11話
村上は廊下の端で、制御不能の収監者たちの様子を静かに観察していた。遠くで鉄扉が揺れ、職員の声が飛び交う。汗だくになった職員が二人がかりで収監者を押さえ、別の職員が駆けつける。混乱は連鎖し、場は騒然としていた。
そのとき、廊下の隅で異様な光景が目に入った。
拘置所の警備員が、他の職員によって拘束されている。
しかし目は虚ろで、動きは異常に力強い。通常の制御では止められない。村上は息をのむ。思わず肩に力が入る。
「……これはどういうことだ」
村上は近くにいた職員に声をかけた。
「こいつ過労なのからか倒れていて……やっと目を覚ましたと思ったらなりふり構わず襲ってくるんです……」
職員の声は震えていた。汗が額を伝い、呼吸も荒い。
「午前の巡回では普通だったのに……」
村上は視線を離せなかった。予想だにしない光景に、心底戸惑っていた。
廊下全体が緊張に包まれ、拘束している職員も疲弊している。小さな隙間でも暴れ出せば、瞬時に混乱が拡大することは明らかだった。
村上は息を整え、距離を保ちながら観察を続ける。指示は出さない。助けに入ることもせず、あくまで**現場の現実を肌で把握するためだけ**にここにいる。
鉄扉の揺れる音、叫び声、走る足音、絶え間なく飛ぶ指示――
その中で、異常化した拘置所の警備員を拘束する光景は、官庁に届く「整理された情報」では決して伝わらない現実だった。




