プレイヤーの総力戦なの!
私たちがリビングへ戻ると、そこでは男子会? が開催されていた。
「ようやく出番か」
「おおっ! タカマチ殿。死んでしまうとは情けない!」
「久我……久我じゃないの! あの時のアレって何だったの?」
あの時。
確かに逃げ遅れて、姫様共々潰されたと思った。
けど、実際にダウンしたのは久我ひとり。
あれ、身代わりになってくれたのよね?
「あれはディメンションランナーのスキルで、対象と対象の居場所を入れ替えることのできるスキルですよ。実は決闘前に鏡を忍ばせていましてね。その鏡を所持する場所へ瞬間移動できるわけですよ」
「ああ。だから久我と決闘する際は鏡を仕込まれていないか確認する必要がある。油断すると一瞬で逆転されることになる」
「でも鏡なんて」
「タカマチ君には私が仕込んである。ポケットを探ってみたまえ」
言われて手を入れてみると、小さな折りたたみ鏡が出てきた。
これが目印ってこと? こんなの言われなければ普通に使ってしまいそうな小道具だ。
「他にも条件はありますが、今回はそれで我らが姫様を守ることに成功しましてね。上手くいきましたよ」
「知らされていなかったのは癪だけど、助けてくれてありがとう」
聞くとデス子ちゃんも知らなかったらしく、久我をゲシゲシ蹴っていた。
「戯れるのはいいが、そろそろ倒された頃じゃないか? HPは残り僅かだったんだろ?」
「ああ。我々で倒せなかったのは残念だが、他のギルドの有志が倒した頃合いだろう。なあに、タカマチ君が初めに倒してくれたおかげで、貢献度は十分だ」
あと数発で第二形態のトドメもさせたのに、ちょっともったいないことをしたかな?
今ゲームにログインできるのは流星と草の2人。
どちらかがインして情報を持って帰ってこないと、私たちは状況を知ることができない。
インしなくても掲示板にログインできれば楽なのに。
「そういえばアイツは?」
「まだ寝てるらしい。さっき起こしたが、二度寝でもしたか」
「さすが闇の住民、朝は弱いのね」
「アイツ何しに来たのよ」
結局ボス戦には参加しないし、活躍したのは情報収集してお菓子買ってきたくらい?
ただの雑用係じゃないの。
「ここは俺が行こう。状況を把握し、1時間後には戻ってくる」
「すまない流星。よろしく頼む」
うちのエースしかログインできないなら仕方ない。
情報は大事だし、アカバンの囚人があの後どうなったかも気になるし。
せめてリアルでもゲーム内の知り合いがいれば、情報共有できるんだけど……ここにいるメンバー以外で。
「そういえばクルセさんって、他ギルドと交流はないの?」
「あるにはある。だが傭兵を名乗っている以上、あまり親しくはしないな。現にアジシャンズのアジトにも近づかないだろう?」
「たしかに」
いろんなメンバーとパーティは組むけど、一期一会を大事にしているそうな。
姫さんは……論外かな。
「その視線は言わなくてもわかる。あまり私を見くびらないでもらおうか」
「え、姫さんってトモダチいたの?」
「これでも初期プレイヤーだからな。ギルド同士の連携は取れるようにしてある」
何でもトップギルドの集まりに呼ばれるほど……ではないけど、個人的な交流はあるとのこと。
さっきからパソコンでカタカタしているのは、チャットでもしているのかしら?
「ねえ」
「何、デス子ちゃん」
「貴方姫様に失礼じゃない?」
指摘されて、私と姫さんは視線を合わせる。
……確かに失礼な物言いばかりしていたけど、あれで姫さんはアヴァロン・トラジティでも有数の実力者、らしい。
ステータスは平凡どころか底辺だけど。
「気にするな。そういう人物が1人いたほうが新鮮味に溢れるというものだ。それに」
「げ……」
私の前に、練乳に浸かったままのトーストが出される。ご丁寧に生クリームもたっぷり乗せてある。
「そのほうが仕返しされても文句は言えないだろう?」
「…………いただきます」
胸焼けがしそうなくらい、とっても甘ったるい朝食でした。
「詳細が判明した。どうやらまずいことになっている」
「どんなのだ?」
姫さんのパソコンを覗き込むクルセさん。
2人が夫婦ってことはわかっているけど、距離が近すぎない?
顔を向き合わせれば、キスでもしそうな距離感だ。
私は直視できず、思わず視線をそらしてしまう。
「これは……まずいな」
「何があったので?」
「簡単に言うとだ。第二形態は倒された。そして待機組を全て巻き込み、第三形態へ移行したらしい」
「え、どういうこと?」
他のギルドからもたらされた情報によると。
私たちが倒しそこねた第二形態を撃破。
レイド戦待ち、またはおこぼれ狙いの待機組が全て消される。
そして、第三形態の巨人が出現した。
「つまりどういうこと?」
「まずは落ち着くがいい。遠距離プレイヤーはほぼ全滅だな。マップを覆うような巨人を近距離職メインで倒さないといけない」
それほぼ無理よね?
まず近づけるのかも不明だし、アクティブユーザーはどれだけか。
さらに、情報はそれだけではなかった。
「街の中は安全だが、今回はマップ全てが戦闘領域となる。巨人故に移動範囲もだだ広いな」
「逃げ場はないに等しいのね」
第二形態のときは理不尽にBANされたみたいだけど、今回も何か罠があるのかしら。
姫さんが受け取った情報はまだ続きがある。
「まだ不確定情報ではあるが、街から出たプレイヤーのステータスが半分になったらしい。フィールド全てが敵の領域なら、我らは半分の力で奴を倒さないといけない」
「ダメ押しじゃない」
「最後に。巨人に挑む勇者たちよ。恐れを知らない戦士たちよ。我らと共に光を求めよ! と書いてある」
「ガリバー旅行記?」
「作戦名は『ドレッドノート』だと。奴が戦艦並みの強敵なのと、恐れ知らずをかけているのだろう」
そんなシャレたことを言われても、私たちの作戦はいつもひとつだ。
「どれ、流星が帰還次第、我らアジシャンズも出向くとするか」
「我らがエースと共にできないのは残念でありますが、話によると図書館サーバーの住民も集めて総力戦をしかけるとのこと。ちなみに待機勢までBANはさすがにないと掲示板が炎上しているようです」
すごくどうでもいいです。
「我らも総力戦だ。全員、全力で走れ!」
「やっぱり?」
「ああ、滅多にない機会だ。ステータスが半分になるというなら、番狂わせが起きてもおかしくない。実にワクワクするではないか」
「ふふ。次のエースは私。兄さんの代わりは誰にも渡さない」
「おやおやぁ! これは実況のしがいがありますねぇ! 総力戦など何ヶ月ぶりでしょうか。エースが交代するか見ものです!」
「えーと、ボスはどうするの?」
ポン、と唯一無関係であるクルセさんに肩を叩かれた。
「決闘メインだ。ボスは障害物、いいな?」
「ですよねー」
うん。
そろそろ私もわかってきた。




