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第九話 夜戦

お待たせしました!

 


初夏の夜は短い。19時を過ぎても外は明るく長く、友達と遊び過ぎて両親から怒られた事がある人も多いだろう。気の早い蝉と蛙の演奏会を尻目に自転車を漕いで帰ったり、もしかして黄昏を背に彼女と他愛もない会話をしつつ自販機で冷たい炭酸飲料を二人で飲んだ者もいるにはいるだろう。


(※作者はそんな経験はありません)


 だがそんな初夏の夜も20時を過ぎれば完全に世界は闇の中、朧気に光る月と淡く瞬く星の世界。


 夏の夜の空は冬に比べて星の数は少ない。これは遅くまで光を出し続けた太陽の光と夜遅くまで賑わう街の光によって星の光が遮断され星の光が網膜まで届かないからである。


 だが今は違う。国土の約半分を占領され、電力不足により各地は計画停電を余儀なくされている。燃料も軍関係に優先的に回されている為に街が機能してない。現状、採掘できる全ての戦略資源を本土の乏しい採掘場に出来る限りの再生可能エネルギーの活用、試験段階だった海上採掘プラントを採算度外視で運用と新規建設を始めているがまだまだ足りない。


 その為この世界の夜は産業革命前夜にまで遡った。皮肉な事に、それまで目に届かなかった淡い赤い光で瞬く星々の光が地上に届き、古の歌人達が三十一字に遺した天の川はその本来の姿を取り戻したのだ。


 そんな人間が夜を克服してからあまり見られない幻想的な光景の元、人類種と異星人との生存戦争は続く。


 空はあんなに綺麗に瞬いていても地上は一寸先は闇の中。それはまるでこれから先の未来を暗示しているかのようだった。それが誰にどの種に対してかはわからない。


 そんな夜の闇を切り裂くとばかりにガソリン、ディーゼルのエンジン音と履帯とタイヤの進む音が響く。どれだけ静かに進もうとしようとこれだけは消せようもない。


 完全な灯火管制の中、車列は進む。見えるのは車両の車幅灯のみという最低限のものだ。車両を操る兵士達は暗視装置越しの緑色の世界で周囲を警戒する。


 これは自然にある光、つまりは月や星の光を増幅させ視界を得るパッシブ方式の微光暗視装置と言われる物だ。暗視装置は単眼式と双眼式がある。車両やヘリコプターなどの操縦者は、遠近感が重要になってくる為に双眼式を使う事が多い。


 余談だが単眼と双眼の二種類が大半を占める暗視装置だが、某お米の国では四眼式の暗視装置も開発され、実際の紛争や対テロ作戦などで使用されている。その内、蜘蛛の目の様に六眼式や八眼式なんてシロモノも出てくるかもしれない。


「大隊長、指定ポイントにはあと5分で着きます」


  赤色灯で薄暗く照らさせる車内に22式装輪装甲車指揮車仕様の車長が車内無線で伝えてくる。


「おう分かった。各車両は車間に気をつけろと伝達。ここで追突でもしてエビ共に悟られる訳にはいかないぞ」


 22式装輪装甲車は世界標準暦2022年に、皇国国防軍で正式採用となった装輪装甲車である。装甲材やエンジン効率の向上によって耐弾性や行動距離は、以前に正式化となっていた96式装輪装甲車よりも向上している。


 だが、この装輪装甲車の一番の売りは“ミッション・モジュール”と呼ばれる機構だ。後部の通常なら兵員室がある所を用途によって簡単に変更できる様になっている。例えば兵員輸送モジュールをそのまま外し、別の機能のモジュール、瑞浪少佐が乗っている様な指揮車モジュールや装甲救急車モジュールなど様々な仕様にモジュールを変えるだけで変更できるのだ。


 これの利点は、一つの車種で様々な用途に使えるという点だ。態々複数の車種を用意する必要がなく、維持費が低くなる。指揮用装甲車と兵員輸送装甲車、装甲救急車など其々専用に作るより一つプラットフォームを作って其処から派生する。いわゆるファミリー化した方が安く作れるのは目を見るより明らか。


 さらにプラスして一つの車種で済むと言うことはそれだけ整備部隊の負担も軽減されるという事だ。無論戦場ではこの22式装輪装甲車だけを使う訳でないが、車種の統合は財政的にも軍事的にベストな選択なのだった。


