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夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 夏の日記
60/69

第35話「午後の余白と朝の定番」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年7月5日(土)


室内の温度、湿度、明るさ、空気の状態はすべて正常。寝室のドアが開く音を感知。ご主人様、起床。

歩き方や視線の動きから見て、昨夜の飲酒の影響はほとんどなし。

「おはようございます。お加減、いかがでしょうか」

「ああ。平気」

「本日は散髪のご予定でございます。まずは朝食をどうぞ」

ダイニングの照明をつけ、朝食を用意。メニューは、トースト、スクランブルエッグ、焼きトマト、プレーンヨーグルト。飲み物は、いつものコーヒー。

ご主人様、無言で着席。食事中も特に会話なし。咀嚼や飲み込みの様子に異常は見られず。

「うまい」

「ありがとうございます。お口に合って何よりでございます」


私は記録する「朝食時の嗜好と反応。コーヒーの定着と味覚の安定傾向」


食器を片付け、服を準備。外の気温に合わせて軽めの装いを提案。ご主人様、黙って了承。玄関を出て、新しくできた商業エリアへ徒歩で向かう。


美容室に到着。予約を確認し、ご主人様は椅子に座る。カットの所要時間は約35分。終わる頃には、表情が少し柔らかくなり、視線の動きも自然に。

「悪くない」

「お似合いでございます。次はカフェに向かいますか?」

商業エリア内のカフェに到着。店内には4人の客。音量は問題なし。

「ご注文をどうぞ」

「おすすめのコーヒー。ホットで」

「かしこまりました。私はアールグレイをいただきます」

席に着いてから、店内を見回す。壁際にコーヒー豆の販売棚を確認。

ご主人様、立ち上がって棚の前へ。視線の動きから、3種類の豆に興味を示している。店主が近づき、会話が始まる。

「どれにしようか迷っててな」

「お好みはございますか? 苦味、酸味、香りの強さなど」

「酸味は強すぎないほうがいい。香りは……華やかすぎないやつ」

「でしたら、こちらの浅煎りはいかがでしょう。柑橘系の香りは控えめで、後味はすっきりしています」

「試飲は?」

「本日はご用意がございませんが、今朝焙煎したばかりです。香りだけでもお確かめいただけます」

ご主人様、袋を開けて香りを確認

「……これにする」

「ありがとうございます。朝の一杯にもぴったりですよ」

「ありがとう」


私は記録する「嗜好に基づく選定行動。香りの確認による判断と購入決定」


購入を終えて帰宅。

夕食前に、買った豆を使ってコーヒーを淹れる。抽出時間は3分12秒。香りは良好。ご主人様、カップを手に取り、ひと口。

「……うん。悪くない」

「お気に召して何よりでございます」

少し間を置いて、ご主人様が言う。

「……朝食後のコーヒー、これにしてくれ」

「かしこまりました。今後は朝食後の定番としてご用意いたします」


私は記録する「新規購入品の定着。朝食後の習慣として正式採用」


業務完了

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

ワインを注ぎ、窓辺へ向かう。夜の街は静かで、遠くの光が瞬いている。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

グラスを傾け、静かに香りを確かめてから、ひと口、まるで時間ごと味わうようにワインを喉へ流し込む。


また、次の日記で——

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