第4章 弱き王【1】
王宮の書籍室は、レクスがかつて暮らしていた部屋よりはるかに広い。一生をかけても読み切れないのではないかと思うほどの本が棚で綺麗に並んでおり、時間さえあればレクスは毎日でも通いたかった。
ソファに背中を預けつつ打ち明けたレクスの話に、あら、とミラは首を傾げる。
「いいじゃない、ポケットラットの家系。イーリスの言う通り、いざというときに魔力放出で逃げられるのは利点よ」
「そうだけど……もっと強い種族がよかったよ」
ポケットラットより上位の種族であれば、こうしてコンプレックスのように思うこともなかっただろう。ポケットラットの王ではあまりに弱すぎる。護衛がいなければとっくに誘拐でもされていたかもしれない。ただの村民だった頃は考えてもみなかったことだ。
「どうしてリベルはポケットラットの家系なの? 膨大な魔力を持つのに」
「そのほうが可愛いと思ったからよ。弱い存在が強くなる設定がよかったの」
実に姉らしい、とレクスは小さく笑う。この世界は姉が「親には見せられない」と隠し通した作品だ。姉の趣味がふんだんに盛り込まれていることだろう。
「そもそも、リベルはどうして膨大な魔力を持っているの?」
「原作者として、そういう設定にしたからとしか言いようがないけど……。前回のリベルは神に与えられたチートでさらに魔力量が増大していた。そうでなければ世界を破壊するなんてできないわ」
いまのリベルは、この世界にとってはふたり目のリベルだ。前回のリベルは神すらも騙し、この世界を破滅へ導いた。ただのポケットラットの家系の者であれば不可能なこと。まさにチートだった。
「あなたも、本気を出せば世界を破壊するほどの魔力を持っているはずよ」
「そうなの?」
「本気を出せばね。ただ、二の舞にならないように、あなたの魔力は種類を変えられていると思うわ。便利な魔法やスキルが身に付きやすくなっているのかもしれないわね」
「そっか……」
「チート能力ではないけど、きっと役に立つわ」
いまのリベルにはこの世界を破滅に導くつもりはない。おそらく、それだけの魔力は持ち合わせていないだろう。神によって「調整」が入っているはずだ。だが、便利な魔法やスキルが身に付くなら、魔法で楽しむことはできるだろう。リベルにはそれだけで充分だった。
「こんなところで、ふたりで内緒話か」
冷ややかな声が聞こえて顔を上げると、窓際のソファに腰を下ろすレクスとミラを覗き込むのはキングだった。本棚の壁に隠された角で、こういった話をするのにちょうどいい場所だ。
「休憩中なのだから、いいでしょう?」ミラが呆れた表情で言う。「レクスにだって、昔馴染みである私にしかできない話もあります」
キングは悔しそうに口を噤む。キングも“昔馴染み”には勝てないようだった。
「そろそろ仕事に戻ろうか」
立ち上がるレクスにミラも続く。レクスが本棚のあいだを抜けると、キングがサッと肩を抱いた。レクスとミラは姉弟であるため仲が良いのは当然であるが、キングにとってはそれが許せないようだった。前世では姉弟だったが、いまは血の繋がらない男女である。レクスがミラを選ぶ可能性があることを恐れているのだろう。キングにも悔しく思うことがあるのだ、と思うと、少しだけキングの印象が変わるようだった。




