第6話 らへんの
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ランランちゃんを保護して一日が経った。ローズとケタミン君と話合いをして、準備をして。後はもう一度詳しい話をランランちゃんから聞いて行動に移す。
「と、いうわけで。ランランちゃんから話を聞きたいんだけどいいかな?」
「は、はい。。。でも、その。。」
「どうしたの?」
何か言いたげな目で俺を見てくるランランちゃん。ちらっと彼女が見ればその先にはリンリンちゃんとローズが。…成程。
「リンリンちゃんも一緒に連れてきたらいいのかい?」
「‥‥できれば、ローズちゃ、いやローズさんも。」
「うんうん、分かったよ。」
にしてもローズて、ランランちゃんよりかなり年上だよね?
舐められているのか、ローズの心を掴む技のお陰なのか。。。
机と椅子。そして暖かい白湯を入れて、ランランちゃんに差し出す。リンリンちゃんはローズと遊んでる。心温まるなぁ…後でローズはパシらせよ。
「それで、早速で悪いんだけどね。」
「何故、逃げ出したのか、ですか?」
俺の質問を予想していたのか、昨晩よりは緊張が取れた表情で俺を見る。
…へぇ。準備してきたってことね。
「うん。昨日ランランちゃんが話してくれたことなんだけどね、じゃあ、ランランちゃんはどうしてジアゼパムファミリーから逃げたのかな?て思ってさ。」
俺の問いかけに、俯きながらも返答するランランちゃん。
「…まだ、スイートビ、いや、ボスは捕まってないと聞きました。」
「うんうん、それで?」
「あのボスが愛用する魔術は分身です。」
「ふむ‥分身か。これはまた高難度な魔術を使うね。」
ただの違法組織の長が使える魔術じゃないだろうに。ハッタリかそれとも。。
「はい。自分とそっくりの人間を作り出して、それを牢に配置していた事を見たことがあります。」
「ふぅん。。。。興味深いね。」
「そのボスの魔術から逃げ切れた人間はいない聞きました。そして、ボスが捕まっていないのです。逃げなければ思いました。」
確かに、あの『分身』という魔術それ自体の特性はそれだ。自身から離れた位置に自身を置き、情報を共有できる。使い手が巧みであれば、追猟にはもってこいの魔術。
ランランちゃんの言う事を信用するならば、だ。ボスはかなりの使い手だね。
「ふんふんそれで?それならもっとジアゼパムファミリーに守ってもらおうと期待すると思うのだけれど。」
「‥‥。」
だんまりか。この反応は、ローズの言う通りなのかな。
「これは、はい/いいえで答えて欲しいんだけどね。」
「‥‥はい。」
「ジアゼパムファミリーも人身売買組織の一つなんじゃないかと思ったのかな?」
「‥‥。」
「沈黙も『はい』に含めるよ。」
「‥‥。」
これを聞いてもなお、沈黙か。
結局のところ、ランランちゃんは信用できなかったのだろうね。まぁ、マフィアを信用するなんて魔王が人族と交流を願ってるのと同じぐらいありえない話だ。
無理もないと言われれば無理もない。
うん、やることは決まったね。
俺は勢いよく立ち上がり、目を丸くしているランランちゃんを後目にパチンと指を鳴らす。
「よし、じゃあまずはジアゼパムファミリーの信頼を勝ち取ることから始めようか。」
「え?」
「とりあえずその人身売買組織『バルビツール』を潰そう。」
「「!?」」
驚きで俺を見るのは、ランランちゃん…とローズ。おい待て。何でローズは驚いてるんだ。昨日言っただろ。
想定外のハプニングが起きているけど俺は華麗に決めるぜ。
「そしたらお話を聞かせておくれ。」
「何のですか?」
「君達が何故、寵愛を受けていたのか。」
ランランちゃんが驚いている傍ら、俺はケタミン君とローズを連れ出し次の方針を発表する。
「という訳で君達!健気な少女達のメンタルヘルスの為に、幹部をちゃちゃっと見つけて三枚に卸そうか!その肉でミートパイを作ってパーティさ!」
「そのミートパイは誰が食べるっすか?」
「ローズは確定ね。」
「そんな!?」
冗談はさておき。取り合えず先ほどから黙りこくったケタミン君に俺は声をかける。
「ケタミン君、ケタミン君!!ミートパイの準備をしようぜ!」
ケタミン君が暗い顔して俺を見てる。どしたの?
