10/17
10話
夜、村上は都内の拘置所にある医療部門に足を運んだ。官庁への正式な報告はまだ上げていない。書類や報告書だけでは、現場の混乱や危機を把握できない――そう考え、独自判断で視察するつもりだった。
入り口で警備員が立ち止まり、問いかける。
「どなたですか?」
村上は落ち着いた声で答えた。
「厚生労働省の者です。拘置所内の医療体制および職員・収監者の安全管理状況を確認するために来ました」
警備員は眉をひそめ、少し間を置く。
「今は職員が手一杯で……」
村上は低く、しかし確信を帯びた声で続けた。
「分かります。しかし、現在発生している制御不能の収監者対応についても、状況を把握する必要があります」
警備員はしばらく視線を交わしたあと、道を開けた。
廊下に入ると、異様な緊張が漂う。遠くから収監者の叫び声、鉄扉が揺れる音、職員の指示が飛び交う。村上は距離を保ちつつ歩を進め、静かに観察した。
廊下の一角では、収監者が拘束具や破れた毛布で固定されているが、すぐに抜け出そうともがく。職員は二人がかりで押さえ、別の職員が駆けつける。混乱は連鎖し、場は騒然としていた。
官庁にはまだ正式な危機報告は上がっていない。だが村上は肌で感じる。制御不能の事態が、理解の外側で進行していると。




