13話
村上は押さえ込まれる警備員を見つめ、息を整えた。
医療担当者の言葉が頭を駆け巡る。
薬の影響ではない。症状は収監者と同じ。噛まれた者が連鎖的に同じ経過を辿る。
「……これが事実なら、現場はもう持たない」
医療担当者は、叫び声や押さえ込む音に混じる息を整えながら答えた。
「ええ。医療だけでは対応できません。検査も進められません。本人の意思疎通が取れないと、進められる手段が限られるのです」
目の前の混乱は、理屈では止められない。
噛まれる→感染→暴れる→押さえる者も危険にさらされる。
連鎖の先には、制御不能の事態が待っている。
村上はふと閃いた。
「……警察の枠組みで介入できれば、現場を把握できる」
医療担当者は目を見開く。
「どういう意味ですか」
「暴力行為、制御不能な状態、施設秩序の維持――警察の管理下であれば、身体の確認や鑑定も進められる」
「医療ではできないことを、治安対応として……」
「そうです。医療同意が得られない状態でも、警察の枠組みなら現場を把握し、必要な措置を検討できます」
廊下で再び叫び声が響く。押さえ込む職員の数が増え、現場の混乱は拡大するばかりだ。
その瞬間、村上は確信する。
噛まれたら感染する。
この感染経路では、爆発的に広がる。
医療だけでは止められない。
「警察庁ルートで、現実を掴むしかない」
医療担当者も小さく頷いた。
廊下に響く悲鳴の中、二人は事態の深刻さを共有し、次の手を考え始めた。




