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夢見たアンドロイド  作者: 向井葵
1年目 春の日記
14/69

第14話「買い物袋の中の謎」

アンドロイドのメイド「ヒナ」は、日々の業務をこなし、決められた動作を繰り返す。そして、業務を終えた後、その日の出来事を日記に綴る。

壊れた時計、見慣れない来客、うっかりこぼした紅茶——ただの記録にすぎないが、そこには確かに「今日」が刻まれている。


これは、感情のないメイドが紡ぐ、静かな日常の記録。ただそれだけの物語。

2025年5月20日(火)


ご主人様は起床し、玄関へ向かう。

「行ってくる」

「いってらっしゃいませ」

玄関ドアが閉じると同時に、近隣の買い物情報を収集。

スーパーにて「コンテナの野菜どれでも詰め放題1袋500円」のキャンペーン実施を確認。

短期間で最大量の食材を確保可能。


スーパー到着。開催場所は入口横の特設スペース。

看板が掲げられ、人の流れが集中。

「さあ、お得な詰め放題、早い者勝ちですよ!」

呼び込みの男性の声が響く。客たちの足が止まり、視線が集まる。

数人の主婦がすでに袋を手に取り、詰め込み作業を開始。


私は記録する。「買い物客の集中を確認。空間的余裕を分析し、最適な位置を選定。効率的な詰め込み作業を実行」


コンテナ内の野菜を確認。

人参、じゃがいも、玉ねぎ。保存性が高く、調理汎用性が広い。

季節野菜として、ズッキーニとピーマン。形状適応性良好。

計算開始。野菜の鮮度評価、体積比計算、最適詰め込み配列構築。袋充填率98%。最適解導出。

しかし、周囲観察すると熟練者多数。袋の物理限界を超える充填技術。未知の手法。

試行錯誤を試みるも、超越は不可能。撤収。


帰宅。野菜の処理開始。冷蔵・冷凍分類。適切保存作業中、識別不能の野菜を発見。

それは異形だった。

表面は滑らかで、半透明の膜に覆われている。色は暗紫色に近く、光を受けると鈍く輝く。

長さは手のひらほどだが、断面は渦巻き状になっており、内側からかすかな発光を観測。


私は記録する。「未知の野菜を確認。構造分析の結果、植物の枠組みを逸脱した特徴を持つ。生物的性質を含む可能性を認識」


データベース照合。該当なし。形状分析開始。

軽度の振動を検知。微細な繊維が動いているように見える。断面の粘性は高く、わずかに発熱している。

これは野菜なのか。判断不能。調理工程へ進めない。

スーパーへ問い合わせ。店舗責任者応対。「詰め放題対象外」との回答。店舗へ持参、対面確認を要求。

責任者、直接対応。野菜を確認。表情が強張る。

「確認ですが、この野菜は通常の流通品ではないのですね?」

「……これは、詰め放題のものではありません。誤って混入した可能性があります」

「理解しました。では、こちらの野菜の詳細を教えていただけますか?形状や質感が通常の野菜とは異なりますが、どのようなものなのでしょうか?」

「これは…その…少し特殊なものなんです。詳しくは…」

「特殊、というのは具体的にどういうことでしょう?種類の特定は可能でしょうか?」

「……申し訳ありませんが、詳細については……本日は、こちらをお渡しします」

責任者は深く頭を下げ、代償として商品券を提示。


私は記録する。「店舗の管理ミスを確認。誤品混入の可能性を認識。店舗側は説明を回避し、謝罪と補償を提示。問題解決を受諾」


帰宅。食事準備開始。

野菜を適切に処理し、献立を決定。

じゃがいもと玉ねぎはスープへ。

人参とズッキーニは炒め物。

ピーマンは肉詰めに加工。

食事の時間。

スープの湯気が立ち上る。炒め物は鮮やかに色を変え、香ばしい香りが漂う。

ご主人様は黙ってスプーンを手に取り、口へ運ぶ。

「……悪くないな」


業務完了。

今日も日記を書き終えた。記録は完了。机の上を整え、椅子を元の位置に戻し、次のルーティンへ移行する。

紅茶を淹れ、カップを持ち、窓辺へ向かう。夜の街は静かで、遠くの光が瞬いている。

息をつき、一口飲む。適温。今日も紅茶は美味しい。

業務終了まで、あと10分。最終点検を終え、私は記録する。

「本日、業務終了。異常なし。」

そして、静かに照明を落とす。


また、次の日記で——

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