「王子、それは不可能です。」
「‥‥ん?何故だい?」
「昨晩、王子にそうなる可能性があると言われてから作戦を練ってきました。しかし大きな問題があって幹部の居所が掴めません。それは奴らの居所です。」
「探したけど見つからないってこと?」
こくり、と。苦々しい顔で頷くケタミン君。
「王都にあるスラム街は、これ以上なく複雑な作りになっています。一ヶ月やそこらならいざ知らず、今日中は難しいですよ。」
俺の誘いを断ったケタミン君は、そのまま理路整然と言葉を紡いでいく。
ケタミン君の言葉を捕捉していこうか。
王都のスラムは二つの理由があって、複雑な作りとなっている。
一つは無計画に家やら店やらを構えたから。始めは整頓された街並みに、好き放題付け足していったから混沌を極めているんだ。建築物系の法律を作るべきだとあれだけ第一王妃様が言っていたのに父王ときたら。。。
そしてもう一つの理由は、防衛の為。多くの暴力系組織が棲むこの街では、敵対組織から身を守る為に敢えて入り組んだ街路を作った。無秩序な街並みの方が、彼等にとっては都合が良かったんだよね。
「‥‥といった理由から、スラム街に逃げ込まれたら再度発見することは難しいです。出回っているスラム街の地図も出鱈目ばかり。発見が不可能とは言いませんが一日で見つけるのはやはり不可能です。」
折角のケタミン君からの忠告だが、すまない。
「ちゃんと対策はしてあるよ。これを使うのさ。」
懐から取り出しのは…地図。まぁ当たり前だよね。マッピングと言えば地図だ。
「これ。。。。え、もしかして。」
「スラム街の地図さね。」
流石は影。俺なら10分でギブアップするような重労働を片手間で終わらせて送ってきやがったぜ。
「不可能だ!」
「ケ、ケタミン君?」
けれど影の事を知らないケタミン君は、顔を真っ赤にして声を張り上げてくるぜ。
「さっきも言っていたでしょう!!街路は定期的に、そして不定期的にも作り替えられている!それだけじゃない、各組織は地図作成を警戒して、そういう動きをする人間を真っ先に処分しているんだ!」
「その通りっすよ王子。」
「この地図がスラムで機能するわけがない!!今まで何百という人間が地図を作ろうと試みたことか…!!」
言いたい放題叫ぶケタミン君。そしてしれっと追随していたローズ‥‥いや待て何でローズはこれの存在知らないの??影が作ったんだよ??
「聴いてますか王子!!貴方はこの街を舐めすぎだ!」
ふむ…。確かに、俺はこの街を甘く見ているのかもしれない。
が、一つだけ言えることがある。
「あのね、ケタミン君。君こそ舐めすぎだよ。」
「え?」
「権力を。国家権力を君は舐めすぎだ。」
俺からそんなことを言われるとは思っていなかったのか、ケタミン君はポカンと口を開けて俺を見ている。が、先ほどあれだけ俺に文句いってきたんだ。俺だって指摘の一つや二つ、言わせてもらおう。
「そりゃあスラム街の道が分からないのは表向きの話さ。国が、こんな危険な街を『詳細不明』で終わらせるわけないだろう?」
スラム街。王都という貴族や王族が住む都にある悪性腫瘍。こんなものに対処しない権力者は馬鹿だ。そして、権力者というのは往々にして、危険を撥ね退ける能力に長けている。
それが権力者が権力者たる由縁。彼等が保身でへマをしたことは無い。
「精々50人程度のちっぽけな裏社会の組織じゃ作れなくても、国には1000を超える精鋭の駒がいるんだ。規模が違うんだよ、規模が。そいつらを駆使すれば地図作りなんて楽勝さ。」
そもそも、スラム街の建設業者のバックには国が付いているんだ。彼等と仲良く話し合えば、建物の位置の把握など容易。
「細かい建物の位置や構造だって、王国が誇る諜報員からすれば赤子の手をひねるようなものさ。これが現物ね。」
「‥‥拝見します。」
自分達が縄張りとする区画を見ているのだろう。彼等はその地図の正確さに顔を曇らせている。それもそうか。彼等からすればお上に喉元を晒している状態だ。
つまり、要約するとだ。こんな修羅みたいな場所で地図を作り続けるなんて影は頭可笑しいよねて話だ。
「じゃあ行こうか、君達。健気な少女を救うメンタルヘルスミッションを!!」
「…その言葉、気に入ったんすね。」
「うん!なんか善行を積んでいる気分になるよね?」
「恐らく善行を積んでいる人間から最も程遠い言葉っすね。」
「五月蝿いなぁ。ぶん殴るよ?」
「ええ。。。」
さて行こう!!
