第43話 目覚めの声
その日、私は山奥の岩の上で瞑想をしていた。
滝の音を聞きながら無我の境地に達したその時、脳内に声が響き渡る。
『――目覚めるのだ、剣聖リゼン』
別に神と交信できたわけではない。
その声は聖剣シアレスのものであった。
私は目を開いて応じる。
「おや。久しぶりですね。どこから思念を飛ばしているのですか」
『東の海を越えた先にある砂漠の大陸だ。勇者の魔力が増大したことで、遠距離でも話せるようになった』
「それはそれは。はるばるお疲れ様です」
砂漠の大陸とは、邪悪な魔術の乱発によって汚染された地域である。
かつてはいくつかの国が存在していたが、度重なる戦争の果てに汚染されて消滅したという。
現在は変異した魔物が跋扈する危険地帯になっているそうだ。
そのような場所に勇者パーティーはいるらしい。
何らかの調査だろうか。
以前までの彼らの実力では、まず踏み込めなかったはずの地域である。
仮にそこで通用しているのならば、相当な成長ぶりと言えよう。
(噂は聞いていましたが、真面目にやっているようですね)
私が勇者に聖剣を譲渡してから半年が経過した。
一行は順調に力をつけていた。
国内外を問わず地道に活動を続けて、数々の武功を挙げている。
現在は魔王がいないが、人類に牙を剥く脅威は少なくない。
そういった存在を倒すのが勇者の役目となっていた。
ある意味では、魔王だけに集中すればよかった時より忙しいかもしれない。
苦難を乗り越えながら、彼らは着々と強くなっている。
私はあれから辺境を渡り歩いている。
貴族や金持ちの商人を相手に契約を交わして、日銭を稼ぎながら生活していた。
たまに魔族を葬っていたが、別に特筆するようなことでもない。
契約に従順な守銭奴として活動している。
「それで、遥か遠方のシアレスさんが何の用でしょう」
『汝の助けが欲しい。大いなる悪が世界を牛耳ろうとしているのだ』
「ふむ。穏やかな話ではありませんね。詳しく聞かせてください」
私が促すと、シアレスは事情を話し始める。
なんでも砂漠の大陸に謎の組織がいるらしい。
彼らはかつて使用された魔術兵器の発見と修復し、それを使った世界征服が目的なのだそうだ。
『陰謀を阻止するため、我々は大陸に乗り込んだ。しかし、奴らの戦力は予想を超えて甚大だった』
完全武装した組織の戦力は凄まじく、勇者パーティーは劣勢に追い込まれたそうだ。
ほとんど未開の地に等しく、事前情報も曖昧だったのだろう。
早い話、相手の強さを見誤ってしまったのである。




