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未定義感染  作者: 語り屋
15/17

15話

刑事は村上の前に立ち、声を落としたまま言った。


「確認だ。お前、どこまで分かっている」


村上は即答しなかった。

整理された言葉ではなく、事実だけを並べる。


「拘置所内で、収監者が制御不能な暴力行為を起こしています」


一拍置く。


「最初は暴動として処理されました。薬物や精神疾患の可能性で説明されています」


刑事は黙って聞いている。


「ですが、対応に入った拘置所職員が噛まれました」


刑事の視線が鋭くなる。


「噛まれたあと、しばらくして体調不良を訴え、意識障害を起こした」


村上は続ける。


「回復したように見えた後、同様の激しい興奮状態と暴力行為を示しました。収監者と、同じ症状です」


刑事は小さく舌打ちした。


「……そこまでか」


「医療担当者は、薬の可能性を否定しています。拘置所職員が薬物を使用しているはずがないからです」


村上ははっきり言った。


「その時点で、**感染症の疑い**が示されました」


刑事は腕を組み、低く唸る。


「噛まれたあとに発症、か」


「はい」


村上は一歩踏み出した。


「もし、接触――特に噛傷が感染経路だとした場合、この事案は暴動ではありません」


刑事の目が細くなる。


「人が人を止めに入るたびに、次の当事者になる」


「そうです」


村上の声は震えていない。

だが、言葉の重さははっきりしていた。


「医療も行政も、現行の枠組みでは動けません。検査も強制できない。意思疎通が困難な相手に対する医療行為は、法律上できない」


刑事は静かに頷いた。


「だから、公式にはやらない」


その言葉は、確認だった。


「記録に残さず、命令系統にも載せない。現場確認と称した、私的な動きだ」


村上は答える。


「それで構いません。事態を把握できるなら」


刑事は一瞬だけ笑った。


「変わった役人だな」


そして、声をさらに低くする。


「いいか。これは警察庁が動いた話じゃない。俺が勝手に現場を見に行く。それだけだ」


「理解しています」


刑事は踵を返し、歩き出しながら言った。


「準備は俺がやる。人も絞る。連絡は一本化だ」


村上はその背中を見つめた。


公式には、何も起きていない。

だが、水面下ではすでに一線を越えている。


噛まれたら感染する。

この経路が事実なら、拡大は制御不能だ。


村上は確信していた。

**これは、もう医療や行政の問題ではない。**

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