東の外れの区画にある小さな酒場。
そこで俺とローズは聞き込みを開始。何故ここなのかというと、地図の情報を見ればほぼ確定でそこにバルビツールのボスであるスイートビ君や、その幹部達が隠れているからだ。
「なぁなぁそこの兄ちゃん知ってるか?」
「何だ?」
「バルビツールていう組があったろ?」
「…あ、ああ。あれがどうしたんだ?」
男は息を呑み、もう一人の男のいう言葉に耳を傾ける。
「あそこが先月ジアゼパムの下部組織にやられた理由だよ。ジアゼパムの奴ら、額に青筋たててまくし立ててたぜ。」
「…!?一体どういうことが理由なんだ。」
ボスが人間不信であることが幸いして、バルビツールの副ボスは姉妹について知らなかったらしい。
酒場でボスはロリコンなんじゃないかってよく嘆いていたのを組員達は聞いていたらしい。ひでえデマだな。でも利用しよう。
「実は重度のロリコンであったバルビツールのボスが今回、あそこの愛娘に手を出してしまったんだってよ。愛娘家の組長はそれでバルビツール一人残らず殺すべし!てよ。」
「そこの愛娘て確か。。。。」
「11歳だ。」
「ボス‥‥!!だからロリは辞めろと言ったのに‥‥!」
「ウン、ソウダネ。」
物凄い悲壮な顔でしょげているけどごめんそれ嘘だわ。愛娘いないわ。ボスはロリコンじゃないわ。この裏業界と職種にしては珍しくバリバリノーマルだったよ。
心の中で胸を痛めながら、俺は副ボスに囁く。
「それで、実はよ。。。ちょっと美味しい儲け話があるんだ。」
「なんだ?」
「バルビツールの隠れ家の構造を教えてくれたら、お前を殺さないでやるよ。」
「な‥「静かに。」‥!?」
ローズが周りの人間から見えない様にナイフを喉仏に立てている。そこからうっすらとながれる血を指で拭い、俺はバルビツールの副ボスに笑いかける。
「ほら、今すぐ喋って慈悲を望むか。それとも抵抗を貫いて今死ぬかどっちだ?」
「‥‥喋れば、俺の命は助かるのか?」
「トウゼン。オレ、ヤクソク、マモル。」
「‥‥。」
「オレヲ。シンジロ。」
地図を参考にケタミン君達が探した結果、そこに幹部が身を寄せているという結論に至ったらしい。最初からそこに隠れているよって言ったじゃん。
で、そんな無駄な事をしている間に俺達はそこの建物の構造と、どこに誰がいるのか把握。副ボスの合図とともに突入する予定だ。
俺の情報にケタミン君は驚いたものの、すぐさま実行に移すべく準備。そして後10分で俺達は突入する。
「そう言えば王子。合図て何ですか?」
「『ネシ』『ンコリロ』『ナルケザフ』。」
「‥‥それてどういう意味ですか?」
「『フザケルナ、ロリコン、シネ』だって。恨みつらみて怖いねぇ~。ケタミン君も気を付けなよ?」
なおこれを合図にしようとした副ボスもふざけている。この言葉を大声で叫ぶんだとさ。もう自棄だよね。
それを聞いてケタミン君は何とも言えない顔しているぜ。
「‥‥うっす。ああ、それと気を付けてくださいね王子。相手は不可思議な幻術を使うと聞いています。」
「幻術?分身じゃなくてかい?」
「‥‥分身?そっちの方が聴いたことないです。」
成程。自分の力を大きく見せる為に、商品達には『分身』を使えるのだと嘯いていたのか。賢いね。
「それじゃあ今から合図があれば、建物に強襲しますね。」
「了解っす。」
「異議なし~。」
今回指揮を執るのはケタミン君。ケタミン君のファミリーであるジアゼパムのお仕事だからね。ケタミン君が仕切るのは至極当然のこと。
「あの。。。」
カッコイイ突入ポーズを考えていると、後ろから呼び止める声が。
「ん?どうしたんだいランランちゃん?」
「どうして私達がここに?」
「嫌だったかい?」
「そりゃあ嫌に決まってるすよ。」
ランランちゃんの代わりにローズが答える。
実際のランランちゃんは、どう答えたらいいのか分からない困ったような表情をしている。つまり全面的にローズに賛同している訳ね。
そう。今回の強襲作戦にはランランちゃん達もついてきてもらっている。
「ランランちゃんの気持ちは分かるけどね。これは大切なことなんだ。ちゃんと理由もある。」
「嘘っすよね?」
疑いの目を向けるローズを無視して俺はランランちゃんの目を見て話す。
「だから俺を信じて欲しいんだ。」
「だから嘘っすよね?」
「連れてきた理由は二つ。一つ、幹部の顔を知っているのはランランちゃんだから。もし幹部だと思って殺した相手がそうでなかったら、意味ないでしょ?ランランちゃんに確認して貰わないといけない。」
「ああ。。。」
「それともう一つ。」
「?」
「大っ嫌いな奴の死に様を見せてあげたいっていう、王子からの粋なプレゼントさ。」
ああ、俺は何て優しいのだろうか。
「絶対にいらねえプレゼントっすね。」
後でローズの仕事は倍にしよう。
ていうか本当に考えていたんすね、て呟いたの聞き逃してないからな??
