帰還と顔合わせなの
フィールドには私たち3人以外は誰も居ない。
本来なら、レイドボスが倒された後に報酬が配布されたりするのだけど、運営が集計するからその時になるのだろう。
「終わったの?」
「そうですね。流星は星になってしまい、すぐに決闘の再開は難しいでしょう。このまま私が少し進めばゴールですが、あの流星は今の私では捉えきれなかった。そんな私がエースを名乗るのはおこがましいというものです」
「あっそ。じゃあデス子ちゃん、街に戻ろっか?」
そのままログアウトした久我は無視して、姫さんの待つ街へとデス子ちゃんと共に帰還する。
そこには『西部劇のロード』団員を始めとして、姫さんやプレイヤーが盛大に打ち上げを行なっていた。
「いよっしゃァアアアア!! 今日は夜まで宴会だァ!!」
「団長、あの店のNPCとは話をつけました。素材さえ持ち込めば貸し切りできるそうですよ」
「でかした! よしお前ら、今日は俺たち『西部劇のロード』が全額負担する! 騒ぎたいやつは店まで走れ!!」
「ウォォォオオオオオ!!!」
……元気なことで。
私たちにはチラッと視線を向けることはあっても、大した興味はないみたい。
実際に倒したのは流星だし、悔しいけど草の活躍あってこそだ。
ただ走っていただけの私たちはそうですよね。
「うん? 決闘はもういいのか?」
「ええ。お兄ちゃんもいないし、久我も消えちゃったもの」
「2人だけか。次期エース候補としてタカマチに張り切ってもらいたかったが、あれは厳しかったか」
ポン、と姫さんに頭を触られた。
「え、別に悔しくないけど?」
「そんな強がらなくてもいいぞ。どれ、私の胸で泣くが良い」
「姫さんの胸? ……痛い痛い! ごめんなさい!」
胸なんてどこに? という視線に気づいたのか、抱きしめる……ではなく、絞め殺すような強さでハグされた。
私と同じで、胸にクッションがないから余計に痛い。
「でもタカマチはいいじゃない。これでも第一形態を倒した功労者だもの」
「だな。私の功績も合わせると、我々アジシャンが一番活躍したと言っても過言ではない。これは、報酬でついに野望が叶うかもしれないな」
野望って何? と聞いても「いずれわかるさ。いずれな」と答えて教えてくれなかった。
何人かに打ち上げへ誘われたけど、全部姫さんが断っていたので私たちも断る。
でも……少しは他の人とも仲良くしたかったな。
現実世界に戻ってくると、流星や久我、クルセさんや草が勢揃いしていた。
「まずはお疲れ。といっても、流星がトドメをさしたが」
「ああ。漆黒のウィードあっての成果だ。お前という仲間を誇りに思う」
「ヘヘッ、照れるぜ。俺だってアジシャンの一員だからな!」
ニヤニヤした草。
確かに功績は認めるけど、なんか気に入らない。
「でも運営には草の存在って把握されているの?」
「当たり前だろ! あれだけ活躍した俺様を、運営が知らないわけが……」
「しかしそうですね。スキルを発動していたといっても一瞬。かの草さんが残したと運営が気が付かなければ、回復薬を渡していた彼らより貢献度は低いかもしれません」
「嘘……だろ?」
どちらにせよ報酬が配布されたらわかることだ。
アヴァロン・トラジティは今日の日付が変わった頃に緊急メンテへ移行し、明日の午後にはメンテ明けするとのこと。
今までBANされたアカウントの復活と、報酬の配布をそこでするみたい。
「さて諸君。君たちの協力のおかげで私の目標に一歩近づいた。一泊二日という集まりで、無事に成し遂げたことに感謝する」
「水臭いぜ。しかし、顔を合わせれたしいい機会だったな」
「同感。これで安心して距離をおける」
「おいどういう意味だコラ」
オフ会。
知らない人と会うのは緊張したけど、まずは知り合いが一緒でよかった。
隣にいるデス子ちゃんとは学校も一緒だし、これからも仲良くできそう。
「さて、私は明日も仕事がありますので失礼しますよ。実に有意義な時間でした。今度こそゲーム内でエース決定戦を行いましょう! まだまだ語り足りないので、今度の週末にでもまた集まって――」
「久我は電車だったな。先に駅まで送っていこう」
クルセさんが強制連行していった。
草も受験生なので一緒に帰るとのこと。
「新人は気に入らねぇが、流星さんはマジリスペクトしてます! これからもよろしくお願いしますね!」
「ああ、よろしく頼む」
私にガンつけて草はどっかいった。
なんだろう、あの態度。
やることなすこと、ここまで合わない人というのも珍しいけど。
「青春だな。命短し恋せよ乙女ってね」
「姫さんも若いじゃないの」
「ほう。まさかタカマチがそう言ってくれるとはな。ただ、旦那以外の愛は必要ない」
確かに既婚者の姫さんには関係ないことだ。
でも恋って? まさか草が私に?
「あれはタカマチに惚れているというより、ライバル視ね」
「ですよねー? もう、姫さんったら紛らわしいのだから」
「いやあれは……ま、本人が良いならそれでいい」
こうして、アカウントを賭けたアヴァロン・トラジティのイベントは終了した。
私たちは流星に家まで送ってもらい、初めてのオフ会は幕を閉じる。
次の日。
ログイン制限が解けたこともあって、彩ちゃんとゲーム内で会うことになった。
報酬も気になったし、ちょうどメンテ明けということもあって待ち合わせも指定。
私の活躍を電話で語ったのだけど、何故か彩ちゃんの反応が微妙だったのよね……デス子ちゃんとか流星とかの名前を出したのがいけなかったのかもしれない。
「この噴水前で待ち合わせのはずだけど」
ゲーム内のフレンド登録をしたら良いとも思ったけど、実際に会わないと登録はできない仕様だ。
彩ちゃんは見つからなかったらメッセ送るとか言っていたけど、名前も教えていないのにどうやって送るのだろう?
「え、メッセ? 誰から?」
内容は『今噴水の後ろにいるよ』というメッセージだった。
ギルドメンバーか、フレンドからしか受信しないはずだけど。
けど、このメッセの送り主……そしてフレンド欄に表示される名前。
目の前には、見たことのある薄着の女性が手を振って立っていた。
「はじめまして、じゃないね。タカマチさん?」
「え、彩ちゃん? 私を蹴り飛ばしたあの痴女シーフが彩ちゃんなの?」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない……っ!」
小鳥遊彩花。
リアルでできた友人は、いつしか一緒にデーモンを倒したシーフさんでした。




