第1話 兄
春から夏にかけて、夜明けの時間は早くなっていく。
今まで暗い所に陽があたり、影部が明らかになる。
・・・・みたいなことが今朝読んだ詩集に載ってた。
この作者確か教会直属の暗部なんだよなー。結構良いセンスの詩書くし、殺したくないなー。影長に送ろっかなー。
うーん、悩ましい。
そんなことを思いながら、朝食のローストチキンを齧る。うん、美味い。下町の香辛料の効いた味って病みつきになるよね。
コツコツ。
そんなことを思いながら外を見ていると、誰か来たな。足音がする。
音がする方向を見てみるときたのは上下ともに黒づくめの女性。幼い顔付きが未だ残っており、そしてよくよく顔を見れば、見知った顔。
「‥‥なんだ、ローズか。」
「なんだって何すか。」
そりゃあ…敵だと思って魔術放とうとしたっていうのは黙っておこう。
「…い、いや、今日も素晴らしくイカした服だなって思って。」
「・・・そうっすか?自分的には普通なんですけど。」
「いやいや、マジでいかしてるヨ。お洒落さんだね。」
「そ、そう?」
嘘に決まっているだろ。
何まんざらでもない顔してんだ。メイドに服のチョイス全任せしてる俺にファッションなんて分かる訳ないでしょ。言わんけど。
「‥うんうん、お洒落さんだ。それで?」
俺の言葉にビシッと敬礼を返すローズ。ちょっと阿呆っぽいはそれはご愛敬。彼女じゃ威厳が足りないんだね。
「報告っす。任務は終わりましたよ王子。捕虜はそこで縛って荷車に入れてるっす。口縄と、筋弛緩術を打ちましたので、二時間は何も出来ない筈っす。」
ローズが指さした木造の荷車の中を覗きながら俺は確認を続ける。今回の成果は10...20...27人か。結構多いな。
捕縛隊の腕が上がったと捉えるべきか。侵入者の数が増えたと考えるべきか。
…両方なんだろうね。
「ご苦労。全員捕まえれた?」
「不法入国分はっすね。こいつらどうするんすか?」
見れば、ローズは態々持って帰る意味が分からないと言った顔をしている。まぁ、処分した方が遥かに早いしコスパもいい。
「でもね、ローズ。時代はエコロジーなのさ。」
「はぁ。」
「鈍いなぁ、大切なのは使い捨てじゃなくてリサイクルってことなのに。命もポイ捨てするものでは無く、再利用する時代になったのさ。」
「…具体的には?」
「技術省と医務局が新鮮な肉体欲しいって言ってたからその提供。あ、けど影長達も素体を欲しがっていたし、幾らかは裏宮に運んでもらうよ。」
「了解っすよオジキ。」
オジキっていうな。俺まだ18歳よ。
今回捕まえたのは、王宮と王都でコソコソ裏工作をしていた帝国の手先。手先だけなら騎士団や近衛兵に任せるのだが、今回は大物が指揮しているってことで態々影も出動させられた。
確保は出来たものの、指導者は死亡。下っ端はスカスカの情報しか持っていない。建物にも被害が少々。
大成功とは言い難い。
つまりは全て帝国が悪い。俺の手際が悪い所為では決してない。
はぁ‥‥。いやマジで。今回は割と真面目に策を練って挑んだのにこの結果だよ‥。
「…流石に帝国はいい駒持っているよねー。硬いし速いし強いし、チートかよ。」
「その上、魔術行使範囲は広いしで捕まえるのに大分時間がかかったすねー。」
理想は捕縛。でも指導者ロロアーナを殺せただけでもラッキーだったのかもしれないな。ロロアーナは帝国の英雄候補。これでも帝国の10指に入らないなんて、万年人材不足の王国からすれば羨ましいね。
潜在魔力量ですら俺より上って。王子っていう血統価値が揺らぐから本気でやめて欲しい。同じ人間を区別するための客観的基準が意味無さなくなっちゃうよ。
そしてこんなのがゴロゴロいるなんて、やっぱり帝国とは事を構えたくないよ。
そう思っていると、阿呆面さげてローズが俺を見てくる。
「なに?」
「いや、王子って戦えるんすねーて思って。ロロピーナと互角に競り合っていたじゃないですか。私王子って護衛がいないと何もできない甘ちゃんだと思ってました。」
「お前王子だと分かっててその口調なの?もしかしてお馬鹿さんなのか?」
「失礼っすね!?自分不器用なだけっすよ!!」
不器用って言葉の意味求むよ。
聞いていて分かるように、俺は王子。物語でいう白馬に乗ったイケメン様だ。
王国の継承位第三位であるプリンスで、今一番外交関係で頑張っている。具体的に言えば工作員の始末。プリンスにそんな血みどろなことさせんなよな。
‥‥これ、本当は影長の仕事だったんだよね。でもアイツ等に頼んだら嫌だって言われたわけ。処分を頼んだらまさかお前が行けって言われるとかプリンスはびっくりしたよ。
どいつもこいつも王子を舐めすぎでは?