「そろそろ、時間だね。」
「ネシ!!!ンコリロ!!!!ナルケザフ!!!」
「……あ、副ボスの合図だ。」
本当に叫ぶんかい。
「いけ!!!!」
ケタミン君の怒号とともに、一斉にファミリーの組員が強襲。
木製のドアを蹴飛ばし、続けざまに酒場に乱入するケタミン君達。その一歩後ろで見守るように俺等も入る。
ドサクサに紛れて入り、そしてその
「ネェ、ドコカラキタノ?」
お、記念すべき接敵第一号。意外と普通に見え‥‥ないねハイ。手に大鎌持ってるし。髑髏のお面付けてるし。
「「「「ネェ、ドコカラキタノ?」」」」
20も超える髑髏たち。こわ・・・。
俺、こういうホラー苦手なんだよね
「ローズ?」
「『嵐』」
突風が吹き、髑髏を吹き飛ばす。家具と共に壁に打ち付けられ、うめき声をあげる。その一方で、強風をものともせず佇む髑髏が3人ほど。
「‥‥あれが幻影か」
成程。何人か実体持ちの骸骨仮装した『分身』。残りは幻影と。
「幻影の中に本物を混ぜた虚実混合の部隊。全員が幻影だと思って突っ切れば実体持ちから攻撃を喰らい、逆に全員が本物だと思えば徒労を食う。賢いね。」
「でも今みたいに全員吹き飛ばせば意味ないすよね?」
「そうだね。つまり火力こそ全てて話さ。単純だね。」
愕然としているケタミン君を他所に、ランランちゃんとリンリンちゃんを連れて俺は走る。戦闘面においてはローズがいるからそこまで心配していない。
後魔道具で体守ってるからね。余程の事が無い限り大丈夫だろう。
酒場の奥の部屋に行けば、そこには変な恰好したオジサンが。髑髏のパチモンみたいなお面を顔に付けてる。しかも何か両手にナイフ持ってる。
「よぉランラン!!!会いたかったぜ!!」
「ひぃっ!!」
思わずとランランちゃんが後ずさりする。
ふむ、この反応を見る限り当たりかな?
「ランラン!!お前とリンリンさえいれば俺は無敵だ!」
すげぇロリコン発言だ。副ボスが誤解した理由も今なら分かる。尊敬もできねえし、感動もできねえよ。
「ねぇねぇ、君さ。」
「ああ゛ぁ!?」
俺にようやく気付いたのか、ぐるりと首を回して俺の顔を見るおっちゃん。
「てめぇ誰…な、まさか!?」
うん。この反応は当たりかな。俺の顔知ってるてことはそういう訓練の経験者だよね?
「人工英雄の失敗作はこうして王国に流すことで有効利用。流石帝国、無駄が無く合理的だね。」
「失敗…!?失敗だと…!?」
俺の言葉に激高し、ナイフを投げつけてくるスイートビ君。当然障壁で弾くので俺は無傷。なんだ、ちょっと拍子抜けだ。ガトー君はバリアを拳骨で振りぬいたのに。
「成功した人工英雄もこれぐらい貧弱だと…いや、ありえんか。」
英雄だしね。相手が無能であることを前提に話を進めるのは愚策か。
「うるせぇ!てめぇも帝国もふざけやがって!!俺はどこも」
「ローズ??」
「お薬どーぞ!!!」
殺意マシマシで俺のことしか見ていなかったスイートビ君は、ローズの背中からの不意打ちをあっさり許し、首元に注射を刺される。
「お前ら。。。。何を。。。」
「『カタレプシーちゃんver3.11』。影長のお気に入りの薬だよ。」
なお、効果は無動化作用に意欲障害。影長が気に入る訳だ。
「加えて、『眠れ』。これで良し、と。」
「うぅぅぅぅぅぅぅ。。。。。」
こうしてあっけなく。バルビツールのボス、スイートビ君は確保。
ケタミン君によると他の幹部も仕留めたそうな。
めでたしめでたし。
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