ちゃっかり貴族令嬢?
(あの子、うっかり屋さんだな~)
初めてアンジェリカ・ハーエス伯爵令嬢を認識した時に、ミリーはそう思った。
ミリー・オルフェ―ド伯爵令嬢が入学した学校は、貴族の子息、令嬢達が主に通う贅沢で華やかな貴族社会を縮小したようなところである。
その華やかさの裏側で、身分差による高慢や驕りが見られ、上にのし上がろうとするもの達の間での腹の探り合い、汚い野心が見え隠れしている。
そんな中で、友人にするべき令嬢をミリーは、決めた。
(あの子のようにうっかり屋さんくらいの方が、信頼できていいな!)
ミリーがアンジェリカと友人になろうと決めた主な理由は、それだった。
貴族独特の駆け引きをしてくる相手にもう疲れたミリーは、野心を持たず、裏表のないアンジェリカを友人にしたいと心底思ったのだった。
アンジェリカに話かけ、順調にアンジェリカの友人になれたミリー。
しかし、そのうっかり者のアンジェリカが、実は、面倒な男性につきまとわれていることに気づいた。
アンジェリカの幼馴染で、アンジェリカの兄アーノルドの友人でもあるエドガー・ドルゲード侯爵家の嫡男であった。
(エドガー様は、侯爵家の嫡男で美形なうえに、文武両道で評判も大変良い方だけど……。
アンジェリカを見つめる目つきが、何というか、捕食者?
罠にかかるのを待っている肉食系の獣みたいな目で、いつもアンジェリカを見ている。
ご本人は、どうやらアンジェリカを見守っているつもりらしいけど、ちょっと、あれは……。
アンジェリカは彼のことを幼馴染でもう1人の兄みたいだというけど、あれが兄のわけないでしょう?
執念深そうで、独占欲も強そう。
アンジェリカのようにうっかり気づかない位の女性でないと無理だろうな~)
しみじみそう思うミリーは、エドガーには近づかないようにしていた。
でも、エドガーの方は、アンジェリカと仲がいいミリーをほっといてくれなかった。
「君が、ミリーだね?アンジェリカから聞いているよ。
私はアンジェリカの幼馴染でエドガー・ドルゲードだ。
(私の愛する大事な大事な)アンジェといつも仲良くしてくれて、ありがとう」
「(い、今、変な副静音が聞こえた?)……いえ、こちらこそ、アンジェリカと仲良くさせてもらっています」
「そうか。
……ところで、最近、アンジェリカと話すと君の話題が多いのだが、君はアンジェのどこが良くて友達になったのかい?」
「え?」
「いや、アンジェに近づく女性には、彼女の良さがわかる者が少なくてね。
大抵、アンジェリカの兄アーノルドや幼馴染の私が目当ての者もいてね……。
でも、君は違うようだが?」
「そうですね。違いますよ。
アンジェリカと仲良くしている目的は、彼女自身が友人として信頼できる相手だからであって、彼女の兄上様や、ドルゲード侯爵子息様と仲良くするためではございません」
「ふうん。私はこれでも将来有望だから、まだ婚約者のいない貴族令嬢からは人気がある方なのだがな。
君はまだ婚約者がいないのだろう?」
「確かにまだおりませんが、いくつかもうお話がございまして、私の両親と仲が良い方と婚約する予定ですので、アンジェリカを利用しようなんて考えておりません。
だから、ご心配なさらずとも大丈夫ですよ」と言って、エドガーの疑いを晴らし、安心するように伝えるミリー。
そして、つい、ミリーもお人好しのせいか、つい、余計なことを言ってしまった。
「アンジェリカのことを想っていらっしゃるのですよね?」
「!わかるのか!?」
「ええ、まあ(あれだけ、あからさまならね。気づかないのはアンジェリカ位では?)」
「そうか!!なら、是非、協力してくれ!
