第2話 ローズ
王国には、5人の息子娘がいる。長男であるワーン第一王子。長女であるツー第二王子。次男であるスリー第三王子に、同腹の妹フォー第四王子。そして踊り子の子供ファイーブ第五王子。
今は王位継承を掛けた争いの真っ最中。
王国にとっては憂慮すべき事態だが、他国からすれば最高な状態。なにせ自分らから内乱に足つっこんでくれるんだ。これに乗じて王国を潰したいっていう国が多いこと多い事。
「ここまでは何度も言ったよね?」
「ギブ。。ギブっす王子。」
逆海老固めを決めながらローズに話してやると、許しを懇願する返事が返ってきた。降参の意を示すように地面をバンバンと叩いているが、無視。こんな舐めた質問する奴に慈悲は無い。
「痛い。。。これガチな痛いやつすよ。。」
「俺はね、やっぱり人って分かり合えると思うんだよね。でもそのためにはさ、礼儀を大事にしないと。」
「この場面で言う事っすかそれ!?」
「この場面だからこそだよ。…一応俺王子だからね?言葉遣いには気を付けなよ?」
「うっす!分かったす!分かったすから王子!!腰折れるっす!!」
ちゃんと折れない程度の手加減はしているんだがな。。。
手を放してやると虫のようにカサカサ腕を動かして、すごい勢いで距離を取るローズ虫。眼に涙を浮かべている所を見るに、よっぽど痛かったのだろうか。それを見て流石にやりすぎたかと俺は反省…はしない。でも一応言葉はかけておく。
「たく、気を付けないと他の貴族ならお前を輪切りしてるからな?」
これはマジ。貴族の中には自尊心が小山より肥大化した屑がいるから、言葉には気を付けないといけない。
「はい。。。。」
ローズも自分のしたことの重大性が分かったのか神妙に頷く。
「で、何回まで許されるんですか?仏の顔みたく三回までセーフなんすかね?」
「一発でアウトだよお馬鹿。」
訂正。やっぱりこいつ何も分かってないわ。
「そんな!幾らなんでも一回で輪切りて非人道的じゃないすか!?」
「人道的な人間はそもそも人を輪切りにしねえのよ。だから非人道的な一発アウトが適用されるの。」
「成程。」
成程じゃねえよ。もうマジでこいつヤダ。
「‥‥賢くなって良かったね。それで、さっきまでの話の流れは分かったね?」
「うす、国を狙う人間が多いってことすよね。。。」
「そう。で、それを国から守るのが影のお仕事。その為に影は存在するわけ。」
ここらへんは俺だって本当かどうかは知らない。影がそうやってドヤってくるけどその割には襲撃者が多い気がするし、そもそも人知れずに始末してるらしいから事実確認ができるわけないんだよね。
でも本当に仕事してんのかよとか言ったら殴られるから言っちゃ駄目よ。ちな実体験。理不尽だわ。
「でも何で王子がそれを担うんですか?王子って影なんですか?」
「そんなわけないでしょ。俺は影長から影を率いる権限を一部譲渡されているから、こういう風に工作員の排除を任されている訳。」
「それってもしかしなくても。。。」
パシられているね。
けどそれで文句言ったら次の日には頭と胴がセパレートしてるから言えねえ。理不尽すぎる。アイツ等って王家への忠誠心の捧げ方が独特で、凡人の俺には理解できないんだよね。
「それでお前はさ、俺の新側近もしくはフォーの駒として動く為にここにいるわけだよ。」
「そっすね。」
「だからお前にもこういう仕事を任されると思うよって何度も言ったよね?なのにお前なんでそんなに使えないの?ねえなんで?何でお前そんなに使えないの?木偶の坊すぎるでしょ?」
「仕方ないじゃないっすか!!見るからにヤバそうな敵ばっかいるっすよ!戦闘経験一回の素人である私ですら格の違いが分かる敵って、勝てる訳ないじゃないっすか!」
「別にお前の勝ち負けなんてどうでもいいの!!俺を置いて逃げるなって話!お前の存在価値は肉壁以上のことをすることなの!ましてや俺に守られるなんて論外だぞ!?」
プリンスは守られるべき対象であって、守る側じゃないんだよ!!
