空白の時間 前編
「じゃあこの問題を...天野。解いてみてくれ。天野?」
アマノ...とても懐かしく感じる響きだ。懐かしい?いや、俺の名前は天野秀哉だ。懐かしくも何とも...。?...俺?
「天野!聞こえてるのか!?」
耳元で聞こえた怒鳴り声に、俺は椅子ごと倒れてしてしまった。そのせいでクラスの皆に大笑いされてしまった。
「ったぁ~。えぇっと...何でしょうか?」
「”何でしょうか?”じゃないだろ!早く黒板の問題を解いてみろ。」
「黒板?」
「はぁ~。もういい、罰として次の授業まで立って受けろ。」
「はい...。」
俺は気の抜けた返事をして、立ったまま授業を受けた。先生が俺に出した問題は別の生徒が解いた。しかし答えを導くのに時間がかかり、先生に注意されてしまった。あの問題...俺ならこう答えるのに...。
お昼休みになり、皆が昼食を食べ始めた。俺は仲の良い生徒2人と席を合わせて昼にした。だが俺は弁当を出したは良いが、全く手を付けなかった。
「...。」
「天野?大丈夫か?」
「...。」
「お~い。天野く~ん。」
「...。えっ?」
「”えっ?”じゃないだろ。どうしたんだよ?今日のお前変だぞ。」
「そう...かな...?」
「はぁ~。こりゃ重症だな。いっぺん医者に診てもらった方が良いんじゃねぇか?」
「まぁ確かに、午前中の授業全部立たされるなんてねぇ。」
「昨日とはまるで別人だよな?」
「昨日?昨日って...何かあったっけ?」
「お前もう忘れちゃったのか!?体力テストがあっただろ?お前が最低記録を叩き出した...。」
「昨日だって!?」
俺は思わず身を乗り出して友人に聞いてしまった。そして彼は驚いた拍子に椅子ごと倒れてしまった。
「いってぇ~なぁ!何だよいきなり!?」
「昨日は...体力テストがあったのか...。」
「たくっ!そんな事で驚かせるなよな!」
「それに天野君って、いつも眼鏡かけてたよね?コンタクトに変えたの?」
「いや...別にそういう訳じゃ...。」
「「???」」
2人は更に疑問を増やした。だがそれは俺も同じ事であった。まさかあれから、たった1日しか経っていないなんて...。
全ての授業が終わり、俺は担任の教師から説教を受けた。明日からはちゃんと授業を受けるようにとか、特別課題を課す事も考えるなど、俺は空返事で了解した。そして俺は自宅に着き、私服に着替えて外出した。目的地は勿論、あれがある図書館だ。
俺が異世界に転移したキッカケは、”百年戦記”という本を読んだからだ。もう一度あの本を読めば、再びあの世界に戻る事が出来るかもしれない。だが...戻ったところで、あの世界は存在しているのだろうか?仮にあったとしても、そこに人間はいないかもしれない。あのクソジジイの愚行のせいで!
漆黒の波に飲み込まれた時、俺は自分がどこかに落ちている事に気が付いた。何も見えず何も聞こえない闇の中を、ただただ落ちて行った。
(これが予言書にあった破滅の予言なのか...?俺達は大災厄から世界を守る為に戦って来たのに...。こんな結末は残酷すぎる。何の為に今まで戦って来たんだ?何の為に仲間達は死んで行ったんだ??俺は何の為に...この世界に来たんだ???)
今までの努力が徒労に終わり、悔しくて涙を流した所で、俺の意識は無くなって行った。
そして再び意識を取り戻した時、俺は元の世界の自室のベッドの上だった。部屋の時計を見ると○月○日○曜日 午前6時と表記してあった。俺は...不本意ながらも、元の世界に戻って来れたのであった。
図書館に着いた俺は、あの本を探した。しかしどこを探しても、"百年戦記"と載ってある本は見つからなかった。俺は検索システムや職員に聞いてみたが、手がかりは掴めなかった。
「申し訳ございません。お客様のお探しの本は、こちらにはございませんね。」
「そう...ですか...。」
「その本の作者はお分かりでしょうか?」
「いえ、分かりません。ありがとうございました。」
その後、本を取り扱っている場所なら古本屋からスーパーの雑誌売り場まで隈無く探した。しかしどこにもあの本は見つからなかった。
夜遅くまでインターネットで調べてみても手がかりは見つからず、もう諦めようと自己完結して眠りに着いた。
その夜、俺は夢を見た。"大きなのっぽの古時計"の歌が耳元に聴こえていた。そして夢の中で、あの世界の光景が映っていた。
アグロスによって大地はひび割れ、川は干上がり、空は灰色に染まり、草木は緑を失った。すると今度は、誰かの声が聞こえて来た。
「おい、それが終わったら角の家の屋根修理だ。」
「あいよ!忙しいなぁ!」
「はい、並んで!並んで!炊き出しはちゃんと全員分あるよ!」
「あ、鐘の音...直ったね...。」
「さぁ、今、自分が生きている事を皆さんで感謝致しましょう!」
「街の復興を手伝え!...これは闇ギルドからの依頼だ。」
「王様!南部に発生した魔物は、全滅させました。」
「西の方にも出たそうだ。疲れているところすまないが、国民の安全の為だ。急がれよ。」
「はっ!」
「まだかな...」
「もうすぐだよ。」
「おい!今、動いた気がするぞ!」
「本当!?じゃあ、きっともうすぐ...。」
目が覚めると、日付が1日進んだ午前6時であった。俺は部屋のカーテンを開け、眩しい陽の光を浴びながら決心した。
「あの世界は、まだ生きている。俺も...早く戻らないと!」




