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1話 旅立ち

『死』が私に迫っているのを感じる。

 

 身体中を殴られて痛くてたまらない。

 

 池に投げ入れられて、水から上がろうとしたら頭を足で押さえつけられた。もがいて暴れるけど、満足に息も出来ない。


 池の水が冷たくて体がうまく動かなくなってきた。


 本当に死んじゃう。


「助かりたいか?ああん?だったら助けてくださいって言わなきゃなぁ?自分の無能さを認めて敗北宣言しろや。そしたら飽きるまで楽しんで売り払うまで生かしといてやるよ!ぎゃはははは!」

 

 私を足蹴にするのは賞金首の犯罪者だ。

 屈辱的なことを言われて悔しいのにこの状態じゃ言い返すことも満足に出来ない。

 

 痛い、苦しい、もう体が……動かない。


 池に……沈んでしまう。

 

 走馬灯のように思い出すのはここ半年のこと。

 何も出来ず、バカにされ続けた無力な自分のこと。


 何も変えられず、騙され、搾取され、裏切られ、守るべき人たちを苦しくさせるだけだった。

 そんな無力感に苛まれ続けた記憶。

 

 私…死ぬのかな?何もできないままで…。怖い……悔しい…。まだ死ねないの……誰か……助けて……。


 ………………

 ドカッ

 …………

 ……ぉ様

 

 もうダメかと思ったその直後、誰かの声が聞こえて私は手を掴まれて水から引き上げられた。


「ゲホ!ゲホ!」

「大丈夫ですかお嬢様!?。って大丈夫じゃないですよね」


 優しい声。私を引き上げてくれたのは私を池に蹴り落とした賞金首の男じゃなかった。

 何が起きたのかわからないけど、そのクソ野郎は少し離れたところで倒れていた。

 

「……イ、アック?」

「はい。イアックです」


 こいつは《イアック》。昨日突然領地にやってきて、私の家で仮で雇われている使用人。

 

 昨日も今日も、私はこいつに酷いことしか言ってない。父を救ってくれた大恩人なのに、私はこっちの都合で追い出そうとしてただけ。


「助けに来ましたよ」

 

 そう言えば……こいつ1人だけ、私をバカにしなかったっけ。イアックだけは私の頑張りをすごいって言ってくれた。

 私は卑屈になっちゃって素直にその言葉を受け取れなかったけど。


「間に合ってよかった。間一髪でした」


 こいつは《神の園》から来たなんて誰でもすぐわかる嘘をつくようなやつだ。

 でも顔を見れば私を真剣に心配してくれていたのがわかる。


「1人で森の奥へ向かったって聞いた時は焦りましたよ」

 

 どうやってここまできたのか、何できてくれたのか、色々聞きたいことがが頭に浮かんで来たけど


「もう大丈夫です」


 優しく微笑む彼を見て、私は何も言えなくなってしまった。

 

 ――――――――――――――――――――――――


 ⭐︎事件の少し前

 

「おーいシド~もうそろそろ行くよー!」

「ほんとに大丈夫なのよね……?」


 俺は空を見上げる。雲ひとつない気持ちのいい青空が広がっていた。旅立ちには最高の日だ。

 今日、俺は18年間暮らした離島から脱出して広い世界を見に行く。


「なんだよシド、まだビビってるの?」

「べ、別にビビってないわよ!?」

「そんなへっぴり腰で何言ってんだか……」

「バカ!あんたこんなの誰でもビビるわよ!イアックの考えた《神の園》からの脱出方法がイカれすぎなのよ」


 《イアック》と言うのは俺のことだ。

 ちなみにこのひたすらビビり倒してる筋骨隆々の大男は《シド》。何故か口調だけ女性風だ。何故そんな風にしてるのかは謎。

 

 俺の育ったこの離島のことを島の外では《神の園》と呼ばれているらしい。

 

 肉眼で島の存在は確認できているのに凶悪な水性生物がウヨウヨいるため船では近寄ることもできない。

 見えているのに行くことができない御伽話の島。


 神がいる島、《神の園》。

 

 実際にはただの魔物がたくさんいるだけの広い島だ。神様なんていない。

 御伽話は御伽話だ。誰も見たことないから想像が膨らんで色々言われてるだけで実際はこんなもんだ。

 

 でもそれも無理からぬこと。島の周囲は一周ぐるりと神の金属、《オリハルコン》でできた高い壁に囲まれているんだから。そんな摩訶不思議な場所には神がいるって思っちゃうよな。