さっきも言ったがローズは使えない。弱いし、隠密も下手だし、どんくさいし、ヘタレだし、全てにおいて俺より下。ここにいる意味が無い。
いや、俺だってこんなこと言いたくないよ?どんな人間にも可能性を見出し輝く道があるって思うのが俺のポリシーだ。
でも、ローズはさぁ。。。
もうさぁ。。
「向いてないよなぁお前。。。」
「知ってるっすよぉ。。。」
ローズはフォーを狙った元暗殺者だ。洗脳兵の途中の半端な状態で出勤させられちゃったのだが、それのお陰でいい加減に脳のネジが緩い少女になっちまった。
いや、言い訳は良くないな、うん。これはそういうの関係無しに阿呆だ。天然で阿呆なんだよ。
その天然な阿呆娘はいつまでたっても俺に敬語使わねえしよぉ。。
・・・しかもまた泣いているし。
「うう、そもそも何でわたしがこんな目に。」
「仕方が無いだろ。あんな組織に入っていたんだから。」
「私だってあんな目に遭うとは思ってなかったす。」
ローズが所属していた組織はエナンチオマー侯爵っていう大貴族が所有していた暗殺組織だ。なんでもツー姉上を高く評価している変態貴族だったらしく、その組織も姉上の邪魔者を排除するための組織だったらしい。
で、その暗殺者の駒を貧民街から補充するっていうのは良かったんだが、その教育方法がな。。。
自分の教条を洗脳で叩きこむっていうカルト方式だったんだ。
これは完成すれば強力なんだが、素人が一ヶ月かそこらで完成できるものではなく。ローズは半端な洗脳を受けたままで解放されたわけ。
そのお陰で人間として正常なのだが、兵隊としては未熟もいいところ。
あ、貴族サマと組織?
フォーがぶっ潰したよ。
閑話休題。
俺はあんな頓珍漢な組織にいたローズを見る。
「そもそもさ、お前あんな勧誘についていくなよ。。。」
「でも、言っている条件は優良そうだったんすよ。。」
弱々しい声で反論するローズだが、それはない。
「『高時給』『未経験者歓迎』『やるき重視』『笑顔の絶えない職場』だったよな?」
「そっすけど。」
どこの誰がどこから読んでも、労働基準法無視への片道切符ですハイ本当に有難うございました、というレベルの要項である。常識的に考えて、こんなむちゃくちゃな募集要項に応募してくる人間はいないだろう。
『未経験者』が『高時給』の職場が存在してたまるかよ。そんな弱っちい戦力しかない弱小企業が『経験者豊富』の企業に勝てるわけねえんだよ。
『やるき重視』で追いつくようなものじゃねえよ。
というか態々『笑顔の絶えない』と書いているのだって変だ。そんなのあって当たり前だろ?態々広告で誇るとこじゃない。
しかもそんな人材をスラムで勧誘する?
どうみても使い潰す気満々じゃねえか。
と思ったが言わないでおく。
「。。。。そっか。」
「なんでそんな暖かい目でみるんすか?ねえ何でですか?私なんか変なこと言いました!?」
・・・・やっぱりこいつ、阿呆の子なんだよね。
悪い奴じゃないから口に出しては言わないけどさ。
そう思いながら俺は、昨日読んだ小説を思い出す。確か…
「お前みたいな奴が、大体戦場で最初に死ぬんだよね。。。」
「ちょっと!?」
「いや別に他意はないんだ。心の底からそう思っただけだから。」
「余計悪いじゃないっすか!?」
「ははは、気にするなよ相棒。」
影の教育を叩きこむように依頼したし。いつかは使えるようになるでしょ。
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