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弟が優秀すぎるから王国が滅ぶ  作者: 今井米 
末っ子は甘えんぼ
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第1話 この章に

王都の裏道を歩きながら、俺はローズを連れて目的の店へ歩く。出店から仄かに感じる肉の匂い。香ばしい肉汁が鼻腔をくすぐり、それを一口頬張りながら前へ、横へ。目的地へと向かって行く。


「ふんふんふーん。」


「随分機嫌がいいすねスリー様。」


「ああ、勿論さ。今はお前の不敬極まりない言葉遣いも気にならないぐらいだよ。」


「はぁ。。。。」


俺の名前はスリー。王国という国の王子様さ。


そんな俺は今朝、大親友のケタミン君から呼び出された。何でも面白い子を拾ったんだとか。こういう理由でケタミン君が俺を呼びつけるなんて珍しい。きっとそれだけ面白いものなのだろう。


ウキウキのあまり昨晩は碌に眠れなかったぐらいだ。


「ねぇねぇ、ローズ。どれだけ面白い子なのだと思う?角とか翼とか生えているかな?口から火とか雷とか吹いて欲しいよね。」


「…悪魔かなんかの話すか?」


「失礼だねお前は。そんなこと本人達に言うなよ?傷付いちゃうから。」


「いや絶対スリー様の方が失礼っす。」


うーん、相変わらず失礼な奴だね。

けどいいんだ。今日の俺は溢れる浪漫のお陰で全てを許容する神の如き慈愛心を身に着けている。ローズの言葉ぐらいで揺らぎはしない。


「いやー、楽しみだな‥‥おっと」


「きゃ!‥あ、ごめんなさい!」


正面から向かってきた少女をあえて避けずにそのままぶつかってみた。白い髪が印象的な華奢な女の子が申し訳ないと言わんばかりに頭を下げる。


「気にしなくていいよ。こっちも前を見ずに不注意だった。怪我はないかい?」


「ええ、大丈夫です。本当にごめんなさい。ほら、リンリン、急いで!!」


張り詰めた表情を浮かべながら立ち去ろうとする少女は、その手にしっかりと幼い子の手を握っていた。いた、と過去形なのは、俺とぶつかった拍子にその子と手が離れてしまったから。


彼女の妹だろうか。よく見れば目元が似ているような気が…やっぱわかんね。でも妹だろうね。そんな感じがするよ。


「リンリン、ほら急いで!」


「はぁ、はぁ、はぁ。。待ってよお姉ちゃん!」


「何言っているの!!早く私の手を掴んで!!」


「脚が痛いよ…。」


「そんなこと言っている場合じゃないでしょ!!」


やっぱり姉妹か。そんなことを思いながら俺は二人を見る。

二人は裸足で走ったからか、血がにじみ出ている。よくみれば硝子や小石が足に刺さっている。こういう理由から、貧しくても裸足でいる子なんて稀なんだけどな。


うーん、どう見ても厄介事の匂いしかしない。

‥‥スルーだな。


「気を付けなよ~。」


「本当にごめんなさい!!ほらリンリン!早く!!急いで!!!」


「う、うん。」


両目に涙を浮かべながらも姉の手に引っ張られる妹ちゃん。息も絶え絶えだが、それ以上に何かから逃げようとばかりに必死の形相を浮かべている。


「いやー、この路地裏を裸足で走破するなんてチャレンジングな少女達だね。」


「‥‥良かったんすか?」


「何が?」


「はっあぁ~~~~。」


呆れたと言わんばかりの露骨な溜息と表情。ほんとに、不満な感情を隠そうともしないその顔には感動を覚えるよ。


「今の溜息かなり失礼だからね。」


「今の二人、どう見ても厄介事に巻き込まれてましたっすよね?」


すげえ、王族の発言にシカトとか勇者だわ。影長の中での王族への敬意っていうのは彼等の教育課程からは切り離されていることがよくわかる。ローズの俺への敬意がゼロだもん。


「…王子?」


「…ん?あ、ああ。そうだね。厄介事に巻き込まれていたんだろうね。」


「じゃあ何で助けないのですか?」


「あんなに必死に逃げようとしている子達に声を変えても却って怖がらせるだけさ。こういう時は満足するまで走らせてからに限るでしょ。」


「はぁ。。。。」


俺の言葉にローズは未だ納得いっていないようだ。それもそうだわ。


だって面倒臭かっただけだもん。


普通、余程のことが無い限りあそこまで取り乱したりしない。ましてや子供の姉妹だけで逃げているなんて、一刻も早く保護すべき事案だろう。


でもさ、そんなの煩わしいよね。手間もかかるし。俺にだって先約があるんだ。約束を優先するのが人として当然のことだろ?