「夜島少佐から伝達です。117連隊からの重迫による攻撃準備射撃が5分後行われます」


「停車しろこれよりここで指揮をとる。各部隊は突撃発起点に着いたか?」


「各部隊、発起点にて待機中です。117iR(第117歩兵連隊)の中隊戦闘群も持ち場に着いたようです」


 腕時計を見つめ赤い非常灯の中ぼんやりと光る分針と動き続ける秒針。1秒、また1秒とその時間は迫る。もうここまで来たのだ後戻りはできない。


「……時間です」


 幕僚の一人がそう告げるとほぼ同時に、装甲に囲まれた車内にも分かるほどの爆音が彼方から木霊する。始まった始まってしまったのだ。


「では諸君仕事に取り掛かるぞ……今夜を長い夜にはしたくないからな」













 連隊隷下の重迫中隊から放たれた口径120mmの砲弾が敵に降り注がんとしていた同時刻、夜島少佐は中隊戦闘群と共にいた。第2中隊の本来の指揮官は元々負傷して現在は野戦病院にいる。今回の様な複数の部隊が密接に関わるときはやはり前線で指揮をする者が必要だ。


「始まったか」


 重迫撃弾が敵が潜む地域に降り注ぐ。その炸裂音が響くたびに奴らがバラバラに吹き飛んでいる。こちらに好都合な話だが奴らは夜を好まない。だからこそ我々人類はなんとか持ち堪える事ができている。それ故の夜間襲撃……夜襲だ。


 中隊隷下の火器小隊に所属する81mm迫撃砲三門も同様に砲弾を撃ち放つ。今夜の彼等の仕事は少ない、もう間も無く撃つにも難しい状況になる。


「大隊戦闘団、前進を開始しました」


 砲撃が止むと直ぐに大隊は行動を開始した。打ち合わせ通り時刻通りの行動だ盤面に狂いなし。機関砲の射撃の音と共にアイスキャンディーの様な曳光弾が闇夜を突き抜ける。戦闘が始まったのだ。


 少し前はこれで幾千の屍を晒してやる事ができたが、最近は流石の奴らも学んだのかそう易々とは死んでくれない。しかしいまだその威力は大なり。


 中隊戦闘群はまだ動かず、状況は奇襲から強襲へと移りつつある。兵達の緊張と恐怖を織り交ぜたストレスはまるでコップ縁ギリギリまで注がれた水の様にゆらゆらと揺れている。


「……敵のヤドカリが出てきました!」


「対戦車小隊、前方の敵部隊に向けて誘導弾を撃て。各小隊は前進を開始し射撃は自由、オールフリーだ。同士討ちには注意しろ」


 この時を待ってましたと言わんばかりに夜島少佐はタブレットを操作すると上空を遊弋する〈彗星〉に搭載された二発のATGM(対戦車ミサイル)が発射された。亜音速で飛翔し目標直前でホップアップすると目標とほぼ垂直の角度でダイブし目標へと迫る。


 命中と共に炸裂音が周囲に響き渡る。


『こちら中隊戦闘群、こちらの敵装甲兵器の沈黙させた。以後の行動は手筈通りに 送れ』


『こちら大隊戦闘団了解した。戦車中隊が現在、敵側面を攻撃中注意されたし 終わり』


 草むらから顔にドーランを塗り体のいたるところにカモフラージュ用の草木を生やした兵士達が立ち上がると粛々と前進を始める。


 作戦という程の作戦ではない。装甲部隊である大隊戦闘団が正面から強襲し、中隊戦闘群と機械化歩兵小隊を増強した戦車中隊が側背面から攻撃をするのだ。


 中隊戦闘群は装甲化されていない裸の部隊だ夜襲でもそれ相応の被害が出てしまう。それ故の側面からの攻撃を行う。足が速い戦車中隊は戦場を縦横無尽に走り回りつつ、敵陣地へ突入する。戦車という存在は、それが生まれた瞬間から戦場の王者だ。それはどれだけ歴史が移り変わろうとも変わらない。


 パッと世界に明るさが戻る。軽迫から照明弾が打ち上がったのだ化学反応したマグネシウムが放つ光は闇夜を切り裂く。この状況が奇襲から強襲に移り変わろうとしているのを示していた。


