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狼王と兎少女  作者: 亀吉
番外編
51/58

雪が溶けるほど

本編後の二人です。

  はあっと吐いた白い息が溶けていく。

 ラパンは赤いマフラーを口元まで引き上げると、冷たい灰色の空を見上げた。雨雲とは違う雲に覆われた空は何処か不思議な雰囲気で、見上げていると吸い込まれそうな気がした。


「何してんだ?」

「あ、ケルトーさん」


 不意に背後から掛けられた声に振り向けば、玄関から出てきたケルトーが此方に歩いて来るのが見えた。その首には濃灰色のマフラーが巻かれている。


「雪が降りそうだなって思って」

「あー……そうだな、降ってもおかしくねえな」


 空を見上げるラパンを後ろから抱き締めたケルトーは、ごく自然にその小さな頭に顎を乗せる。

 身も心も包み込む暖かさにラパンは頬を緩ませた。自分を抱き締める褐色の手にそっと手を添える。

 重なる手に気付いたケルトーも口元を緩め、腕の中にいる愛しい子兎を更にぎゅっと抱き締めた。


「雪降ったら、もっと寒くなるな」

「そうですね」

「風邪引くなよ?」

「う……き、気を付けます……」


 屋敷に慣れ始めた頃に寝込んだ経験があるラパンは、その時の事を思い出して苦笑いを浮かべる。

 ケルトーはくつくつと喉で笑うと、冷えて赤くなっているラパンの柔頬に頬を擦り寄せた。


「わっ、ケ、ケルトーさん?」


 急に寄せられた頬に戸惑うもそれ以上に嬉しくて、素直に受け入れた。触れ合う頬がゆっくりと暖かくなる。肌を擽る黒髪が擽ったい。

 自然とラパンからも頬を寄せれば、それに気付いたケルトーは心底嬉しそうに笑った。


「お前が風邪引かないように、俺が暖めてやる」

「本当ですか?」

「おう、だから俺の事はお前が暖めてくれ」

「分かりました、任せて下さい」


 何の迷いもなく笑顔で答えたラパンを、細められた灰色の瞳が愛しげに見つめる。胸の奥からこみ上げる強い想いに後押しされて、そのままそっと顔を近付けていく。


「ケルトーさん……?」


 無防備な顔をしたラパンが不思議そうに名前を呼ぶ。

 二人の白い吐息が混ざり合う。狼の牙を覗かせるケルトーの唇が、その吐息を丸ごと飲み込もうとした。


「あっ! 雪、雪ですよ、ケルトーさん!」

「……!」


 視界の端に雪の結晶を捉えたラパンは、すかさず其方に顔を向けてはしゃぎ声を上げる。空を見上げれば、雪がちらちらと降り始めていた。


「これ、積もったら皆で遊びましょうね!」


 ラパンは伸ばした手に雪を受けながら、無邪気な笑顔を浮かべる。

 何か言いたげにしていたケルトーだったが、雪の結晶のように煌めく笑顔を向けられると軽く肩を竦め、ラパンを抱く腕に優しく力を込めた。


「……ああ、そうだな」


 雪を見上げる二人を、屋敷の方から呼ぶ声がする。

 その声に二人は顔を見合わせて微笑むと、どちらからともなく手を繋いで屋敷の中へと帰って行った。



END.

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