り株に腰かけ語り始めた。
昔自警団に血気盛んな若者がおったそうな。右も左も分からないが魔物を倒す事に執念のような物を持っていた。いつも団員達とぶつかり合いその度に団長に叱られてはいたが、若者は聞く耳持たずの愚か者だった。
ある日、森の奥にある洞窟に魔物がいるとの情報が入り、自警団は討伐へ向かった。洞窟の中は暗く松明の炎だけが頼りだったが、若者は単独で明かりを持たずに奥へと進んでしまった。
すると目の前に竜の姿をした魔物が潜んでいた。魔物は若者を睨み付け猛々しく咆哮を放った。若者はその時初めて「死」を感じた。いつもの魔物相手には感じなかった殺意の前に足が凍りついてしまった。声を上げようにも団員達からはかなり離れてしまった為、若者は生きる事を諦め魔物に食われそうになったその時だった。団長が身体を張って若者を守ったのだった。剣で魔物を抑え、腕は魔物の牙が貫いていた。どんな馬鹿だろうが決して団員を見捨てない団長の姿に、若者はいままでの愚行を後悔したのだった。
「若者は団長に一生かけても返せない大きな借りを作ってしまった。しかし団長は若者にこう答えた。『これを”借り”と思うな、どうせ思うのなら”恩”と思え。』とな。
そして団長が死ぬ間際に言い残した遺言は、『最期まで団員達を見守ってやれ、それが俺への恩返しだ。』とな。」
「師匠、その若者ってもしかして...」
リーフが何かを言おうとした時、ゴードンが立ち上がった。
「さてとすっかり体が冷えちまったわい。手合わせを頼もうかの。」
「はい!よろこんで。」
二人は再び稽古を再開するのであった。そしてリーフはゴードンから大切な事を教えて貰い、この言葉を決して忘れまいと心に誓った。
「勇敢と無謀は決して同じでは無い。大切なのは引かぬ心、そして間合い。我を失った時が最期だ。」
如何だったしょうか?今後もこのような番外編の様な話を載せようと思ってます。