「約束を守る為、自分がしたいことを我慢する。人として当然のことだよね。」


「そんな理由であの娘達には救いの手が差し伸べられなかったと。」


凄く悪意のある言い方だ。それではまるで俺が外道のようじゃないか。断固抗議すべく俺が再び口を開こうとした瞬間、ドタバタと騒がしい足音が。音の大きさ的に…8人ちょっとかな?


ローズも気が付いたらしく、懐から短剣を取り出し物陰に潜んでいる。奇襲を成功させるためだろうね。数で劣る分妥当な手だ。


俺を守る気が一切無い配置はどうかと思うけど。


「見つけたか!?」


「いません!もう番所に向かったのでは!?」


「くそ!!」


ローズが配置についた丁度その時、厳つい顔の兄ちゃんとおっちゃん達が出てきた。顔の傷から明らかに堅気の人じゃない。俺みたいな平和主義者としては関わり合いたくないよ。


「急いで人回せ!何が何でもあの餓鬼二人は捕まえろ!」


「「うす!!」」


「‥‥。」


で、そのおっちゃん達はガッツリ俺を見ているんだよね。怖いな。今にも話しかけられそうで勘弁してほしい。


「おい、お前達!!」


ホラ来た。


「‥‥なんでしょう?」


「ここらへんで裸足のガキを見なかったか!!」


「天地神明に誓って見てません。」


「隠し立てして良い事なんかねぇ…て王子?」


「え?」


まるで俺の知り合いであると言わんばかりの態度のおっちゃん。

でも誰だこいつ。こんな奴知り合いにいないぞ。


…あ、思い出した。


「ケタミン君じゃないか。」


「…お世話になっておりますスリー王子。」


俺が3年前くらいに仲良くなったケタミン。俺の大親友だ。


「久しぶりだね。何してんのこんなところで?」


「…お久しぶりです王子。王子こそどうしてここに?」


質問を質問で返すな。でも俺は優しいから答えてあげる。


「面白い子いるよって呼んだの君達だよね?」


「あ…うす!!」


さてはこいつ忘れてたな。楽しみにしてたのに。


俺の様子を見て危険は無いと判断したのか、ローズは物陰から姿を現した。


「王子、知り合いですか?」


「ああ、紹介するよローズ。彼は『ジアゼパム』ファミリーのボスであるケタミン。俺の古い知り合いで大親友さ。」


「王子がギャングと仲良しだなんて…」


「人を職業で差別したら駄目だよローズ。その言い方だまるでギャングは悪人みたいな言い方じゃないか。人の価値は職種じゃなくて心で決まるのさ。」


「じゃあこの人達は良い人なんすか?」


「そんなわけないじゃん。姉妹拉致した挙句それを王子に売ろうとした屑だよ。」


「なんなんすかアンタ。」


「王子だよ。」


言わなくても分かると思うけど、売ろうとしたのはさっき俺とぶつかった姉妹ね。恐らくこいつらは、あの姉妹には何か珍しいことがあったから俺に見せようとしたんだろう。それであわよくば高値で王子に売りつけようって算段だったのだろうね。


ひっどい人間もいたものだね。俺の友達はそんなのばっかりで辟易してしまうよ。

でもジアゼパムファミリーの方々は俺の台詞に不満らしい。


「彼女達は、俺達のシマで勝手していた人身売買組織の商品です。」


「人身売買?それて最近騎士団に潰されたとこの支店?」


「ええ、そうです。こいつら、本家がゴタゴタしている内に離脱したクチですよ。」


「ふーん。そうやって逃れた組織もあるのか。」


後で騎士団に伝えておこう。

俺が感心したと思ったのか、そのまま早口でしゃべり続けるケタミン君。ずっと俺の眼を見てきてる。照れるぜ。


「こいつらは、最近ここらで荒稼ぎしていた連中なんです。そこに捕まっていた二人は逃走した後、すぐ傍にいたウチの組員に助けを求めたそうで。余談ですが、彼女達のお陰で組織の存在を知り、俺達はつい先日そこを潰しました。」


「それでその組織の壊滅ついでに二人を含む商品を拿捕したと。」


うーん、判定微妙…いやアウトだわ。売り手がその組織から此奴らになったってだけだもんね。やっていること身売り組織と一緒だもん。


それでもジアゼパムファミリーはまだ俺の言葉に物申したいことがあるらしい。不満げな顔を崩さない。


「なにさ?」


「‥‥逃げてきたから保護していただけです。」


つまり自分達は正義の味方の如き行為を働いたと‥‥嘘吐けよ。


「本気でそれ言っている?」


画から餅が出てきたって言っているのと同じくらい荒唐無稽な話だよ。けれどジアゼパムファミリーはそれでも自分達の行為を正義だと言い張るつもりのよう。


「…本当です。」


「ふ~~ん。」


ジーと見れば、本気でそう思っている奴らが少々。正気かこいつ等?