…まぁ従うけども。影長怖いし。
「にしても真面目な話、王子なのに腕っぷしも強いってどういうことっすか?」
この自称不器用人間の少女はローズ。
ローズはフォーを殺そうとした暗殺らしい。で、俺の手足として雇われろ、て言われて来たんだってさ。
最初それを聞かされた時は『は!?』てなったね。アイツは本当にそういうとこあるよね。普通自分を殺しに来た暗殺者を兄に送るかね?
けどフォーだもんね。変人のすることを予測するだけ無駄だ。
「おーい、聞いているっすか王子?」
「うん、聞いている聞いてる。今考えているから。」
それで実際にお送られたローズはあんまり役に立たない。まあ、影みたいに優秀な人間はホイホイ転がっているわけないけれど、まあ三流って感じ、暗殺者として成功しそうじゃない。
「やっぱりお前は向いてないよ。」
「私の話聞いてないじゃないっすか王子!!後何が向いていないっすか!?」
「煩いよ三流アサシンガール。俺は今考え事してんの。」
「誰が暗殺者ですか!!私だってそんなの成りたくなかったすよ!!」
三流については一切怒らないんだ。。。
マジで暗殺者らしくねえなこいつ。
「それより秘訣!強さの秘訣っすよ!」
しつこい。。。
「別に俺は強くないよ。血統のお陰で魔力量と身体能力がちょっと高いけど、ベテラン騎士には勝てないもの。」
王族って言う血のお陰で凡人より遥かに高い素養を持つ俺だが、訓練ガチ勢には流石に勝てない。生まれ持ったスペックの高さは鍛錬不足の新兵にしか通用しないんだよね。
「逆に言えばヒラ騎士には勝てるってことすか。。。」
「場所と条件によるけどね。」
「かぁー。王子様っすねえ。。。」
お前さっきと真逆の事言ってんぞ?
王子は何もできない甘ちゃんじゃなかったのか?
俺に対する態度から分かるように、ローズは貧民の孤児。平民はちゃんと貴族のヤバさを知っているからね。きちんと礼儀を尽くすんだ。でも貧民は雲上人たる貴族を噂程度にしか知らないから、敬語を使うって発想がないんだよね。
始めそれを知って頭が痛くなったけど、まあ表に出さなきゃいいやってことでそっち方面は諦めて教育している。いわば諦められた残念な子なんだ。
にしても。。。
俺はローズの顔を見る。別に特段優れたところがあるって訳でもない。ザ・普通の少女。腕っぷしも技術も才能も並より下。それに加えて教養も微妙。裏稼業の人間は数が少ないというが。。。
「それを鑑みても本当に残念だねえ。。。」
「なんで私見て言うんすか!?」
「そりゃあ、お前は残念だよなぁって。。。。。」
「殴るっすよ王子!?」
「そしたらお前の給料を減らすよ。」
「うっ。それは。。」
それで黙っちゃうのかよ。大物なのか小物なのか良く分からない子だよな。
「お、王子!!質問があるっす!!」
目をクルクル回しながら発言するローズを無視。。。おい泣くな。
…仕方が無いな。
「その露骨な話題逸らしに乗ってあげるけど、なに?」
質問が許可されて安心したのか、安堵の表情を浮かべながら少女は涙をぬぐう。
「なんで私はこっちに送られたんすか?」
「‥‥いい質問だね。」
さて…。この質問に答えるの何回目だっけか。
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