 俺は神の園の真相も知ってるけど……ずいぶん昔の話だからもういいだろう。今のこの島は役目を果たしたただの島だ。


 俺たちは今日ここを出る。御伽話では神の園からは出れないと言われているけど、脱出してみせる。

 

 船がダメなら……空から行けばいいんだ。

 

「本当に来た…。マジで《神鳥レガ》の群れ…。懐かれてるってのは嘘じゃなかったのね」

「当たり前だろ。あの1番大きいのが《アオコ》。俺の友達なんだ。群れのボスなんだぞ」

 

 脱出不可能な神の園からの脱出方法、それは鳥に連れて行ってもらうというものだ。

 

 実は神の園には外の大陸から繁殖のために青い鳥がやってくる。オリハルコンの壁に1箇所だけ空いていた穴から出入りしているのだ。

 

 壁の穴周辺は魔物がおらず、安心して雛を育てられるのだろう。そしてある程度雛が大きくなったらまた飛び去っていく。

 今日は群れが飛び立つ日。俺たちはアオコに頼んで一緒に連れて行ってもらおうとしている。


「ピィ!」

「よろしくなアオコ」

 

 この鳥に頼んで空を飛ぶというのは死んだじいちゃん――《シゲ爺》が話してくれた英雄譚に鬼の少年がカラスという鳥に運ばれて空を飛ぶ話がある。そこから着想を得た方法だ。


「神鳥レガが人に懐くなんて聞いたことないわよ…」


 シドは半年前に島の外から来た。

 本人曰く、殺されかけて海に落ち、気がついたら神の園にある唯一の浜辺に流れ着いたらしい。

 

 俺はここで生まれたから外のことはよく分からないけど、俺の両親も海に落ちて気づいたらここにいたらしいから、多分解明されてないだけでここに来る何らかの方法があるんだろうな。

 

 俺はブランコ状にした板をアオコ達の足にヒモを結びつける。


「よし、こっちの準備は完了だ。出発しよう。シド、荷物は最低限にしてくれよ。あんまり重いとアオコ達が途中で疲れちゃうからね」


「分かったわ。もうほぼ全裸で行くわ」


「それはやめてキモい」


 ビビり散らして錯乱してるシドを何とかブランコに乗せてアオコにお願いする。


「アオコ!よろしく頼む!」


 ピー!という声をあげてアオコ達が飛び立つ。俺たち2人を乗せていても問題なく飛べるようだ。


 いよいよ旅立ちの時だ。18年過ごした神の園を離れるのは何とも言えない気持ちになるな。


 一度外に出ればそう簡単には戻ってこれないだろう。

 今でこそ俺しかいないけど、ここには俺を育ててくれたみんなが眠っている。


「父さん、母さん、シゲ爺、婆ちゃん、姉ちゃん、またいつかきっと墓の掃除に来るよ。それじゃあ、行ってきます!」


 心の中で死に別れた家族たちへ挨拶をする。そしていつかまたみんなに元気な顔を見せに来ると誓った。

 

 アオコたちは勢い良く神の園から飛び立つ。

 

「ビビってないビビってないビビってない・・・」


 シドがボソボソと何か言っているが俺は全く気にしない。どうでもいいし。

 それに初めて神の園から飛び出した俺は興奮でそれどころではなかった。壁の外から見る、遮るもののない空に感動していたから。


「……楽しそうねイアック。そういえば聞いたことなかったけど外の世界で何かしたいこととかあるの?あるなら協力するわよ」


「え?」


 不意にシドに聞かれて俺は考える。そう言えばシドには話したことなかったかもしれない。実はどうしても外の世界でやりたいことがある。


「外の世界を色々見てまわりたい!」

「それはそうでしょうね」


「友達が欲しい!」

「大丈夫、あんたならすぐできるわ」


「商売がしてみたい!」

「あんたを育ててくれた人たちって元商人ばっかりだものね。商売をやりたくなるのも当然かもね」


「でも何よりも願うのは」

 

 今まで読んできた数々の英雄譚、結末は究極の幸せを掴んで終わりと大体決まっていた。


「最高のお嫁さんを見つけたい!」


 《究極の幸せ》それは自分だけの最高の女性と結婚して、面白おかしく共に人生を歩んでいくこと。


「あはは!それとっても素敵じゃない!全力で協力するわよ」


 世界は広いらしい。それならきっとどこかに俺の運命の人が待っているはずだ。

お読みいただきありがとうございます。


本日より投稿を始めました。

毎朝6時更新で進めていく予定です。


初投稿ということもあり手探りですが、

少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。


よろしければ、また続きを読みに来ていただけると嬉しいです。

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