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【改訂版】転生したら姉の遺作BLゲームの世界の悪役魔王だったので無限の天啓で魔王国を救います  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


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第3章 夜更け【1】

「あー疲れたー!」

 溜め息とともにベッドに倒れ込んだリベルに、イーリスがくすくすと笑った。

「お疲れ様でございました」

 カルラは公的な、イーリスは私的な侍女といったところだ。カルラが寝室に訪れることはなく、イーリスが執務室に入ることはない。私生活の世話をするのがイーリスだ。それがリベルの頭を切り替えるのにちょうどよかった。イーリスの顔を見れば新魔王(レクス)であることから解放される気分になれた。

「お布団が気持ち良い……」

「良いお天気でしたので、天日干ししておきましたわ」

「ありがとう、イーリス」

「恐れ入ります」

 イーリスは、リベルが心地良く過ごせるようにこの私室を整えてくれたのだ。リベルもようやく気が抜けて、綺麗にメイキングされたベッドが一日の疲労を吸い取ってくれるようだった。

「ほんと、なんで僕なんかが王に選ばれたんだろ……」

 考えれば考えるほど不可解である。ただの一介の魔族に過ぎなかった自分がなぜ王に選出されたのだろうか。家の地位が高いわけでもなく、彼自身の能力が抜群なわけでもない。国王に最も遠い場所にいたのではないかとリベルは思う。

「国王って世襲のイメージがあったけど」

「そうですね。キングは世襲で王になられましたわ。ただ、キングには御子がありませんので、血族の中から何人かの候補が上がりました。その中で、キングがご指名されたのがリベル様ですわ」

 血族とは言っても、リベルはかなりの遠縁だ。他の候補者は多少なりとも近い血族であったと考えると、候補入りしたことすら不可解だ。

「なんで僕なんだろ……。僕は普通のなんの変哲もないただの魔族なのに……王なんて荷が重いよ……」

 王の選出に関する勅使がリベルのもとへ訪れたとき、彼自身も母もそれを断ろうとした。一般家庭で育った彼に王の素質があるとは思えず、数日ともたない、と母は主張した。それでも勅使は、決まったことだ、とリベルを王宮に召し上げた。王命であったためだとはのちに知ったことだが、そのときリベルは、キングとは領地の視察で何度か会ったことがある、という程度だった。選出された理由は見当もつかない。

「そもそも、僕を王にすると決めたとき、反対する者は大勢いたんじゃないの?」

「少なくはありませんでしたね。ですが、それは誰が王になられても同じことですよ」

 イーリスの言うことは尤もだ。キングが良き王であったことで、誰が王になったとしてもきっと見劣りしただろう。代替わりには反対派が付き物だ。

「お茶を淹れましょうか? それとも湯浴みされますか?」

「湯浴みして寝たい……」

「かしこまりました」

 イーリスはくすりと笑ってリベルに背を向ける。ドアがノックされたのは、それとほぼ同時だった。ドアを開けたイーリスが、あら、と明るく言う。

「キング、ごきげんよう」

「ああ」

 その声に、リベルはがばっと起き上がった。なんだか嫌な予感がする。

「キング、何かご用ですか」

「用ということはないんだけどね」

 キングは朗らかに微笑んでいる。その人畜無害に見える表情が、リベルを怯ませた。

「お茶を淹れて参りますわ」

 うふふ、と楽しげに笑ってイーリスが出て行くので、リベルはまた重い溜め息を落とす。そんなリベルの様子は気に留めず、キングはリベルを軽々と抱え上げた。そのままソファに腰を下ろし、リベルを膝に乗せる。

「私との回路同調(シンクロ)を考えてくれたか?」

「いや……その……」

 視線を逸らすのを許さず、キングはリベルの頬に手を添える。深い真紅の瞳に射抜かれたように、リベルは身動(みじろ)ぎひとつ取れなくなった。キングはそんなリベルを微笑ましく見つめる。リベルは居心地の悪いような気分だった。

「お前は本当に可愛いな」

「かっ、揶揄うのも大概にしてください……」

「それは心外だ。私はこんなにもお前を愛しているのに」

 熱い頬を撫でる手は優しく、細められた瞳は慈しみを湛えている。確かに揶揄っているようには見えないが、キングは先代魔王とだけあって、感情を隠すことなど容易いことだろう。何が楽しくて自分を揶揄うのか、とリベルは固まっていることしかできなかった。前世でもこんな状況に陥ったことはない。リベルには免疫というものがなかった。

「早くお前を私のものにしたいよ。そうでないと、いつ、誰に奪われるかわからないからね」

 その言葉に、リベルは不意に忘れてはならない事実が目の前に浮上していた。

 忘れてはならない。神との契約がどうであろうと、自分が新魔王(レクス)である限り、破滅の大魔王になる可能性は消えていないこと。いずれ誰かを傷付けるかもしれないことを。彼らと対立するかもしれないことを。

「……そんなことはあり得ませんよ。僕が誰かに好かれるわけがありません」

 声の調子を落として言うリベルに、キングは優しい微笑みを湛えたまま首を傾げる。

「どうしてそう思うんだ。私はこんなにもお前を愛しているのに」

「揶揄わないでください。僕に、愛される資格なんてありません」

 キングが困った表情になるのがわかり、リベルは俯いた。




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