私を京都につれてって
どうやら宮内省図書寮に入って書物を見るためには色々手続きが必要らしく難しいようだ。しかも広瀬が言うには図書寮の物を勝手に持ち出すということは「朝敵」となりうることだという。
それは、いやだ。「朝敵」なんていやだ。
そもそも広瀬が宮内省図書寮にアカコを連れて行くのを拒否している。慣れない東京で一人で出かけるのは不安だ。恒子に頼んでも無理だろう。自称父・弥太郎は論外。アカコは弥太郎のことをいまだに好きになれなかった。
それにしても、何百年も前にアカコが書いた物が時を経て帝の持ち物になっているのだ。不思議な縁のようなものを感じる。
今上は御所様 (後深草院)の御子孫、ということなのだろうか?
「あの御所様の御子孫が、私の書いた物を持っている……え、なにそれ?……嬉しいかも」
アカコが憧れていた御所様の血が流れている帝が、アカコが書いた物を持っているとは感動的だ。
一瞬、舞い上がったが次の瞬間一気に萎えた。
「あの御所様の血が流れている帝が、私が作った恥ずかしい話を読むこともあり得るということか……」
しかし、宮内省図書寮から例の書を奪うなんてできない。なんてったって「朝敵」。
もう覚悟を決めて恥をかくべきか。後世までアカコの妄想話が語り継がれるということを受け入れるべきなのか。
「どうせ恥をかくなら、私の書いた物は御所様の御子孫に差し上げたと思って自分を慰めたい……」
と思ったのだが、今上陛下は御所様の直系の御子孫なのか?御所様の御兄弟の御子孫ということもありえる。
そういえば、アカコは昭和に至るまでの歴史を知らない。何百年もの時を飛ばされて東京に来たのだから。
なぜ、帝が都ではなく東京にお住まいなのかもその辺の事情もよくわかっていない。
アカコがかつて暮らしていた都は「京都府」と呼ばれているらしいことも、東京にある書物や弥太郎が読んでいる「新聞」からの情報で最近知ったのである。東京と京都は遠く離れているらしく、気軽に行けない。今すぐにでも生まれ故郷を見に行きたいのだが……
「いつか、広瀬さんに京都まで案内してもらおう」
宮内省図書寮に連れてってもらうのは無理でも京都なら広瀬もわかってくれるはず。
それまでにアカコが知らないこの国の何百年もの歴史を学んでおきたい。どうやって学ぼう。
頼りになるのはやっぱり……
「広瀬さんに聞いてみよう!」