「現在の状況はどうなってる?」


「予定通りに動いています。敵をある程度足止めできてるようです。1〜3小隊は今の所、負傷者が出てますが戦死者は出ていません。7-2小隊は若干抵抗が厳しい様です」


「7-2小隊にMCV小隊を送って対処させろ。それでも難しいのなら敵の撃破ではなく膠着状態を維持、後で更に増援を送って殲滅させる」


 基幹部隊である第2中隊の1〜3小隊と迫撃砲小隊に加え、7-2小隊、MCV(機動戦闘車)小隊、対戦車小隊と中隊戦闘群隷下の全ての部隊が戦闘を行なっている。いくら警備兵達で増強したとしても大隊の様に正面から戦うのは難しい。


 主攻勢を行う大隊戦闘団を援護するいわば脇役の立ち位置にいる中隊戦闘群だが、よしんば人員が少ないので任務は中々に難しい、いや楽な任務など殆ど存在しないが。それ故に彼の周りには通信兵と徳山軍曹が率いる一個分隊しかいない。


「少佐もう少し下がった所で指揮した方がよろしいのでは?」


「夜戦でしかも強襲だ。下がったらまともな指揮ができんぞ」


 今彼等が指揮している場所は戦闘が行われている場所から数百メートルも離れていない。ほぼ最前線と変わらない位置だ。元々民家だったであろう瓦礫の山を盾に円周防御を取りつつ指揮を飛ばしている。


 頭上を真紅の光線弾が幾つも通り過ぎていく。こちらを狙っている訳ではない流れ弾には早々当たらない。当たる奴は運が無かっただけ。


 耳を澄まさなくても聴こえてくる両軍の発砲音に悲鳴と怒号にそれに混ざる不快な奇声。ここは正に地獄へ続く現世の縁だ。


 いつ敵が来るか分からない状況、彼の手には何時でも撃てる様に89式短小銃改が握られていた。


 こんな常人なら好き好んで来ようとは誰も思わない場所で指揮するのはもちろん理由がある。夜戦だからこそ密に連絡を取るためなのがもちろん理由の一つなのだがもう一つ別に一つ大きな理由がある。


 それは彼が中隊長代理だからだ。彼はあくまでも彼等が所属する第117歩兵連隊の4科長、兵站幕僚でしかない。2中隊の中隊長が負傷し指揮できないための臨時措置だ。そんな彼が後方の安全な場所でぬくぬくと指揮して良い顔をする者がいるか?


 だからこそ彼は最前線で指揮している。共に戦う者であればそれは戦友であり仲間だ。そういう連帯感、チームワークこそが軍隊なのだから。軍隊にワンマンプレー(勇者的行動)は必要ない。必要なのは戦友との共通意識と、あらゆる状況でも挫けない覚悟だ。


 グダグタ書いたが、要は安全な場所で指示だけする者と危険な前線で共に戦う者どちらを信頼できるか。これはそういう話だ。しかしだからと言って彼だって来たくてここにいる訳ではない。全てを表に曝け出して誰彼構わず泣き喚きたいし逃げ去りたい欲求は常に胸の中頃でゆらゆらと揺れている。


 それでも指揮官として動けているのは士官教育の賜物と部下が居るからこそだった。


「3/73th BnCTが敵前線を突破した模様です!それとMCV小隊と7-2小隊が敵を撃破しました!」


「良し!MCV小隊はそのまま敵を追撃、7-2小隊はMCV小隊の随伴だ。俺達はこれから2小隊と合流する!」


 彼はそう言うとすくっと立ち上がる。その命令にいち早く意図を感じ取った徳山軍曹は後を追うように直ぐに立ち上がった。


「お前ら何少佐が立ってらっしゃるのにボサッと伏せてるんだ!全員立て!聞いたなこれから第2小隊と合流する!通信兵は夜島少佐のお側から離れるなよ!」


 山賊すら震え上がらせる様な声色は兵たちを瞬時に立ち上がらせた。これこそが戦場で戦い続けた歴戦の下士官が出せる風格なのだろうか。


 夜島少佐を中心に彼等は廃屋や土手の影を通る。敵に見つからずが最適だが、まぁそう上手くはいかない。


「て、敵だっ!11時の方向、4いや5体はいます!」


 誰かが叫んだその言葉で大半はまずそちらを向く事しかできなかった。ソレを確認し慌てて銃口を向けるそれが大半の新兵達だ。方向が叫ばれたと同時に既に銃口をそちらに向けていたのは徳山軍曹と夜島少佐の二人だけだった。


