表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未定義感染  作者: 語り屋
17/17

17話

三浦はスマホをテーブルに置き、静かにメモ帳を開いた。

ペンを握り、これまでの報告を順に書き出していく。


現在報告されている案件は、暴動ではない。

原因は未知の感染症で、接触、特に噛まれた場合に感染する強い感染力を持つ。

現場は制御不能の混乱状態にあり、このままでは医療崩壊を招く。

医療崩壊が進めば、最終的には国家機能にも影響が及ぶ。

タイムリミットは数日しかない。


短く息をつき、三浦はペンを置いた。

情報の断片を整理するたびに、事態の深刻さが静かに迫ってくる。

官邸は、まだ動かない。

報告の枠組みの中では、何も決定されず、会議も開かれない。


だが、三浦自身は動くしかない。

椅子に深く腰を下ろし、天井を見上げることもなく、机上のメモだけを見つめた。

時間はない。だが、権限もない。


それでも、**できることはある**。


まず、情報の集約だ。

警察庁、厚労省、外務省――それぞれが持っている断片を、同じ枠で並べる。

「暴動」「薬物」「精神疾患」という整理を外し、**感染症という仮説で再整理**する。

公式文書ではなく、内部メモとしてだ。

意思決定の材料ではなく、「違和感の共有」を目的にする。


次に、警察庁との非公式ライン。

村上が動いているルートを、正面から承認はできない。

だが、止めもしない。

警備局の担当者に、あくまで「最近の国内事案の傾向確認」という形で接触する。

拘置所、留置施設、医療機関――

**噛みつき、制御不能、鎮静が効かない**という共通項だけを抽出する。


三つ目は、厚労省への揺さぶり。

感染症と断定はしない。

だが、「薬物でも精神疾患でも説明しきれない症例が増えている」

その一点だけを、医系技官クラスに投げる。

正式な検査や実験ではなく、**症例の横断的共有**を促す。

倫理審査を通す話ではない。

ただの「情報交換」だ。


そして、官邸内部。

会議は開かせない。

その代わり、副長官補の机に、**数字を使わない一枚紙**を滑り込ませる。


・噛まれた職員が同様の症状を呈した

・薬物反応なし

・現場が制御不能になりつつある


結論は書かない。

判断も書かない。

ただ、「整理が崩れ始めている事実」だけを置く。


三浦はペンを止めた。


これ以上は、越権だ。

だが、ここまでは――

**まだ、職務の延長線上にある。**


官邸は動かない。

だが、官邸にいる人間が、動かないとは限らない。


三浦は静かに立ち上がり、メモを一枚抜き取った。

表題は書かない。

「参考情報」とも書かない。


それでも、確実に誰かの目に入る場所へ、運ぶつもりだった。


数日。

それ以上は、許されない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