第1話 初対面の少女は僕を嫌っている
興味を持って頂きありがとうございます。
楽しんで貰えたら嬉しいですね。
「恵まれない子供達の為に募金の協力お願いします!」
色んな人が行き交う商店街で元気よく声を出すが予想通り反応は薄い。
笑顔で振る舞うが様子を伺うだけで募金はまったく集まらなかった。
原因は僕の顔の傷なのかも知れない。
僕の右の頬には交通事故で負った大きな切り傷がある。
大人からは同情の視線、同年代からは好奇の視線、幼い子供は僕の顔を見るなり顔を背けて怖がっていた。学校でも多くの生徒から距離を置かれている。ただ、避けられるのは慣れているので気にはしない。
「頑張っても無駄でしょ? 馬鹿みたいに真面目に叫んじゃって……笑える」
隣に立つ制服姿の鬼龍院さんは四角い募金箱を胸に抱えていた。気だるそうに身体を傾けている。僕とは違いやる気はゼロに近い様子だ。
彼女は僕と違うクラスメイトだ。この募金活動には半強制的に参加させられているらしく会った時から不機嫌だった。
そもそもなぜ募金活動をしているかと言えば、学校の活動の一環で募金活動の人員を集めようとしたのだが誰も集まらなかったからだ。困った教師たちは仕方なく各クラスから一名ずつ選んだ。僕は立候補したのだが鬼龍院さんは休んでいる間に勝手に決められていたらしい。
黒い前髪で瞳を隠す鬼龍院さんは問題児だと学校では有名だ。僕はあまり知らないのだけれど中学時代に暴力事件を起こしたという噂がある。どうやら複雑なお年頃ならしい。
僕とペアを組んだのは偶然だった。
鬼龍院さんは僕から少し離れた場所で不機嫌そうに立っているだけだった。積極的じゃないのは分かるけれども来たのなら少しは頑張って欲しいなと思う。もちろん言葉にはしないけれども。
「無駄なのかな? 少しでも誰かの役に立つのなら無駄じゃないと僕は思うけれど?」
「あんたの馬鹿さ加減は有名だもんね。こんな面倒くさい事を自分から進んでやるなんてあんたぐらいよ」
「えっと……さっきから馬鹿って言い過ぎなのでは?」
「そもそも向いていない。だってそうでしょ? 大きな傷がある顔の男なんて誰も近づかないわよ。怖い見た目している癖に一生懸命に頑張ってますアピールが正直鬱陶しい」
高校に入学して三か月経つが鬼龍院さんとは違うクラスなので話した事が無い。
早い段階で意外と卑屈な子なのだと新しい一面を知ってしまった。ただ、文句を言いつつも僕より早く集合場所に集まって参加していた。
言葉に棘が多いけれど責任感が強い子なのだろうか。
「僕って鬱陶しいかな?」
「見ていて腹が立つわ。偽善者の代表みたいな鬱陶しさね」
少し言葉に詰まる。何でここまで酷い事を言われるのか分からない。今日初めて話したのに遠慮が無さ過ぎるのですが? 僕は鬼龍院さんを怒らせるような事をしたのだろうか? うーん。分からない。
少し考えてみるが僕は別に悪い事をしていないはずだった。
もしかして体調が悪くて機嫌が悪いのだろか。なら募金活動は僕一人でも構わないのだけれど。
僕は鬼龍院さんに一人で募金活動するから帰ってもいいよと提案した。しかし鬼龍院さんは僕の提案を無視する。そしてさらに不機嫌となった。
態度は悪いけれどやる気はあるのだろうか。どうやらとても難しい性格らしい。
機嫌を取るのを諦めた僕は鬼龍院さんを怒らせないように注意しながら募金を呼び掛ける。
すると見知った人が少女の手を引いて笑顔で近づいてきた。
「元気にやってるな流星!」
「おじさん! 来てくれたのですか!? 美羽ちゃんもありがとう!」
以前、道で美羽ちゃんが怪我をしているのを見つけて助けたのをきっかけに仲良くなった親子だ。最初は僕の見た目を怖がっていた美羽ちゃんが笑顔で抱き着いてくる。しゃがんだ僕は優しく抱きしめ返した。
そして美羽ちゃんの小さな手から募金してもらう。僕は頭を下げて「ご協力ありがとうございます!」というと美羽ちゃんは嬉しそうに見上げてきた。すると他にも地元のおじいちゃんやおばぁちゃんが様子を見に来てくれた。僕が募金活動をしていると誰かが連絡したのだろう。
「人気があるね……何だか腹が立つわ」
「人気があればもっと募金が集まっているよ。あの親子やおじいちゃん達は少しのきっかけで仲良くなっただけだよ。でも忙しいのにわざわざ来てくれるなんて嬉しいな」
僕は幼い子供を助けたのがきっかけだと簡潔に説明した。
すると鬼龍院さんは前髪の隙間から僕を睨み上げた。
「何で他人にそこまで優しく出来るか理解出来ない。他人は所詮他人。どうせ裏切るに決まっている。本当に……みんな死ねばいいのに……」
「言葉が強いね……どうだろう? 裏切るかどうかは分からなくないかな?」
「……気持ち悪い。本当にあんたみたいな奴は嫌い」
今日、初めてまともに会話したのに逆告白をされてしまった。僕としては別に鬼龍院さんに好かれる為に誰かを助けている訳でもない。自分の意思で動いているだけだ。
「えっと……僕は困っている人を見過ごせない性格なんだよね。死んだ母さんからも人に優しくすれば自分に返ってくるって教わったから。僕を疎ましく思う人もいるのは分かっているけれど曲げたくないんだ」
「馬鹿すぎ。将来絶対に痛い目に合う。少しは自分の行いを考え直しなさい」
「未来の事は分からないけど後悔だけはしたくないんだ……とにかく今はたくさんの人に募金してもらいたいなしか考えていないかな?」
「気持ち悪い笑顔を向けないで。吐き気がする」
「えぇ……」
僕が何を言っても批判が返ってくる。どうやら鬼龍院さんは僕を本当に嫌いな様子だ。会話が終わっても隣から睨まれるのは居心地が悪かった。悪意ある視線には慣れているけれど鬼龍院さんの視線は特別に感じてしまう。
嫌なら無理せずに帰ってくれても構わない。ただ、頑張って学校行事に参加しているのだとすれば無下にするのも申し訳ない。
可能性は低いかもだけれど鬼龍院さんの言葉や態度とは裏腹にやる気があった場合に失礼になる。
待てよ。そうだ。僕以外の人の所へ行ってもらえばいいじゃないか。
僕は遠慮がちに鬼龍院さんに提案するが「指図しないで」と舌打ちされた。
これはあれだ。今のままでは僕と鬼龍院さんとは仲良く出来ないらしい。別に僕は鬼龍院さんを嫌っていない。同じ学年だし仲良く出来るなら仲良くしたい。
どうすればいいかなと考えていると背後から気配を感じた。
「こんな人気の多い場所で女とイチャイチャとは……青春かコノヤロー」
振り返ると白いワンピースを着た少女がアイスを舐めながら僕達を見上げていた。