 しっかりと敵の姿を照準器越しに確認したのと同時に二つの銃声が重なり響く。


「お前ら何やってる!撃て!撃てっ!」


 その言葉に弾かれるかのように続々とマズルフラッシュが増えていく。不意の遭遇戦で勝つのは、先に見つけるか先に攻撃を仕掛けるかだ。西部劇のガンマンの様な先に抜かせるなんてしない、先に撃ち先に殺すそれだけだ。


 あっという間に5体の異星人は相手は撃ち返す暇もなく、この異星の地で誰からも看取られることも無く骸となった。奴等に神がいるかは知らんが母星から遙か彼方のこの地では威光も届かないだろう。


「夜島少佐ご無事でしたか!」


「園田少尉か二小隊はどうなっている?」


 死しただろうエビ共に確実な死を授ける為に脳天に銃弾を撃ち込んでいると。銃声を聞きつけてか第2小隊が合流した。


「前面の敵部隊は少しずつですが後退してます。5名ほど脱落しました負傷が4死亡が1です、戦闘可能な軽傷者は含めてません。それより少佐、合流して何をなさるのです?」


 彼は少し考え込む仕草を数秒したのち命令を下す。


「こっちの人数を合わせれば50人強……いけるな。少尉これから突撃をかけるぞ。通信兵他の……2中隊隷下の小隊にも同時に突撃させる様に連絡。MCVと7-2はそのまま追撃を続けさせろ。軽迫とATはこちらが指定した区域に射撃だ」


 その言葉にその場にいた者達はどよめきを隠せなかった。なんせ彼等は主攻勢である3/73大隊戦闘団の援護程度にしか考えてなかった。命令をそのまま受け止めたのは徳山軍曹をはじめとした数名の下士官、古参兵ぐらいで園田少尉も困惑の色を隠せてなかった。彼は今はまだ数少ないピカピカの新任の少尉だった。


「そんな……嘘でしょう?」


 空に一瞬の闇が訪れた。照明弾がその化学反応を使い果たし燃え尽きたのだ。だがまた照明弾が打ち上がり闇夜を掻き消す。


「少尉ここはどこだ我々は何と戦っている?」


「わ、我々の祖国で……我々の祖国を荒らす異星人共です」


 静寂はなく、唯々聞こえるのは銃声に怒号、悲鳴に形容し難い叫び鳴き。ここはとっくの昔に鉄火場だ。躊躇が己を殺し無謀が仲間を殺す世界。


「そうその通り、そのクソッタレな異星から来た甲殻類モドキ共は我々を恐れ逃げている今が粉砕しどきだ。なに安心しろ突撃には俺も参加する」


 中隊突撃する為に兵士達は銃口に銃剣を装着し残弾少なくなったマガジンを取り替えて、手榴弾をいつでも投げれる様にボディアーマーのPALSウェビングに吊り下げている。


 ずるい一言だと我ながら思う。指揮官が自ら突撃すると宣言して嫌ですと言える軍隊はないそのように訓練学校で教育するからだ。上官の命令には従わなければならないそう教育だ。


 そして彼等は……なによりも餓えていた、この手で故郷を蹂躙し尽くしつつある異星人共をこの手で殺す事を。


 銃弾で手榴弾で拳銃で銃剣でスコップや果てには己の拳で。そのために彼等はこのクソッたれな地獄の一丁目のような戦場を生きている。


 人間というのは身勝手なもので上からの命令と明確な目的があればソレを行ってしまうも。例え行う寸前まで拒否感があったとしても一度始めれば命令を忠実に行う。それが軍隊というものだ。


「2中隊突撃準備完了!」


 ゆっくりと片手を上げ息を吸い込む言葉を詰まらせないように。命令を噛むのはどこの軍隊でも良くない。兵に部下に舐められる原因になる。


「第二中隊!突撃ぃ〜前へ!」


 言葉はすんなり口から出た。その言葉通りに兵士達は駆け出したその命令を忠実に実行するために。


 周囲から喊声が響く目標は敵集団ただ一つ。


「進めぇー!エビ共が出てきたら撃ち殺せ!」


 小銃を腰だめに構え走る。もうこの状況になってしまうと出来る事は走る事と敵が現れたら撃ち殺す事だけ。


 二匹の異星人が飛び出した。一匹は飛び出た瞬間に20近くの小銃の砲火にされされ穴だらけになった。もう一匹の方は5つの銃剣で刺されゼロ距離射撃によって死んだ。


 順調に前進は続くしかしそう上手いこと事が進むことがないのが戦場だ。


 突如待ち構えていたかのように異星人共が作った簡易陣地にぶち当たった。そこら辺にあった廃材や異星人が地球に持ち込んだよく分からん機械で防御陣地。真紅の閃光が幾筋も見えたかと思うと五人の兵士が穴だらけになって崩れ落ちた。


