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弟が優秀すぎるから王国が滅ぶ  作者: 今井米 
テッテレー!!レベルが上がりました!
98/200

第22話 ご機嫌窺いも努力でしょ:再

姉上はにぱっと幼女のような明るい顔つきに戻ったかと思うと、朗々と声を上げる。




「まぁ、さっきも言ったように貴方は権力がなくても行使できる力があるからね。それのせいで苦労したことはあると分かっていても、羨ましいとは思ってしまうわけ。そんな貴方だからこそ思う所はあると思うけど、そんな意地張るような場面じゃないのだし、さっさと帰りなさいな。」




フォー姉上の朗らかな声に、スリーもこくこくと首をふり同意する。




「これが命に関わることなら『権力なんて関係ないだろ!』て言えばいいけど、今回は調書を俺等が受けるからお前は邪魔で帰れって話だかんな。そこまで抵抗する意義は無いだろ。ホレ、帰った帰った。」




「でも。。。。」




「今日のお前は『でも』って言うの多いなぁ。。。」




「そんな悪事を黙って見ていることなんてできない!俺だって何か役に立ちたいですよ!」




サーシャ様を狙った非道な犯行!それに対処するのに僕だって貢献したい!何もしないままなんて嫌なんだ!


けれど僕の言葉に二人は顔を会わせて首をかしげる。


「悪事かどうかは微妙よねー。私達だって犯罪者を死刑にするし。」


「俺等はぁ~、正義に基づいて人殺しをしているのでセーフですぅ~。」


「いや、善悪なんてそもそも主観的価値観じゃないですか。」



というかそう思うなら政限を上げろよ、と小声で呟く姉上。これはきっとあれなのだ。聞こえるように言っているのだ。




それぐらいのことは僕にも分かる。けれど、その前の言っている内容は分からない。二人が言ったのは悪逆非道な犯人を庇わんとする言動。



「…レッドマスクが悪くないってどういうことですか。」


アイツのしたことは許されないことだ。それを、どうして庇うような発言をする?姉上に尋ねた僕の問に、スリーは手をひらひらを振りながら答えていく。



「本当に聖書の言う通り世界が焼かれるのなら、こいつらは世界の人間を救う為に尽力しているってことになるしねー。寧ろサーシャ様一人で何年後かの大地が救えるのなら赤仮面がしたことの方が適当だろ。」



「五月蝿いスリー。お前には聞いてない。」



「兄ちゃん泣きそうだわ。」



姉上の目を見る。姉上は僕を見て溜息を吐く。



「スリー兄上の言う通りよ。」



「そんな!」



「お前後で覚えてろよファイーブ。」


スリーの戯言なんか耳に入らない程の衝撃的な言葉を姉上から聞き、僕は開いた口が塞がらない。レッドが、サーシャ様を狙った卑劣な罪人が、正しい?何を言っている?



「そんなの聖書の内容が間違っているに決まっているでしょう!」




「水掛けローンだね!!」




おちゃらけた口調で声を上げるスリー。水掛け論だって?世界が焼け果てるかどうか否かが、水掛け論だっていうのか?




大地が焼けるなんてありえないだろう!




一体どれだけの燃料が必要になると思っているんだ!?

慌てて姉上を見れば、呆れた顔付きで僕らを見ている。



「悪魔の証明よね。間違っているって証明できないし、正しいとも証明もできない。」




姉上でさえも、聖書の内容を否定しない。




だれがどう考えても、あんなことは不可能だっていうのに。この短時間であの男に洗脳でもされたのか?




そんな僕の思いに気付いたのだろうか、姉上はかかとで床を蹴りながら僕を見る。




「あのね、ファイーブ。未来がどうなるかなんて分からないわ。」




「でも!!」



「でも?」



「例えそうでも、大地が焼けるなんてありえない!!」


普通に考えればそれぐらい分かる筈だ!



「・・・あのねぇ、ファイーブ。」




呆れた様な顔で姉上は僕を見る。


「普通に考えれば、は『()、普通に考えれば』、の話でしょ?」


だから何だというのだ?


「…同じ事ではないですか。」



「もしかしたら500年後には大地が球状だって言われてるかもしれないし、王国から帝国まで1時間で辿り着くかもしれないし、魔力媒体無しでも空を飛んで月の上を歩く人間がいるかもしれない。未来はそんな荒唐無稽な世界なのかもしれないわよ。それが『普通』なのかもしれないわ。」




それは。。。




「もしかしたら世界中の人間と会話することができるようになるかもしれないし、動く静止絵を取ることもできるかもしれないわ。ほら、なんだっけ、勇者様の。。。」




「『スマーホ』だろ?世界中の人と文通も会話も出来て、緻密な絵や、世界情勢を切り取ったりするんだっけか。魔力無しで。あと算盤や時計の機能も兼ねているんだっけ。もしかしたらそれが俺達の世界でも再現されるかもしれないな。」




