ふとあの日のことを思い出した。
今回はカラスバ視点です。
「カラスバ様、お菓子をお持ちしましたわ」
その声に、うちは読んでいた漫画から顔を上げた。
部屋に入って来たのは、左目の涙ほくろがチャームポイントの侍女のチョキちゃん。
褒美としてこの屋敷を賜った際に、異国人の身辺の世話をするようにと、ウノハ王がうちに遣わしたのだ。
「わぁ! コングリだ!」
チョキちゃんが持ってきたのは、コングリという名前の焼き菓子。うちが元いた世界でいうところのクッキーによく似ている。
「~~~~~っ! おいしい!」
この程よい甘さがたまらず、やみつきになってしまう。
「お気に召してもらえたようで、うれしいですわ」
「チョキちゃんが作る料理は、何だっておいしいですよ!」
ちょっとドジなところもあるけれど、料理、掃除、裁縫……家事全般が得意なチョキちゃん。
「お、お世辞でも嬉しいです~!!」
チョキちゃんは頬に両手を当てて、喜ぶ。か、かわいい……癒される!
コングリに手を伸ばすと、何故かチョキちゃんがクスッと笑いをこぼした。
「……チョキちゃん?」
「あ、ごめんなさい。おかしくて笑ったわけじゃありませんのよ……。カラスバ様のその腕輪……」
チョキちゃんは、左手にはめているうちのパワーストーンブレスレットをみつめた。
「いつもつけていらっしゃいますよね。よっぽど、大切なものなんですね」
うちは頷き、ブレスレットに触れる。
「高校の修学旅行の時に、京都で友達と作ったんです。人工石のオパールだけど、綺麗でしょう?」
「こーこ? きょうと? ええと……カラスバ様の故郷の地名でしょうか?」
「……まぁ、そんな感じ……ですかね?」
……故郷か。そういえば、この世界に来て、もう一月が経つなぁ。
もう、うちは家族や友達たちが待つ世界に帰ることはできないのかな……。
郷愁に駆られ、ふとあの日のことを思い出した。
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