アンジェリカとの仲をもっと進展させて、婚約まで持って行きたいんだ!」
「ええ、私でできることでしたら、微力ながらご協力いたしますが……」
「ああ、ありがとう!」
「……私は常にアンジェリカの味方ですので、アンジェリカが辛い思いや、泣かせるような事態になる場合は、私からの協力は、遠慮なくお断りいたしますよ?」
「!君は本当にアンジェリカの友人なんだな」
「ええ。それはもちろん」
「よかった!今までの自称アンジェリカの友人は、皆、私がそう言うとすぐに『では、アンジェリカのお兄様のアーノルド様との取次ぎを!』と交換条件を出してきたものだ」
「まあ、アーノルド様はご人気がございますものね」
「君は、興味ないのかい?」
「そうですね、あまり人気者の方を得ようとは思っておりません。
(特にあなたのような方はちょっと……)
それよりも、私と価値観が合う方が良いので」
「うむ、君は本当に私のアンジェリカの友人に相応しい人物だね。
私のことは『エドガー』と名前で呼んでもいいぞ!
それで、早速だが……」
こうして、ミリーは、アンジェリカにつきまとうエドガーに気に入られてしまい、エドガーにアンジェリカに対するアドバイスやアンジェリカの欲しがっている物の情報等を多少、教えてあげる程度の協力をしてあげていた。
でも、アンジェリカに不利にならないようには気遣うミリー。
そして、アンジェリカをはじめ、他の貴族令嬢達からもあらぬ誤解を受けぬように、協力はしても上手にエドガーと距離をとり、ついでにアーノルドとも距離をちゃっかりとっているミリーであった。
一方、そんな自分ではちゃっかりしたタイプだと自負していたミリーに対して、エドガーはむしろ同情を寄せていた。
(ミリー嬢。アンジェリカとの仲を協力してくれるのは本当にありがたいが、君も結構、うっかりしているよね。
アンジェリカ程の天然ではないけど、男の好意に鈍いな。
本人に自覚はないようだが、ミリー嬢は、貴族令息の間ではとても人気がある。
しかも、ミリー嬢の横にいるのが私のアンジェリカのせいか、アンジェリカが引き立て役になって、ますます人気があがっているんだがな~。
初めは、それを狙った計算高い貴族令嬢かとミリー嬢のことを疑ったが、違ったな。
ミリー嬢は、アンジェリカとはちょっと違ったタイプのお人好しのうっかり令嬢だった。
そもそも、アンジェリカのうっかりに怒らずに、むしろ優しくフォローとアンジェリカの心配までするなんて、『天使か!?』と突っ込みたくなるぞ。
彼女の言う通り、確かに彼女への縁談は降るようにあるはずだ。
しかし……)
ミリーのことを考えて、つい哀れに思ってため息をつく、エドガー。
そう、ミリーは、すでにあのちゃっかり貴族令息のアーノルドにロックオンされ、じわじわと、追い詰められているのに気づいていなかった。
しかも、ミリーは、もっと条件も人柄も良い貴族令息達に真剣に想われているにも関わらず、あのアーノルドにそれらをことごとく阻止されていることにも、全く気づいていなかった。
(まあ、アーノルドはあんな性格の奴だが、見た目は王子のようで、頭も家柄も良いから、全体的に悪くない条件だし、良い所もたぶん他にもあったはずだ。たぶん……。
私のアンジェリカと仲良くしてくれるミリー嬢なら、あのアーノルドとも幸せになれるかも?
本来なら協力のお返しをしてあげたいところだがな、幸せを祈ることしかできんな。
すまんミリー嬢、アーノルドが絡むと、私は無力だ……)
エドガーは、ミリーの幸せを祈りつつも何もできず、でも自分はアンジェリカと幸せになるちゃっかり貴族令息であった。
そして、ミリーは、自分のことをちゃっかり貴族令嬢と思っているが、実はそれ以上に上手で、腹黒のちゃっかり貴族令息アーノルドの手に堕ちるのも、時間の問題であった。
すみません。とりあえず、完結で……。