それとも最近『悪い奴に見えて実は良い奴』キャラが人気だから自分達もその恩恵にあやかれるとでも思ってるのかな。



「じゃあ何?女の子二人が教会でも騎士でも憲兵でもなくマフィアに身を寄せようとしたと?自主的に?ありえないでしょ。」


マフィアなんて薬と女売って稼いでるロクデナシどもだ。そんなの赤子でも知っている。そんな常識の壁をぶち破って少女達はマフィアの傍にいたいと思ったと?


やっぱりありえない。


「それに保護していたのに逃げられたのかい?なんでさ?」


「それは‥‥。」


一斉に下を向くファミリーの人々。


「スリー様、そんな残酷なこといっちゃだめっすよ。」


「ローズ?」


「姉妹はジアゼパムファミリーを信用していたけど、冷静になって気付いただけっすよ。『あ、こいつら私達を商品にしようとしてるな』って。」


「‥‥つまり?」


「だから始めは『ジアゼパムファミリーが保護してくれる』と思っていたけど、途中でマフィアも人身売買組織も一緒だってことを姉妹は思いだしたんすよ。」


驚きだ…ローズが俺の話についてこれたなんて。阿呆な子なんて思ってごめんよ。


と、思考がずれたな。


つまり、あの二人は脱走した瞬間は藁にも縋る想いで掴んだマフィアの助けなんだろうけど、本当は藁なんかよりしっかりした舟の方が良いよねって話だ。


「面白い推理だねローズ。」


「推理も何も自明じゃないすか。最初は選択肢が無かったからマフィアに助けを求めたけど、誰だってマフィアなんて大っ嫌いですよ。」


「お、おう。」


「それに、明らかに裏の人間から『安心してね~』なんて言われてもこれっぽちも安心できませんよ。夜中に売られるか犯られるかの二択だと思うに決まってるじゃないっすか。」


ローズの言葉に深く傷ついてる大の男が数人いる説得力は抜群だ。そうだよね。マフィアなんか嫌だよね。


「それにジアゼパムファミリーと言えば違法人身売買の巣窟で評判すよ?そりゃあ逃げるっす。」


「君達?そんなことしてたの?というかそんな評判でよくあんな言い訳思いつくね。」


知らなかった。俺は思わず大親友の顔を見る。慌てて何か言おうとしているがもう遅い。信じていたのに裏切られた気分だ。


「してませんよ!?ウチで扱う奴隷は100%合法です!犯罪奴隷と身売りの二種類で堅実に稼いでます!」


「ほら、奴隷商売を堅実とか言っている時点で終わってるっす。」


「うぐ。」


「こういう連中はずっと下町で根を張って子供を食い物にしてきた奴らっす。そんなの幼児でも知ってるっすよ。」


珍しく正論で急所を抉ってるローズだが、そうか。ローズも下町出身だったな。

だからこういうマフィアへの嫌悪感はしっかり心に残っている訳ね。


「なるほどね。それであの姉妹は裸足でありながらも死に物狂いで逃亡していたと。」


「王子!?誓って我々はそんなことしていません!!」


「勿論、俺は君達を信じるよ。親友、いや大親友だからね。」


「いえ、王子と大親友はちょっと…。」


おい。ローズも『だからあの時姉妹を引き留めれば良かったんだよ』みたいな顔しないで。俺泣いちゃうよ?


「まぁ、ともかく今はその姉妹を探そうか。」


そうすればこいつらが本当に人身売買してたのか分かるしね。


「追えますか?無理じゃないですか?」


ローズが白けた目を向けてくる。


「おいおい、どんな時も可能性は無限大だよ。」


「大分遠くに逃げたっすよ。どーでもいいことで駄べっていたせいで、時間も無駄に消費しましたし。」


「大丈夫。さっきぶつかった時に発信札付けたから。」


発信札とは、雷属性の魔術式と無属性の魔術式を組み合わせた情報通信装置。受信盤と対になっており、発信札の位置情報を送信する魔道具。


だからこそ、手元にある受信盤を見れば位置は丸わかりってね。


「じゃあ行こうか!!受信盤を見る限り彼女達はあっち‥‥て何さ君達その顔は。」


見ればケタミン君やローズがドン引きした表情で俺を見ている。何だよこいつ等。時間は有限だっていうのに、テキパキ動こうよ。


「見ず知らずの少女に発信札を付けるて…悪魔か何かすか?」


「流石王子です。」


「よせよ。そんなに褒めると照れちゃうじゃないか。」


ベタ誉め。なんていいやつなんだ。やっぱりケタミン君は俺の大親友だね。

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