第21話 分かってくれない
こいつら。。。
本当に分かってないのか?
確かに、言葉や態度は何の役にも立たない。それで現状が改善するかと言われるとそんなことは決してない。殊勝な態度を取ればサーシャ様が命を狙われなくなるわけでも、刺客が改心するわけでもない。
深刻な空気だろうと、ふざけた空気だろうと、現状は一切変わらない。
けれど、例えそうだとしても。
あの場で茶化したり、ふざけた会話をするのは違うだろ。
現状は変わらないからと言って、人の気持ちを、場を無視した言葉を投げかけるのは、違うんじゃないか?
それすらも分かってくれないというのか?
何も言わずに黙った僕を見て、首を傾げる姉上。そしてゆっくりと口を開く。
「・・・取り合えず今日はこれで解散ね。シェード、サーシャ様、ファイーブは先に帰っておいて。私と兄上はいつも事件後に来る優秀な近衛に今日のことを報告するから。」
「フォーの護衛は?」
「ローズがいますわ。」
「いやあの娘ポンコツじゃん。。。。。真剣な子に言いたくないけどあの娘阿呆じゃん。」
「肉盾にはなるでしょ。」
「げっどぅうー!!無いわー、今の発言は無いわー。」
「お前が言うな。」
僕の話が無意味であったとこと裏付けるかのように、へらへらと話を続ける二人。相変わらず、ふざけた会話。このまま彼等を残しておくのはマズイ気がする。
挙手をしながら僕も二人の会話に口を挟む、
「僕も残ります!」
「いやお前いたところで……」
僕の要望を一蹴したスリーはそのまま僕を無視してフォー姉上とシェードさんに指示を出す。二人は僕をちらりと見たけれど、そのまま何も言わずにテキパキと動き出す。
「でも!!」
「さっきの話聞いていたか?一応略さずに言うなら『いやお前いたところで意味無いし却って邪魔なんだよな。それなら帰れよ』、だ。全文聞いても決心が変わらないなら敢えて聞いてやる。お前に何ができるんだ?」
「証言ができます!」
なにもしないなんてできない!僕も何か役に立ちたいんだ!
なにより、この二人を放っておけない。
「そんなん俺でもできるわボケ。俺が証言もできない幼児にでも見えるのか?」
「ファイーブは文官からの心象が悪いから、いると話が拗れるだけよ?10分で済むような話が1時間とかになりそうで嫌だからスリー兄上は帰れと言っているのよ。」
「お前は権力稼ぎサボってたからなー。こういう細かな場じゃ発言権無いぞ?最悪、怪しい容疑者Aとして近衛に連れて行かれるぞ?」
「そんな馬鹿な!」
スリーの言葉を否定しないどころか首を縦に振り同調する姉上。そして下手すればまともに話を聞いてくれずに連行されるというスリーの言い分。
そんな道理に反することがまかり通っているなんて、どういうことなんだ?
「本当よ。王家の権力濫用を防ぐために、王子は功績ごとに応じて権限が授けるじゃないの。貴方の今の政干渉権限って『玖』でしょ?初等書記官と同じぐらいしかないじゃない。そんぐらいなら業務上権限は近衛の方が高いわよ。」
政干渉権限とは、読んで字の如く王族に叙される政に干渉できる権限のことだ。通称『政限』と呼ばれるこの権力は、現代で言うなら部長、課長、室長、専務と言った風な仕事上の身分分けに使われる。
これは経験の浅い王子が政治に口出しできないようにするという思惑の下古い時代から存在する制度で、生まれた始めの王子には『拾』の権限が下賜されるのだ。王子が立てた偉勲を毎年議会が論功し、その年終わりに政干渉権限は更新され、値が小さくなるごとに、王宮内での発言権も増すというわけだ。
因みにスリーの政限は『参』、フォー姉上は『伍』、ツー姉上は僕の二つ上で『漆』、ワーンは『弐』である。
僕は、『玖』。権力なんてあっても碌なことがないんだ。だから楽に気ままに生きるには、そんなものは無い方が良いと思って取らなかった。
しかし証言の信憑性に政限など関係無い筈。
それが正しい筈なのだ。
「お前はやっていることは凄いけど、その報告を面倒臭がって全部ブッチしてるから文官からの印象&実績もスカスカなんだよなー。昼行灯に憧れているのか知らないが、ちゃんと書類にしたためないと駄目だぞー。」
「貴方、調書室に連行されるわよ?一応王族専用の部屋だから見た目は豪華にしているけど、手抜き工事で作った部屋だからそこでの長時間拘束は結構辛いわよ。」
「そんな!!僕が何もしてないなんて明らかじゃないですか!」
権限の無い奴の話は聞いてもらえないなんて不平等だ。そんなに身分は大切か?人の発言の価値を只の権限の数字で決めるのか?
それでも二人は肩をすくめて相手にもしてくれない。
「そういう大綱だったじゃないの。いきなり言われたのならいざ知らず、幼い頃から告げられてきて、今更『知らない』『可笑しい』は通用しないわよ。」
「規則に沿って動いた者のみが、悪法を変えられる。王国はそういう大綱で動いているんだぞ?」
「自称大国である王国が、腐ったままでも他国に舐められないでいられたのはこの暴君暗愚を弾く政限ルールを守ってきたからよ。貴方の一存で破らせるわけにはいかないわ。近衛もきっと同じこといってくるわよ。」
「だからって!!」
規則に固執して、問題解決に尽力しないなんて本末転倒だ!
しかし姉上は僕の顔を見て溜息を吐きながら歌うように台詞を吐く。
「権力なんて面倒臭い。権力なんかあってもいいことない。人類皆平等だから権力なんてしょうもない。生れで差別じゃなくて能力での評価こそがあるべき形。」
それは、僕が常々言ってきたこと。僕が、父上とツー姉上に進言してきたこと。けれど、フォー姉上はそう思っていないようだ。臭い物を嗅いだような顰め面で言葉を紡ぐ。
「御高説どうもって話よね。私もそんな言葉言ってみたいわ。」
「そして貴方はそれに沿って生きてきたじゃない。大した権力も無しで。凄いわ。眩しくて明るくて正しくて。私には無理だわそんな生き方。」
「だけど結局のところ、王族の私を守ってくれるのはその権力よ。そしてそれは社会にもそっくりそのまま当てはまる。これの善悪はともかく、そういうルールで社会は回っているからよ。そうすることで多数を救うの。そうやって社会は社会であれたのよ。」
そして姉上は息を吐く。そして吸う。
その何気ない仕草は、彼女なりの喝の入れ方なんだって気付いた時にはもう遅くて。
「それが嫌なら社会から出ていけ。お前の我儘で社会のルールを変えようとしてんじゃねえよ。」
目は夜のように暗くて、声は唸り声のように低くて。
言い返そうとした僕は気圧されてしまった。