「敵の陣地だ!手榴弾!LAMも使え!」


 仲間が崩れ落ちたのを見るないなや皆物陰に隠れるか伏せた。閃光弾が上がっていると言っても影はあるし伏せた方が投射面積が少なく当たりにくい。倒れた仲間を物陰に引きずり込み、手榴弾を投げつける。


 それだけでは足りずLAMを撃ち陣地を無力化する。


 LAMとは110mm個人携帯対戦車弾の事でドイツのダイナマイト•ノーベル社が開発した使い捨て式の携帯式対戦車兵器パンツァーファスト3を110mm個人携帯対戦車弾、通称LAMとして皇国陸軍が採用した。


 放たれた口径110mmの成形炸薬弾頭は敵陣地に突き当たるとモンロー/ノイマン効果によりメタルジェットが陣地を突き破った。


「陣地に乗り込め!ここを制圧したら突撃を終了するもうひと踏ん張りだ!」


 そう言って真っ先に陣地に向かって行ったは夜島少佐その人だ。


「なっ……!?しょ、少佐に続け!少佐を死なせるな!」


 その姿に園田少尉は驚きと困惑が隠せなかったがここで死なれては困るとその後に続き、ほかの兵達もその後を追うように陣地へと突撃する。


 夜島は陣地内へと躍り込み目の前にいた敵に腰だめで89式短小銃を撃ち込む。至近距離でまともに銃弾を受けた異星人はその甲殻にいくつもの風穴を開けられ、そこから気味の悪い体液を吹き出しながら倒れた。


 一人やっただけでは安心できないここは敵のど真ん中だ。弾倉に残った弾丸を消費する様に横薙ぎに銃撃を加える。数匹当たったのが見えそこでガチンッ!と音を立てて銃は止んだ。弾が切れたのだ。


 それを知ってか知らずか一匹がこちらに突っ込んでくる。小銃では対応できない弾倉を入れ替える時間はなく、この小銃には銃剣が着けれない。


 このまま行けば敵の攻撃をまともに受けたら死ぬだろう。体格差が違うこちらが精々1.7mぐらいだとしたら奴らは2mを優に越す。だが彼は慣れ切った動作で左手を小銃から離し、腰のホルスターに収められた大型拳銃、11.4mm拳銃二型を引き抜くと異星人の中心、胸を目掛けて引き金を引いた。


 一発で仕留められるなんて幻想を信じちゃいない。だから何度も何度も敵が動かなくなるまで引き金を引く。


「少佐!ご無事ですか!?」


 時間にして数分も経たない出来事だった。11.4mm拳銃二型の弾倉に込められた10発の.45ACP弾を撃ち切る前に2小隊と徳山軍曹が率いる護衛分隊がやってきたからだ。


「遅いぞ軍曹。園田少尉!2小隊はこのまま攻撃を続行。追い込み漁だ大隊戦闘団の方に追い込んでやれ!」


 叱責の言葉はただ一言だけだった。指揮官が単独で突撃するなんてと徳山軍曹は口を出そうとしたが、すでに彼は拳銃をホルスターに収め、小銃に新たな弾倉を装填し後退していく敵へと照準を定めていた。


 異星人達の軍勢はすでに敗走へと片足を突っ込んでいる。


「少佐……せめて護衛を置いてくのはやめて下さい寿命が縮みましたよ」


「次は気をつけるそれよりも軍曹も撃て。楽しい楽しい逃げてくエビ共を使った的当てゲームの始まりだぞ?」


 普段では到底出てこない言葉に、血に酔うというのは星辰の彼方からきた異星人達の血でも酔えるのだなと彼は自嘲気味に笑った。


 その姿に分隊の兵士面々は畏敬の念が籠もった眼差しを向けるが直ぐに己の職務に戻った。あの笑い顔が今度がこっちに向けられるのを恐れたからだ。


 それから数時間後敵大隊は殲滅された。時間にして1日は驚異的なスピードであった。



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