そんなの…ありえない…なんていえやしないよ。

けど…けど…!大地が燃えるなんて。。。


そんなのありえないだろ‥‥。



「だからね、ファイーブ。そんな物が存在するこの世の中で、聖書の内容が間違っているとは一概には言えないのよ。実際に聖樹に遺跡、人種やらなんやらの実績もあるのだし。」




間違えている可能性も十分あるけどね、と姉上は僕の頬に手をやりながら優しく微笑む。




「まあ。少なくともこの人達は、被検体121番は、善意でやっていたってことよ。言動が支離滅裂で矛盾ばっかりだったけど。でも善意100%の行動だったわけ。」




「教会の顔だしねー。いい人に決まっているじゃん。ファイーブの聖女ちゃんだって、いつも誠意と善意をもって行動するでしょー?こいつらも一緒なんだよ。」



スリーはわしゃわしゃと僕の頭を撫でまわす。



「にしても大地焼失かー。海の中にいたらどうするんだろ。」




「海もぐつぐつ煮るから大丈夫なんじゃない?きっと。おそらく。」




「適当なこと言うの辞めなよ。しかも大丈夫って全然大丈夫じゃないじゃん。」




分からない。




もし、赤仮面のしたことが正しいのだとしたら、僕達のしたことは何だったんだ?あの人を殺した僕達は、悪なのか?あの、サーシャ様を殺そうとした人間が正しいなんてありえるのか?




そんなの、、、嫌だ。




その想いに縋りたくて、僕は正義だと言って欲しくて、声を絞り出す。




「でも結局、僕たちのしたことは正義なんですよね?正しいことだったんですよね?だから姉上とスリーは、アイツを殺したんですよね?」




「「違うよ?」」




「え。。。」




違う。。?僕らが。。。悪?




僕が。。。。悪?



「‥‥あのね、ファイーブ。」



姉上の声にはっとする。視れば、今日何度目かになるか分からない、呆れた表情。



「こっちが正しくないからと言って、こっちが悪だとは限らない。逆もまた然りで、相手が間違っているからと言って、こっちが正しいとも限らないのよ。」



「‥‥なに…を?」



『正しい』の反対は『間違っている』。『善』の反対は『悪』。『善』は『正しい』で。『悪』は『間違っている』。こんなの誰だって知っている常識だ。


それとは真逆の事を、なぜ姉上は言っているのだ?


「分からないかしら、ファイーブ?私の言っていることが?」



まるで僕の心を見透したかのように、心中を言い当てる姉上。

そしてそのままゆっくりと、口を開いて僕を見る。


「100%正しいことなんてないわよ。100%間違っていることはあるけども、真なる正義は存在しない。常に反例が付きまとう。96%、97%、98%、99%。100%に近い正義は必ずある、けれど100%の正義は決してない。」




「だから皆迷いながら進むの。自分がしていることが100%正義になるように何をすればいいか悩んで悩んで考えて。それをひたすら続けるのよ。」




「私達がアイツを殺したのは、邪魔だったから。私の描く未来図の障害になるから排除しただけよ。悪人善人は関係無いわ。サーシャ様を狙ったのがたとえ温厚篤実な女神だったとしても私は同じことをするわ。」




「温厚篤実な神とか存在するわけねーけどな。いたとしても胃炎で早死にしてるだろうね。」




「今そういう話じゃなかったろ黙れよ塵カス。」




「ふええええ。情緒不安定すぎない?」




僕には全く分からない。




「ねえ、ファイーブ。」




僕の混乱した顔を見たからだろうか、しゃがみこんだ姉上は僕の頭に手をかざし、ポンポンと静かに叩きながら声をかける。




優しくて、暖かい声。スノーの借金を建替えて、僕の誕生日を祝って、スリーから僕を守ってくれた時の声。




「貴方は自分の考えを間違っているか合っているかの二択でしか考えていないのでは無くて?」




「別にどっちでもいいじゃない。私なりの考え方があって、貴方なりの考え方が合って。スリーの考え方があって。ツー姉上の考え方があって。ワーン兄上の考え方がある。」




「そりゃあ余りにも非論理的で非人道的な意見は却下するとして、それ以外は否定する必要はないんじゃない?」




「貴方の考え方。私の考え方。それでいいじゃない。自分の意見を可、それ以外を不可だけでとらえる必要はないのよ。」




目は朝日のように明るくて、顔はいつものように和やかで。




「でも考えるのを諦めるのは駄目。」




「考え続けるということは、この思考レースを走り続けるのは、とてもしんどい。投げ出してしまいたいぐらいに、重たくて、窮屈で、絶望的なものよ。」




「でも王族という立場は、その辛い思いを背負う為にある人身御供なのよ。こんな苦痛に満ちたゲームを国民の代わりに肩代わりしてあげるのが私達の役目なの。それからは逃げちゃ駄目よ。」




そんな風に考えたことなんて、なかったから。


王族をただ、古臭い因習だとしか思えていなかったから。


だからこそ、僕は何も言えなかった。


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