幕間
夜の匂いを含んだ風に乗って、花の香りがふっと漂ってきた。
夕焼け色に染まった屋敷の壁に寄りかかっていたサーヌはそれに気付くと優しい笑みを浮かべる。
「……そっか、良かった。力を貸してくれて有難う」
サーヌがそう言うと、端から見たら何もいない空間から煌めく粉がきらきらと舞っては消えていった。
その光景を見届けたサーヌは安心した様子でふうっと息をつき、霧が支配する森の方へと自然と目を向けた。
しかし、その海色の穏やかな瞳が見ているのは森では無い。
自分の想像と花の精霊が教えてくれた話を併せて、サーヌは二人の姿を脳裏に思い描く。
(どうやら、上手く行ったみたいだね……)
彼処でラパンを向かわせたのは正直なところ、賭けに近い気持ちだった。だけど、自分やパティが行くよりかは遙かに良いという事は分かっていたから頼んだ。
そして、それは正解だったらしい。
サーヌは目を細めると壁から背中を離し、傍にあった窓を開けて屋敷の中を覗き込んだ。
「わあっ!? な……何だ、サーヌか……。驚かさないでくれ……」
窓の向こうはキッチンと繋がっていた。
夕食の支度をしていたパティは開いた窓にふと気付き、そして其処に立っていたサーヌに驚くと手から玉ねぎをごろんと取り落とした。
そんな大きな反応を見て、サーヌは思わず苦笑する。
「ふふ、ごめんね?」
「もう……。……ところで、ケルトーやラパンちゃんはどうした? もうすぐ夕食が出来るけど」
「大丈夫、二人なら一緒に帰ってくるよ」
何となく二人が屋敷にいない事を察しているのだろう、少し心配そうにするパティを安心させる為にサーヌは笑顔で教えてやる。
するとパティは「そうか!」と直ぐに屈託のない笑みを浮かべ、皿の上に盛られていた牛肉と肉厚な茸のソテーにソースをとろとろと掛けていく。
既に完成した料理の中には、甘く芳ばしい香りを漂わせている焼き立てのガレットもある。
「今日はケルトーの好きな肉料理がメインだからな! ラパンちゃんの大好きなガレットも上手く焼けたし、二人でお腹を空かせて帰ってきてもらわないと!」
そう話すパティの表情はとても優しかった。
子供の帰りを待つ母親のような事を言うパティに、サーヌの頬は無意識に緩んでいく。
「……うん、そうだね」
今はまだ、気付かなくてもいい。
大切に思っている存在がちゃんと此処にもいるんだって、いつか気付いてくれたらそれで構わない。
だから、とりあえず今はーー、
(二人とも、早く帰っておいで)
そして、四人で笑って食事を囲もう。
.




